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春秋左氏伝 / 襄公三年 祁奚、讎を挙ぐ

祁奚請老。晉侯問嗣焉。稱解狐。其讎也。將立之而卒。又問焉。對曰。午也可。於是羊舌職死矣。晉侯曰。孰可以代之。對曰。赤也可。於是使祁午為中軍尉。羊舌赤佐之。君子謂祁奚於是能舉善矣。稱其讎。不為諂。立其子。不為比。舉其偏。不為黨。商書曰。無偏無黨。王道蕩蕩。其祁奚之謂矣。解狐得舉。祁午得位。伯華得官。建一官而三物成。能舉善也。夫唯善。故能舉其類。詩云。惟其有之。是以似之。祁奚有焉。六月。公會單頃公及諸侯。己未。同盟于雞澤。晉侯使荀會逆吳子于淮上。吳子不至。楚子辛為令尹。侵欲於小國。陳成公使袁僑如會。求成。晉侯使和組父告于諸侯。秋。叔孫豹及諸侯之大夫。及陳袁僑盟。陳請服也。

新字:祁奚請老。晋侯問嗣焉。称解狐。其讎也。将立之而卒。又問焉。対曰。午也可。於是羊舌職死矣。晋侯曰。孰可以代之。対曰。赤也可。於是使祁午為中軍尉。羊舌赤佐之。君子謂祁奚於是能舉善矣。称其讎。不為諂。立其子。不為比。舉其偏。不為党。商書曰。無偏無党。王道蕩蕩。其祁奚之謂矣。解狐得舉。祁午得位。伯華得官。建一官而三物成。能舉善也。夫唯善。故能舉其類。詩云。惟其有之。是以似之。祁奚有焉。六月。公会単頃公及諸侯。己未。同盟于鶏沢。晋侯使荀会逆呉子于淮上。呉子不至。楚子辛為令尹。侵欲於小国。陳成公使袁僑如会。求成。晋侯使和組父告于諸侯。秋。叔孫豹及諸侯之大夫。及陳袁僑盟。陳請服也。

書き下し

祁奚、老を請ふ。晉侯、嗣を問ふ。解狐を稱す。其の讎なり。將に之を立てんとして卒す。又焉に問ふ。對へて曰く、「午や可なり」と。是に於て羊舌職死せり。晉侯曰く、「孰か以て之に代はるべき」と。對へて曰く、「赤や可なり」と。是に於て祁午をして中軍尉と爲し、羊舌赤之を佐けしむ。君子謂ふ、祁奚是に於て能く善を舉ぐ、と。其の讎を稱するも、諂ふと爲さず。其の子を立つるも、比(したし)むと爲さず。其の偏を舉ぐるも、黨すと爲さず。商書に曰く、「偏無く黨無く、王道蕩蕩たり」と。其れ祁奚の謂ひなり。解狐は舉げらるるを得、祁午は位を得、伯華は官を得たり。一官を建てて三物成る。能く善を舉ぐればなり。夫れ唯だ善なり、故に能く其の類を舉ぐ。詩に云ふ、「惟れ其の之を有す、是を以て之に似たり」と。祁奚焉有り。六月、公、單の頃公及び諸侯に會す。己未、雞澤に同盟す。晉侯、荀會をして吳子を淮上に逆へしむ。吳子至らず。楚の子辛、令尹と爲り、小國に侵欲す。陳の成公、袁僑をして會に如きて成を求めしむ。晉侯、和組父をして諸侯に告げしむ。秋、叔孫豹及び諸侯の大夫、陳の袁僑に及びて盟ふ。陳、服せんことを請ふなり。

現代語訳

祁奚(きけい、中軍尉)が引退を願い出た。晋侯(悼公)は後任を尋ねた。祁奚は解狐(かいこ)を推薦した。解狐は祁奚の仇敵であった。解狐を任命しようとしたところで、解狐は死んだ。悼公が再び尋ねると、祁奚は答えた。「午(ご、祁奚の子の祁午)がよいでしょう」。ちょうどそのとき、中軍尉の補佐であった羊舌職(ようぜつしょく)が死んだ。悼公は言った。「誰に代わらせればよいか」。祁奚は答えた。「赤(せき、羊舌職の子の羊舌赤、伯華)がよいでしょう」。そこで祁午を中軍尉とし、羊舌赤にこれを補佐させた。君子は言った。祁奚はこのとき、よく善人を推挙することができた。仇敵を推薦しても、それはへつらいではない。自分の子を立てても、身内びいきではない。自分の配下(羊舌赤)を推挙しても、徒党を組むことではない。『書経』の商書(洪範)に「偏らず、党派を作らず、王の道は広々としている」とあるのは、祁奚のことを言っているのだろう。解狐は推挙され、祁午は地位を得、伯華(羊舌赤)は官職を得た。一つの官を立てて、三つのことが成就した。よく善人を推挙できたからである。そもそも自身が善であるからこそ、同じく善である者を推挙できるのだ。『詩経』に「その徳を持っているからこそ、それに似た者を見出せる」とある。祁奚にはその徳があった。六月、襄公は単の頃公(ぜんのけいこう、周王の卿)および諸侯と会した。己未の日、雞沢で同盟を結んだ。晋侯は荀会(じゅんかい)を遣わして淮水のほとりで呉子を出迎えさせたが、呉子は来なかった。楚の子辛が令尹となり、小国に貪欲に要求を重ねた。陳の成公は袁僑(えんきょう)を会に遣わして講和を求めた。晋侯は和組父(わそふ)を遣わして諸侯にこれを告げさせた。秋、叔孫豹と諸侯の大夫たちは、陳の袁僑と盟約を結んだ。陳が服従を願い出たのである。

解説

「祁奚、讎を挙ぐ」として名高い人事の話である。引退する中軍尉の祁奚は、後任にまず仇敵の解狐を推し、解狐が亡くなると自分の子の祁午を推し、補佐の羊舌職が死ぬとその子の羊舌赤を推した。仇を推しても媚びではなく、子を推しても身びいきではなく、部下を推しても派閥づくりではない。君子はこれを『書経』の「偏無く黨無く、王道蕩蕩たり」に重ねる。後世「外挙は仇を避けず、内挙は親を避けず」と言われる故事のもとである。ここで大事なのは、推薦の基準が仇か身内かという関係の側にではなく、職に適うかどうかの一点にあることだ。関係を気にして身内を避けるのも、実は関係に縛られた判断である。君子はさらに、善なる者だからこそ善なる者を見抜けると言い、推薦の質は推薦者自身の質の反映だとしている。人事で公正に見えることと、公正であることは同じではない。祁奚の推挙は、その違いを考えさせる。

この章句が説くこと

人材登用公正無私推挙後継者

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