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春秋左氏伝 / 昭公二十八年 唯だ善の在る所

雖與之縣不亦可乎。昔武王克商。光有天下。其兄弟之國者。十有五人。姬姓之國者。四十人。皆舉親也。夫舉無他。唯善所在。親疏一也。詩曰。唯此文王。帝度其心。莫其德音。其德克明。克明克類。克長克君。王此大國。克順克比。比于文王。其德靡悔。既受帝祉。施于孫子。心能制義曰度。德正應和曰莫。照臨四方曰明。勤施無私曰類。教誨不倦曰長。賞慶刑威曰君。慈和遍服曰順。擇善而從之曰比。經緯天地曰文。九德不愆。作事無悔。故襲天祿。子孫賴之。主之舉也。近文德矣。所及其遠哉。賈辛將適其縣。見於魏子。魏子曰。辛來。昔叔向適鄭。

新字:雖与之県不亦可乎。昔武王克商。光有天下。其兄弟之国者。十有五人。姫姓之国者。四十人。皆舉親也。夫舉無他。唯善所在。親疏一也。詩曰。唯此文王。帝度其心。莫其徳音。其徳克明。克明克類。克長克君。王此大国。克順克比。比于文王。其徳靡悔。既受帝祉。施于孫子。心能制義曰度。徳正応和曰莫。照臨四方曰明。勤施無私曰類。教誨不倦曰長。賞慶刑威曰君。慈和遍服曰順。択善而従之曰比。経緯天地曰文。九徳不愆。作事無悔。故襲天禄。子孫頼之。主之舉也。近文徳矣。所及其遠哉。賈辛将適其県。見於魏子。魏子曰。辛来。昔叔向適鄭。

書き下し

之に縣を與ふと雖も、亦た可ならずや。昔武王商に克ち、光(おほ)いに天下を有つ。其の兄弟の國なる者十有五人、姬姓の國なる者四十人、皆親を舉ぐるなり。夫れ舉ぐるに他無し、唯だ善の在る所なり、親疏一なり。詩に曰く、『唯れ此の文王、帝其の心を度(はか)り、其の德音を莫(さだ)む。其の德克く明らかに、克く明らかに克く類し、克く長じ克く君たり。此の大國に王として、克く順ひ克く比す。文王に比(およ)びて、其の德悔い靡し。既に帝の祉を受け、孫子に施す』と。心能く義を制するを度と曰ひ、德正しくして應和するを莫と曰ひ、四方に照臨するを明と曰ひ、勤施して私無きを類と曰ひ、教誨して倦まざるを長と曰ひ、賞慶刑威あるを君と曰ひ、慈和にして遍く服するを順と曰ひ、善を擇びて之に從ふを比と曰ひ、天地を經緯するを文と曰ふ。九德愆(あやま)たず、事を作して悔い無し。故に天祿を襲(う)け、子孫之に賴る。主の舉ぐるや、文德に近し。及ぶ所其れ遠からんかな」と。賈辛將に其の縣に適かんとし、魏子に見ゆ。魏子曰く、「辛來たれ。昔叔向鄭に適く。

現代語訳

彼に県を与えたとしても、よいのではありませんか。昔、武王は商(殷)に勝って広く天下を保ちました。そのとき武王の兄弟で国を与えられた者は十五人、姫姓の一族で国を与えられた者は四十人で、みな身内を登用したのです。そもそも登用には他の基準はありません。ただ善がどこにあるかだけであって、親しい者も疎遠な者も同じです。『詩経』にこうあります。『この文王は、天帝がその心を量り、その徳の評判を定めた。その徳はよく明らかで、よく明らかによく善く、よく人の長となり、よく君となった。この大国に王として、よく人を従わせ、よく人と親しんだ。文王に至るまで、その徳に悔いはなく、天帝の福を受けて、子孫に及ぼした』。心がよく義に照らして判断できることを度といい、徳が正しく人々が応じて和することを莫といい、四方を照らし臨むことを明といい、勤めて施し私心がないことを類といい、教え諭して倦まないことを長といい、賞して慶び、罰して威を示すことを君といい、慈しみ和やかで皆が心服することを順といい、善を選んでそれに従うことを比といい、天地を秩序立てることを文といいます。この九つの徳を誤らず、事を行って悔いがなかった。だから天の禄を受け継ぎ、子孫はそれを頼りとしたのです。主君(魏献子)の登用は、文王の徳に近いものです。その恩恵の及ぶところは遠くまで至るでしょう」。賈辛が任地の県に赴こうとして魏子に挨拶に来た。魏子は言った。「辛よ、来なさい。昔、叔向が鄭へ行ったとき、

解説

魏献子の心配に対し、成鱄は武王の先例を挙げる。武王は兄弟十五人、同姓四十人を諸侯に封じたが、それは身内だからではなく、善があったからだという。「夫れ舉ぐるに他無し、唯だ善の在る所なり、親疏一なり」は、登用の基準をただ一つに絞った言葉である。身内であることは登用の理由にならないが、排除の理由にもならない。続いて『詩経』大雅・皇矣の文王をたたえる詩を引き、度・莫・明・類・長・君・順・比・文の九徳を一つずつ定義する。この定義は詩の語を徳目として読み解いたもので、判断力、公正さ、無私、教育、賞罰、慈和、善を選ぶことなどが並ぶ。登用する者に求められる資質の一覧としても読める。成鱄は、魏献子の人事は文王の徳に近いと結ぶ。身内を遠ざけることで公正さを示そうとすれば、それもまた基準をゆがめることになる。問われるのは関係の遠近ではなく、選んだ理由を説明できるかどうかである。

この章句が説くこと

人材登用親疏九徳公正基準

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