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春秋左氏伝 / 桓公十五年 父と夫と孰れか親しき

十五年春,天王使家父來求車,非禮也。諸侯不貢車、服,天子不私求財。祭仲專,鄭伯患之,使其婿雍糾殺之。將享諸郊。雍姬知之,謂其母曰:「父與夫孰親?」其母曰:「人盡夫也,父一而已,胡可比也?」遂告祭仲曰:「雍氏舍其室而將享子於郊,吾惑之,以告。」祭仲殺雍糾,屍諸周氏之汪。公載以出,曰:「謀及婦人,宜其死也。」夏,厲公出奔蔡。六月乙亥,昭公入。許叔入于許。公會齊侯于艾,謀定許也。秋,鄭伯因櫟人殺檀伯,而遂居櫟。冬,會於袲,謀伐鄭,將納厲公也。弗克而還。

新字:十五年春,天王使家父来求車,非礼也。諸侯不貢車、服,天子不私求財。祭仲専,鄭伯患之,使其婿雍糾殺之。将享諸郊。雍姫知之,謂其母曰:「父与夫孰親?」其母曰:「人尽夫也,父一而已,胡可比也?」遂告祭仲曰:「雍氏舎其室而将享子於郊,吾惑之,以告。」祭仲殺雍糾,屍諸周氏之汪。公載以出,曰:「謀及婦人,宜其死也。」夏,厲公出奔蔡。六月乙亥,昭公入。許叔入于許。公会斉侯于艾,謀定許也。秋,鄭伯因櫟人殺檀伯,而遂居櫟。冬,会於袲,謀伐鄭,将納厲公也。弗克而還。

書き下し

十五年春、天王家父をして來りて車を求めしむ、禮に非ざるなり。諸侯は車・服を貢せず、天子は私に財を求めず。祭仲專らにす。鄭伯之を患へ、其の婿雍糾をして之を殺さしめんとす。將に諸を郊に享せんとす。雍姬之を知り、其の母に謂ひて曰く、「父と夫と孰れか親しき」と。其の母曰く、「人盡く夫なり、父は一のみ。胡ぞ比ぶべけんや」と。遂に祭仲に告げて曰く、「雍氏其の室を舍てて將に子を郊に享せんとす。吾之に惑ふ、以て告ぐ」と。祭仲雍糾を殺し、諸を周氏の汪に屍す。公載せて以て出で、曰く、「謀婦人に及ぶ、其の死するや宜なり」と。夏、厲公蔡に出奔す。六月乙亥、昭公入る。許叔許に入る。公齊侯に艾に會す。許を定めんことを謀るなり。秋、鄭伯櫟人に因りて檀伯を殺し、遂に櫟に居る。冬、袲に會す。鄭を伐たんことを謀る。將に厲公を納れんとするなり。克たずして還る。

現代語訳

十五年春、周の天王が家父を遣わして(魯に)車を求めさせた。礼に反している。諸侯は車や衣服を貢ぎ物として納めるものではなく、天子は私的に財物を求めるものではないからである。祭仲が政治を独占していた。鄭伯(厲公)はこれを憂え、祭仲の娘婿である雍糾(ようきゅう)に祭仲を殺させようとした。郊外で宴を開いてもてなし、その席で殺す計画だった。雍姫(祭仲の娘で雍糾の妻)はこれを知り、母に尋ねた。「父と夫とでは、どちらが親しいのでしょう」。母は言った。「夫になりうる男は誰でもなれるが、父はただ一人だけだ。比べられるものか」。そこで雍姫は祭仲に告げた。「雍氏(夫)が自分の家を使わずに、郊外であなたをもてなそうとしています。私はそれを怪しく思いましたので、お知らせします」。祭仲は雍糾を殺し、その死体を周氏の池にさらした。厲公は雍糾の死体を車に載せて国を出て、言った。「謀りごとを女に漏らしたのだ。死んだのも当然だ」。夏、厲公は蔡に亡命した。六月乙亥の日、昭公が鄭に戻った。許叔が許に入った。桓公は斉侯と艾で会合した。許の処置を定めるための相談である。秋、鄭伯(厲公)は櫟の人の力を借りて檀伯を殺し、そのまま櫟に居座った。冬、(諸侯が)袲(し、宋の地)で会合し、鄭を攻めることを謀った。厲公を鄭に戻そうとしたのである。しかし勝てずに引き揚げた。

解説

権力を握りすぎた祭仲を、厲公が娘婿の雍糾に殺させようとする。計画を知った祭仲の娘雍姫は、母に「父と夫と孰れか親しき」と問う。母の答え「人盡く夫なり、父は一のみ」は、夫は誰でもなりうるが父は一人しかいない、という冷徹な論理だった。雍姫は父に告げ、夫は殺される。親族の倫理が政変の帰趨を決めた場面として、後代の儒者も議論を重ねた。これを受けた厲公の言葉「謀婦人に及ぶ、其の死するや宜なり」は、秘密を妻に漏らした雍糾を責めるものだが、そもそも義父を殺させるという計画自体の無理を棚に上げている。厲公はこの失敗で国を追われ、昭公が戻る。冒頭の周王が車を求めた記事は、天子が私的に財を求めるのは礼に反するという基準を示す。権力の集中を崩そうとするとき、誰にその役を担わせるか、その人がどんな板挟みに置かれるかを見誤れば、計画は内側から漏れる。

この章句が説くこと

権力集中板挟み機密責任転嫁親族

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