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尚書 / 書序

昔在帝堯,聰明文思,光宅天下,將遜于位,讓于虞舜,作《堯典》。虞舜側微,堯聞之聰明,將使嗣位,歷試諸難,作《舜典》。帝釐下土方,設居方,別生分類。作《汨作》、《九共九篇》、《稾飫》。臯陶矢厥謨,禹成厥功,帝舜申之。作《大禹》、《臯陶謨》、《益稷》。禹別九州,隨山濬川,任土作《貢》。啟與有扈戰于甘之野,作《甘誓》。太康失邦,昆弟五人,須于洛汭,作《五子之歌》。羲和湎淫,廢時亂日,胤往征之,作《胤征》。自契至于成湯八遷,湯始居亳,從先王居。作《帝告》、《釐沃》。湯征諸侯,葛伯不祀,湯始征之,作《湯征》。伊尹去亳適夏,旣醜有夏,復歸於亳。入自北門,乃遇汝鳩汝方。作《汝鳩》、《汝方》。伊尹相湯伐桀,升自陑,遂與桀戰于鳴條之野,作《湯誓》。湯既勝夏,欲遷其社,不可。作《夏社》、《疑至》、《臣扈》。夏師敗績,湯遂從之,遂伐三朡,俘厥寶玉。誼伯仲伯作《典寶》。湯歸自夏,至于大坰,仲虺作《誥》。湯旣黜夏命,復歸于亳,作《湯誥》。咎單作《明居》。成湯旣沒,太甲元年,伊尹作《伊訓》、《肆命》、《徂后》。太甲既立,不明,伊尹放諸桐。三年,復歸于亳,思庸,伊尹作《太甲三篇》。伊尹作《咸有一德》。沃丁既葬伊尹于亳,咎單遂訓伊尹事,作《沃丁》。伊陟相大戊,亳有祥桑穀共生于朝。伊陟贊于巫咸,作《咸乂四篇》。太戊贊于伊陟,作《伊陟》、《原命》。

新字:昔在帝堯,聰明文思,光宅天下,将遜于位,譲于虞舜,作《堯典》。虞舜側微,堯聞之聰明,将使嗣位,歴試諸難,作《舜典》。帝釐下土方,設居方,別生分類。作《汨作》、《九共九篇》、《稾飫》。皋陶矢厥謨,禹成厥功,帝舜申之。作《大禹》、《皋陶謨》、《益稷》。禹別九州,随山濬川,任土作《貢》。啓与有扈戦于甘之野,作《甘誓》。太康失邦,昆弟五人,須于洛汭,作《五子之歌》。羲和湎淫,廃時乱日,胤往征之,作《胤征》。自契至于成湯八遷,湯始居亳,従先王居。作《帝告》、《釐沃》。湯征諸侯,葛伯不祀,湯始征之,作《湯征》。伊尹去亳適夏,既醜有夏,復帰於亳。入自北門,乃遇汝鳩汝方。作《汝鳩》、《汝方》。伊尹相湯伐桀,升自陑,遂与桀戦于鳴条之野,作《湯誓》。湯既勝夏,欲遷其社,不可。作《夏社》、《疑至》、《臣扈》。夏師敗績,湯遂従之,遂伐三朡,俘厥宝玉。誼伯仲伯作《典宝》。湯帰自夏,至于大坰,仲虺作《誥》。湯既黜夏命,復帰于亳,作《湯誥》。咎単作《明居》。成湯既没,太甲元年,伊尹作《伊訓》、《肆命》、《徂后》。太甲既立,不明,伊尹放諸桐。三年,復帰于亳,思庸,伊尹作《太甲三篇》。伊尹作《咸有一徳》。沃丁既葬伊尹于亳,咎単遂訓伊尹事,作《沃丁》。伊陟相大戊,亳有祥桑穀共生于朝。伊陟賛于巫咸,作《咸乂四篇》。太戊賛于伊陟,作《伊陟》、《原命》。

書き下し

昔在(むかし)帝堯、聡明文思にして、光(あまね)く天下に宅(を)り、将に位を遜(ゆづ)らんとして、虞舜に譲る。『堯典』を作る。虞舜は側微なり。堯其の聡明なるを聞き、将に位を嗣がしめんとして、歴(あまね)く諸(これ)を難きに試む。『舜典』を作る。帝、下土の方を釐(をさ)め、居を方に設け、生を別ち類を分かつ。『汨作(こつさく)』『九共九篇』『稾飫(かうよ)』を作る。皐陶(かうえう)厥(そ)の謨(はかりごと)を矢(つら)ね、禹厥の功を成し、帝舜之を申(かさ)ぬ。『大禹』『皐陶謨』『益稷』を作る。禹九州を別ち、山に随ひて川を濬(ふか)くし、土に任じて『貢』を作る。啓、有扈(いうこ)と甘の野に戦ふ。『甘誓』を作る。太康邦を失ひ、昆弟五人、洛汭(らくぜい)に須(ま)つ。『五子之歌』を作る。羲和湎淫(めんいん)し、時を廃し日を乱る。胤往きて之を征す。『胤征』を作る。契より成湯に至るまで八たび遷る。湯始めて亳(はく)に居り、先王の居に従ふ。『帝告』『釐沃(りよく)』を作る。湯諸侯を征す。葛伯祀らず、湯始めて之を征す。『湯征』を作る。伊尹亳を去りて夏に適(ゆ)き、既に有夏を醜(にく)み、復た亳に帰る。北門より入り、乃ち汝鳩・汝方に遇ふ。『汝鳩』『汝方』を作る。伊尹湯に相として桀を伐ち、陑(じ)より升り、遂に桀と鳴条の野に戦ふ。『湯誓』を作る。湯既に夏に勝ち、其の社を遷さんと欲すれども、可ならず。『夏社』『疑至』『臣扈』を作る。夏の師敗績し、湯遂に之に従ひ、遂に三朡(さんそう)を伐ち、厥の宝玉を俘(と)る。誼伯・仲伯『典宝』を作る。湯夏より帰りて、大坰(たいけい)に至る。仲虺『誥』を作る。湯既に夏の命を黜(しりぞ)け、復た亳に帰る。『湯誥』を作る。咎単(きうぜん)『明居』を作る。成湯既に没し、太甲の元年、伊尹『伊訓』『肆命』『徂后』を作る。太甲既に立ちて、明ならず。伊尹諸(これ)を桐に放つ。三年にして復た亳に帰り、庸(つね)を思ふ。伊尹『太甲三篇』を作る。伊尹『咸有一徳』を作る。沃丁既に伊尹を亳に葬り、咎単遂に伊尹の事を訓(と)く。『沃丁』を作る。伊陟(いちよく)大戊に相たり。亳に祥(あやし)き桑穀共に朝に生ずること有り。伊陟巫咸に賛(つ)ぐ。『咸乂四篇』を作る。太戊伊陟に賛ぐ。『伊陟』『原命』を作る。

現代語訳

【堯典】昔、帝堯は聡明で文徳と思慮にすぐれ、その徳の光は天下にあまねく及んでいた。位を譲ろうとして虞舜(ぐしゅん、のちの帝舜)に譲った。そこで『堯典』が作られた。【舜典】虞舜は身分の低い家の出であった。堯は彼が聡明だと聞き、位を継がせようとして、さまざまな難事で試した。そこで『舜典』が作られた。【汨作・九共・稾飫】帝は天下の土地を治め、地方ごとに住まいを定め、人々を氏族や種類によって分けた。そこで『汨作』『九共』九篇、『稾飫』が作られた。【大禹謨・皐陶謨・益稷】皐陶(こうよう、舜の刑罰の長官)はその謀りごとを述べ、禹はその事業を成し遂げ、帝舜はそれを重ねて命じた。そこで『大禹(謨)』『皐陶謨』『益稷』が作られた。【禹貢】禹は天下を九つの州に分け、山に沿って川を深く掘り、それぞれの土地に応じて貢ぎ物を定めた。そこで『禹貢』が作られた。【甘誓】啓(けい、禹の子)は有扈氏(ゆうこし、夏の同族の国)と甘の野で戦った。そこで『甘誓』が作られた。【五子之歌】太康(たいこう、啓の子)は国を失い、その兄弟五人は洛水の曲がり角で彼を待った。そこで『五子之歌』が作られた。【胤征】羲和(ぎか、暦をつかさどる官)は酒におぼれて暦の務めを怠り、季節を狂わせた。胤侯(いんこう)が出向いてこれを討った。そこで『胤征』が作られた。【帝告・釐沃】契(せつ、殷の始祖)から成湯(せいとう、殷の初代の王)までに都を八度移し、湯ははじめて亳(はく)に住み、先王の住まいに従った。そこで『帝告』『釐沃』が作られた。【湯征】湯は諸侯を討った。葛伯(かっぱく、葛の国の君)が祖先を祀らなかったので、湯ははじめてこれを討った。そこで『湯征』が作られた。【汝鳩・汝方】伊尹(いいん、湯の宰相)は亳を去って夏に行ったが、やがて夏の悪政を憎み、再び亳に帰った。北門から入ると、汝鳩と汝方(湯の賢臣)に出会った。そこで『汝鳩』『汝方』が作られた。【湯誓】伊尹は湯を補佐して桀(けつ、夏の最後の王)を討ち、陑の地から攻め上がり、ついに桀と鳴条の野で戦った。そこで『湯誓』が作られた。【夏社・疑至・臣扈】湯は夏に勝ったのち、夏の社(土地の神の祭壇)を移そうとしたが、それはできなかった。そこで『夏社』『疑至』『臣扈』が作られた。【典宝】夏の軍は大敗し、湯はこれを追い、ついに三朡(さんそう、夏に味方した国)を討ってその宝玉を奪った。誼伯と仲伯が『典宝』を作った。【仲虺之誥】湯は夏から帰り、大坰(たいけい)に至った。仲虺(ちゅうき、湯の左相)が『誥』を作った。【湯誥】湯は夏の天命を退けたのち、再び亳に帰った。そこで『湯誥』が作られた。【明居】咎単(きゅうぜん、湯の臣)が『明居』を作った。【伊訓・肆命・徂后】成湯が亡くなり、太甲(たいこう、湯の孫)の元年に、伊尹が『伊訓』『肆命』『徂后』を作った。【太甲】太甲は即位したが、道理に明るくなかった。伊尹は彼を桐の地に追放した。三年ののち太甲は亳に帰り、常の道を思うようになった。伊尹が『太甲』三篇を作った。【咸有一徳】伊尹が『咸有一徳』を作った。【沃丁】沃丁(よくてい、太甲の子)が伊尹を亳に葬り終えると、咎単はそこで伊尹の事績を説き明かした。そこで『沃丁』が作られた。【咸乂】伊陟(いちょく、伊尹の子)が大戊(たいぼ、殷の王)を補佐していたとき、亳で桑と穀(こうぞ)が一緒に朝廷に生えるという怪異があった。伊陟はそのことを巫咸(ふかん、殷の賢臣)に告げた。そこで『咸乂』四篇が作られた。【伊陟・原命】太戊は伊陟の功をたたえた。そこで『伊陟』『原命』が作られた。

解説

書序の前半で、堯典から殷の太戊の代までの諸篇について、それぞれがなぜ作られたかを一行ずつ記している。書序は「小序」とも呼ばれ、孔子が百篇の書を編んだときに作ったと伝えられるが、実際には戦国から漢の時代に整えられたとみる説が強い。汨作・九共・帝告・湯征・典宝・明居など、名前だけが伝わり本文の失われた篇が多く並ぶのが特徴で、今の尚書が古い百篇のごく一部しか残していないことを教えてくれる。帝王の即位、征伐、遷都、宰相の諫言といった政治の節目ごとに一篇が作られたという構成は、記録を残すこと自体が統治の一部であったことを示している。組織でも、何を決めたかだけでなく、なぜその文書を作ったのかを一行で残しておくことが、のちの人の判断を支える。

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