初学訓 / 巻之五
一おや先祖に善人あれども、子孫惡なれば、先祖の善のむくいなし。おや先祖惡人なれども、子孫善人なれば、先祖の惡のむくいを免る。子孫たる人、善を行ひて、おや先祖の惡を補ひ除くべし。一天地は、萬物を生みてそだて給ふ父母なるゆゑ、其生める所の人倫は、天地の子なれば、是をあはれみ給ふこと、人の親の子を思ふが如し。こゝを以て、その生み給ふ所の人倫と萬物を愛すれば、天地の御心喜んで、必ずさいはひを下し給ふ。これを苦めそこなへば、天地の御心怒りて、必ずわざはひを下し給ふこと、たとへば、人の親の、わが子を愛しむ者を喜びて、其恩を報いんことを思ひ、わが子をそこなふ者を怒りにくみて、其恨を報ぜんことを思ふが如し。天道は畏るべし。これを知らずして、只、神に諂ひいのりて、福を得禍をのがれんとす。されども、人倫を愛せず、生物を害へば、天地神明のあはれみ無くして、天罰遁れがたし。罪を天に獲れば禱る所なしと、聖人ものたまへり。疑ふべからず、おそるべし。
新字:一おや先祖に善人あれども、子孫悪なれば、先祖の善のむくいなし。おや先祖悪人なれども、子孫善人なれば、先祖の悪のむくいを免る。子孫たる人、善を行ひて、おや先祖の悪を補ひ除くべし。一天地は、万物を生みてそだて給ふ父母なるゆゑ、其生める所の人倫は、天地の子なれば、是をあはれみ給ふこと、人の親の子を思ふが如し。こゝを以て、その生み給ふ所の人倫と万物を愛すれば、天地の御心喜んで、必ずさいはひを下し給ふ。これを苦めそこなへば、天地の御心怒りて、必ずわざはひを下し給ふこと、たとへば、人の親の、わが子を愛しむ者を喜びて、其恩を報いんことを思ひ、わが子をそこなふ者を怒りにくみて、其恨を報ぜんことを思ふが如し。天道は畏るべし。これを知らずして、只、神に諂ひいのりて、福を得禍をのがれんとす。されども、人倫を愛せず、生物を害へば、天地神明のあはれみ無くして、天罰遁れがたし。罪を天に獲れば祷る所なしと、聖人ものたまへり。疑ふべからず、おそるべし。
書き下し
一おや先祖に善人あれども、子孫悪なれば、先祖の善のむくいなし。おや先祖悪人なれども、子孫善人なれば、先祖の悪のむくいを免る。子孫たる人、善を行ひて、おや先祖の悪を補ひ除くべし。一天地は、万物を生みてそだて給ふ父母なるゆゑ、其生める所の人倫は、天地の子なれば、是をあはれみ給ふこと、人の親の子を思ふが如し。ここを以て、その生み給ふ所の人倫と万物を愛すれば、天地の御心喜んで、必ずさいはひを下し給ふ。これを苦めそこなへば、天地の御心怒りて、必ずわざはひを下し給ふこと、たとへば、人の親の、わが子を愛しむ者を喜びて、其恩を報いんことを思ひ、わが子をそこなふ者を怒りにくみて、其恨を報ぜんことを思ふが如し。天道は畏るべし。これを知らずして、只、神に諂ひいのりて、福を得禍をのがれんとす。されども、人倫を愛せず、生物を害へば、天地神明のあはれみ無くして、天罰遁れがたし。罪を天に獲れば祷る所なしと、聖人ものたまへり。疑ふべからず、おそるべし。
現代語訳
親や先祖に善人がいても、子孫が悪であれば、先祖の善の報いはありません。親や先祖が悪人であっても、子孫が善人であれば、先祖の悪の報いを免れます。子孫である人は、善を行って親や先祖の悪を補い除くべきです。天地は万物を生んで育てられる父母なので、その生んだ人々は天地の子であり、これを憐れまれることは、人の親が子を思うようなものです。このため、天地が生まれた人々と万物を愛すれば、天地の御心は喜んで、必ず幸いを下されます。これを苦しめ損なえば、天地の御心は怒って、必ず禍を下されます。たとえば人の親が、わが子をいつくしむ者を喜んで、その恩に報いようと思い、わが子を損なう者を怒り憎んで、その恨みを晴らそうと思うようなものです。天道は畏るべきです。これを知らずに、ただ神にへつらい祈って、福を得て禍を逃れようとします。けれども、人々を愛さず、生き物を損なえば、天地神明の憐れみはなく、天罰は逃れがたい。「罪を天に得れば、祈るところはない」と聖人もおっしゃいました。疑ってはならず、恐るべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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論語・雍也篇宰我問いて曰く、「仁者は之に告げて『井に仁有り』と曰うと雖も、其れ之に従わんか。」子曰く、「何為れぞ其れ然らんや。君子は逝かしむ可きも、陥る可からず。欺く可きも、罔う可からず。」
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論語・八佾篇子曰く、人にして仁ならずんば、礼を如(いかん)せん;人にして仁ならずんば、楽を如せん。
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論語・憲問篇「克・伐・怨・欲、行われずんば、以て仁と為す可きか。」子曰く、「以て難しと為す可し。仁は則ち吾知らざるなり。」
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論語・里仁篇子曰わく、不仁者は久しく約に処るべからず、長く楽に処るべからず。仁者は仁に安んじ、知者は仁を利とす。
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論語・里仁篇子曰わく、ただ仁者のみよく人を好み、よく人を悪む。
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論語・微子篇微子これを去り、箕子これに為に奴となり、比干諫めて死す。孔子曰わく、殷に三仁有り。
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