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初学訓 / 巻之五

一およそ、人と生れては、尊きも卑きも、富めるも貧しきも、只願はくは、心にふかく陰德をたもち、身にあつく善事を行ひて、人の患をあはれみ惠み、人の苦みを助け救ふべし。つねに、是を以て志とすべし。陰德とは、心の中に善をたもちて、人に知られんことを求めざるをいふ。凡、善を行ふの道は、飢ゑ凍ゆる人、病者、かたはなるもの、乞食、貧人をたすけ、鰥寡孤獨のたよりなき人を、愍み惠むべし。老いて妻なきを鰥といひ、老いて夫なきを寡といひ、いとけなくして父なきを孤といひ、老いて子なきを獨といふ。此四のものは、養ふべき人なくて、飢寒するものなれば、困窮せる民なり。仁を行ひて人をすくふには、先、此等の人を先にすべし。これ亦、賤しといへども、われと同じく天地の子なれば、わが同胞の内、不幸なる人なり。

新字:一およそ、人と生れては、尊きも卑きも、富めるも貧しきも、只願はくは、心にふかく陰徳をたもち、身にあつく善事を行ひて、人の患をあはれみ恵み、人の苦みを助け救ふべし。つねに、是を以て志とすべし。陰徳とは、心の中に善をたもちて、人に知られんことを求めざるをいふ。凡、善を行ふの道は、飢ゑ凍ゆる人、病者、かたはなるもの、乞食、貧人をたすけ、鰥寡孤独のたよりなき人を、愍み恵むべし。老いて妻なきを鰥といひ、老いて夫なきを寡といひ、いとけなくして父なきを孤といひ、老いて子なきを独といふ。此四のものは、養ふべき人なくて、飢寒するものなれば、困窮せる民なり。仁を行ひて人をすくふには、先、此等の人を先にすべし。これ亦、賤しといへども、われと同じく天地の子なれば、わが同胞の内、不幸なる人なり。

書き下し

一およそ、人と生れては、尊きも卑きも、富めるも貧しきも、只願はくは、心にふかく陰徳をたもち、身にあつく善事を行ひて、人の患をあはれみ恵み、人の苦みを助け救ふべし。つねに、是を以て志とすべし。陰徳とは、心の中に善をたもちて、人に知られんことを求めざるをいふ。凡、善を行ふの道は、飢ゑ凍ゆる人、病者、かたはなるもの、乞食、貧人をたすけ、鰥寡孤独のたよりなき人を、愍み恵むべし。老いて妻なきを鰥といひ、老いて夫なきを寡といひ、いとけなくして父なきを孤といひ、老いて子なきを独といふ。此四のものは、養ふべき人なくて、飢寒するものなれば、困窮せる民なり。仁を行ひて人をすくふには、先、此等の人を先にすべし。これ亦、賤しといへども、われと同じく天地の子なれば、わが同胞の内、不幸なる人なり。

現代語訳

およそ人と生まれては、身分の高い低い、富んでいる貧しいにかかわらず、ただ願わくは、心に深く陰徳を保ち、身に厚く善い事を行って、人の患いを憐れみ恵み、人の苦しみを助け救うべきです。常にこれを志とすべきです。陰徳とは、心の中に善を保って、人に知られることを求めないことをいいます。およそ善を行う道は、飢え凍える人、病人、体の不自由な人、物乞い、貧しい人を助け、鰥寡孤独の頼る者のない人を憐れみ恵むべきです。年老いて妻のない者を鰥といい、年老いて夫のない者を寡といい、幼くして父のない者を孤といい、年老いて子のない者を独といいます。この四つの者は、養ってくれる人がなくて飢え凍えるので、困窮した民です。仁を行って人を救うには、まずこれらの人を先にすべきです。これらの人は身分が低いといっても、自分と同じく天地の子なので、わが同胞の中の不幸な人なのです。

解説

陰徳とは、人に知られることを求めずに行う善のことです。益軒は、身分や貧富にかかわらず誰もが陰徳を志せと説き、とくに鰥寡孤独、つまり身寄りのない老人や孤児を真っ先に救えと言います。『孟子』梁恵王下篇で、文王が政治を行うにあたってまずこの四者を先にしたと述べられている考えです。今でいえば、独居の高齢者や親を亡くした子どもへの支援にあたります。人知れず行う善意が、社会の弱いところを支えるのです。

この章句が説くこと

陰徳鰥寡孤独仁救済孟子

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