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初学訓 / 巻之四

一富貴の人は、其力に隨ひて、ひろく人を惠み助くべし。人生の樂は、人の苦を救ひて、人を樂ましむることにあり。貧窮にして、人を助くる力なくとも、善をする志だにあらば、其功あるべし。人に善を勸め、惡を止めさせ、人の害を除き、人の心を和ぐるは、必ず財をもちひずとも行はる。もし、餘財あらば、無用のつひえをせずして、人の艱難を救ふべし、財を惜むべからず。程子の、財を惜みては、善を行ふことなり難しといへるも、まことに然り。財は多けれど、をしみて人を救はざるは、不仁の人なり、善を行ふこと難し。

新字:一富貴の人は、其力に随ひて、ひろく人を恵み助くべし。人生の楽は、人の苦を救ひて、人を楽ましむることにあり。貧窮にして、人を助くる力なくとも、善をする志だにあらば、其功あるべし。人に善を勧め、悪を止めさせ、人の害を除き、人の心を和ぐるは、必ず財をもちひずとも行はる。もし、余財あらば、無用のつひえをせずして、人の艱難を救ふべし、財を惜むべからず。程子の、財を惜みては、善を行ふことなり難しといへるも、まことに然り。財は多けれど、をしみて人を救はざるは、不仁の人なり、善を行ふこと難し。

書き下し

一富貴の人は、其力に随ひて、ひろく人を恵み助くべし。人生の楽は、人の苦を救ひて、人を楽ましむることにあり。貧窮にして、人を助くる力なくとも、善をする志だにあらば、其功あるべし。人に善を勧め、悪を止めさせ、人の害を除き、人の心を和ぐるは、必ず財をもちひずとも行はる。もし、余財あらば、無用のつひえをせずして、人の艱難を救ふべし、財を惜むべからず。程子の、財を惜みては、善を行ふことなり難しといへるも、まことに然り。財は多けれど、をしみて人を救はざるは、不仁の人なり、善を行ふこと難し。

現代語訳

富貴な人は、その力に応じて広く人を恵み助けるべきです。人生の楽しみは、人の苦しみを救って、人を楽しませることにあります。貧しくて人を助ける力がなくても、善をする志さえあれば、その功はあるでしょう。人に善を勧め、悪をやめさせ、人の害を除き、人の心を和ませることは、必ずしも財を用いなくても行えます。もし余った財があれば、無用の浪費をせずに、人の困難を救うべきで、財を惜しんではいけません。程子が「財を惜しんでは、善を行うことは難しい」と言ったのも、まことにそのとおりです。財は多くても、惜しんで人を救わないのは不仁の人であり、善を行うことは難しいのです。

解説

「人生の楽しみは人の苦を救ひて人を楽しましむることにあり」という一句に、益軒の幸福観が凝縮されています。晩年に『楽訓』で人生の楽しみを論じた益軒は、自分の欲を満たすことより、人を助けることにこそ深い楽しみがあると考えました。財がなくても、善を勧め、人の心を和ませることはできると言います。人の役に立てたときの喜びは、何かを手に入れたときの喜びより長く続くものです。お金をかけずにできる善から始めればよいのです。

この章句が説くこと

楽しみ施し善仁幸福

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