初学訓 / 巻之三
一節義とは、君、親夫のために、義理を守りて命を輕ずるをいふ。武士の戰場にのぞみて、君のため、命を惜まざるはいふに及ばず、祿を惜みて、君をいさめず、命ををしみて君にそむき、敵に降り、或は、婦人の夫にそむき、死をおそれて敵にしたがふやうの類を、節義を失ふといふ。是、利欲にひかれ、命ををしみて、義理をうしなふなり。凡、男女ともに、萬の才能うるはしくとも、節義闕けては、其餘のよきことは見るにたらず。
新字:一節義とは、君、親夫のために、義理を守りて命を軽ずるをいふ。武士の戦場にのぞみて、君のため、命を惜まざるはいふに及ばず、禄を惜みて、君をいさめず、命ををしみて君にそむき、敵に降り、或は、婦人の夫にそむき、死をおそれて敵にしたがふやうの類を、節義を失ふといふ。是、利欲にひかれ、命ををしみて、義理をうしなふなり。凡、男女ともに、万の才能うるはしくとも、節義闕けては、其余のよきことは見るにたらず。
書き下し
一節義とは、君、親夫のために、義理を守りて命を軽ずるをいふ。武士の戦場にのぞみて、君のため、命を惜まざるはいふに及ばず、禄を惜みて、君をいさめず、命ををしみて君にそむき、敵に降り、或は、婦人の夫にそむき、死をおそれて敵にしたがふやうの類を、節義を失ふといふ。是、利欲にひかれ、命ををしみて、義理をうしなふなり。凡、男女ともに、万の才能うるはしくとも、節義闕けては、其余のよきことは見るにたらず。
現代語訳
節義とは、主君や親、夫のために、義理を守って命を軽んじることをいいます。武士が戦場に臨んで主君のために命を惜しまないのは言うまでもなく、俸禄を惜しんで主君を諫めず、命を惜しんで主君に背き、敵に降ったり、あるいは婦人が夫に背き、死を恐れて敵に従うような類を、節義を失うといいます。これは利欲に引かれ、命を惜しんで義理を失うのです。およそ男も女も、あらゆる才能が立派でも、節義が欠けては、そのほかのよいところは見るに足りません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『春秋左氏伝』昭公元年 叔孫、帯を与へず季武子莒を伐ち、鄆を取る。莒人會に告ぐ。楚晉に告げて曰く、「盟を尋ねて未だ退かざるに、魯莒を伐ち、齊盟を瀆す。請ふ其の使を戮せん」と。樂桓子趙文子に相たり。貨を叔孫に求めんと欲して、之が為に請ふ。帶を請はしむるも與へず。梁其脛曰く、「貨は以て身を藩る。子何ぞ愛しむや」と。叔孫曰く、「諸侯の會は、社稷を衛るなり。我貨を以て免れば、魯必ず師を受けん。是れ之に禍するなり。何の衛ることか之を為さん。人の牆有るは、以て惡を蔽ふなり。牆の隙壞るるは、誰の咎ぞや。衛りて之を惡しくせば、吾又焉より甚だし。季孫を怨むと雖も、魯國何の罪かあらん。叔出でて季處るは、自りて來る有り。吾又誰をか怨みん。然れども鮒や賄なり。與へずんば已まざらん」と。使者を召し、裳帛を裂きて之に與へて曰く、「帶は其れ褊し」と。趙孟之を聞きて曰く、「患ひに臨みて國を忘れざるは、忠なり。難を思ひて官を越えざるは、信なり。國を圖りて死を忘るるは、貞なり。謀るに三者を主とするは、義なり。是の四者有り、又戮すべけんや」と。乃ち諸を楚に請ひて曰く、「魯罪有りと雖も、其の執事は難を辟けず。
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『君子訓』巻之中一臣下として其職分に当らば、君の過悪を諫めずんばあるべからず。漢土の忠臣は、身を捨てて君を諫め、殺さるることを知れども顧みず。凡君の為に身を捨つること、戦陣に限るべからず。身をかばひ命を惜みて、君の悪を知れども諫めざるは、不忠なり。況や官禄を惜みて黙すは言ふもさらなり。我が邦の人は、戦場に出でては勇なれども、諫争の一事は漢土の人に及ばず。是国の習はしなるか、無学にして諫の術を知らざるか。
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『翁問答』上卷之本大臣の忠節は、其業大なる故に大忠と云、小臣の忠節は、其事小なる故に小忠と云ふ、主君の嫌ふ事にても、君の為め国家の為め家中の為めによき事なれば、主君の必ず行ひ給ふ様に、能く諫めを成し、主君の好む事にても、悪しき事なれば、必ず止め給ふ様に能く諫めて、主の心立身持道に叶ひ、万化の本を正し、国を穏かに末永く栄へ給ふ様にと、一心に思ひ入れ、我が身の為めは少しも顧みず、竜逢比干の諫めて死したる心を守り身を棄て主の為めを第一にするを大忠と云ふ、是は家老出頭の忠節なり是非善悪を撰ばず、主の下知に従ひて、一心に君を敬ひ身を棄て、其職分を勤仕するを小忠と云ふ、是は小身なる臣下の忠節なり、
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『韓非子』初見秦第一然り而して兵甲頓れ、士民病み、蓄積索き、田疇荒れ、囷倉虚しく、四隣の諸侯服せず、霸王の名成らず。此れ異なる故無し、其の謀臣皆な其の忠を尽くさざればなり。
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『不動智神妙録』諫言 其一 忠を尽くす内々存寄候事、御諫可申入候由、愚案如何に存候得共、折節幸と存じ及見候処あらまし書付進し申候、貴殿事、兵法に於て今古無双の達人故、当時官位俸禄世の聞えも美々敷候、此大厚恩を寐ても覚ても忘るゝことなく、旦夕恩を報し忠を尽さんことをのみ思ひたまふべし、
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『不動智神妙録』諫言 其一 忠を尽くす忠を尽くすといふは、先づ我心を正くし身を治め、毛頭君に二心なく、人を恨み咎めず、日々に出仕怠らず、一家に於ては父母に能く孝を尽し、夫婦の間少しも猥になく、礼義正しく妾婦を愛せず、色の道を絶ち、父母の間おごそかに道を以てし、下を使ふに私のへだてなく、善人を用ゐ近付け、我足らざる所を諫め、御国の政を正敷し、不善人を遠ざくる様にするときは、善人は日々に進み、不善人もおのづから主人の善を好む所に化せられ、悪を去り善に遷るなり、
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