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君子訓 / 巻之中

一臣下として其職分に當らば、君の過惡を諫めずんばあるべからず。漢土の忠臣は、身を捨てゝ君を諫め、殺さるゝことを知れども顧みず。凡君の爲に身を捨つること、戰陣に限るべからず。身をかばひ命を惜みて、君の惡を知れども諫めざるは、不忠なり。況や官祿を惜みて默すは言ふもさらなり。我が邦の人は、戰場に出でては勇なれども、諫爭の一事は漢土の人に及ばず。是國の習はしなるか、無學にして諫の術を知らざるか。

新字:一臣下として其職分に当らば、君の過悪を諫めずんばあるべからず。漢土の忠臣は、身を捨てゝ君を諫め、殺さるゝことを知れども顧みず。凡君の為に身を捨つること、戦陣に限るべからず。身をかばひ命を惜みて、君の悪を知れども諫めざるは、不忠なり。況や官禄を惜みて黙すは言ふもさらなり。我が邦の人は、戦場に出でては勇なれども、諫争の一事は漢土の人に及ばず。是国の習はしなるか、無学にして諫の術を知らざるか。

書き下し

一臣下として其職分に当らば、君の過悪を諫めずんばあるべからず。漢土の忠臣は、身を捨てて君を諫め、殺さるることを知れども顧みず。凡君の為に身を捨つること、戦陣に限るべからず。身をかばひ命を惜みて、君の悪を知れども諫めざるは、不忠なり。況や官禄を惜みて黙すは言ふもさらなり。我が邦の人は、戦場に出でては勇なれども、諫争の一事は漢土の人に及ばず。是国の習はしなるか、無学にして諫の術を知らざるか。

現代語訳

臣下としてその職分にあたるなら、君の過ちや悪を諫めなければなりません。中国の忠臣は、身を捨てて君を諫め、殺されることを知っていても顧みませんでした。およそ君のために身を捨てることは、戦陣に限りません。身をかばい命を惜しんで、君の悪を知っていても諫めないのは不忠です。まして官位や禄を惜しんで黙っているのは言うまでもありません。わが国の人は、戦場に出れば勇敢ですが、諫め争うことにかけては中国の人に及びません。これは国の習わしなのでしょうか、それとも学問がなくて諫めの術を知らないのでしょうか。

解説

君のために身を捨てるのは戦場だけではなく、命がけで諫めることもまた忠である、と説いています。日本の武士は戦場では勇敢でも、主君を諫めることでは中国の忠臣に及ばない、という益軒の率直な比較は興味深いものです。その原因を国の習わしか学問のなさか、と問いかけています。上司の誤りに気づきながら保身のために黙ることは、今の組織でも不正や事故の原因になります。耳の痛いことを言う勇気もまた、勇気の一つの形だと教える一節です。

この章句が説くこと

忠諫め勇気職分保身

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