初学訓 / 巻之三
一萬の事、皆天命なれば、人の力及びがたし。不幸なりとも、天命をやすんじて、うれふべからず。されども、人事をば盡すべし。人事を盡すとは、わが身を愼みて、行ふべき道をつとめ行ひ、過を改め善に遷りて、禍に遭ふべき罪咎なからんことを求むるをいふ。病ある者の、つゝしみてよく保養するも、亦人力を盡すなり。是人力のつとめによりて、天命を得る理あり。此の如くにして、其上は、天命にまかせて樂むべし、うれへて心を苦むべからず。
新字:一万の事、皆天命なれば、人の力及びがたし。不幸なりとも、天命をやすんじて、うれふべからず。されども、人事をば尽すべし。人事を尽すとは、わが身を慎みて、行ふべき道をつとめ行ひ、過を改め善に遷りて、禍に遭ふべき罪咎なからんことを求むるをいふ。病ある者の、つゝしみてよく保養するも、亦人力を尽すなり。是人力のつとめによりて、天命を得る理あり。此の如くにして、其上は、天命にまかせて楽むべし、うれへて心を苦むべからず。
書き下し
一万の事、皆天命なれば、人の力及びがたし。不幸なりとも、天命をやすんじて、うれふべからず。されども、人事をば尽すべし。人事を尽すとは、わが身を慎みて、行ふべき道をつとめ行ひ、過を改め善に遷りて、禍に遭ふべき罪咎なからんことを求むるをいふ。病ある者の、つつしみてよく保養するも、亦人力を尽すなり。是人力のつとめによりて、天命を得る理あり。此の如くにして、其上は、天命にまかせて楽むべし、うれへて心を苦むべからず。
現代語訳
あらゆる事はみな天命なので、人の力は及びがたい。不幸であっても、天命に安んじて憂えてはいけません。けれども、人のなすべき事は尽くすべきです。人事を尽くすとは、わが身を慎み、行うべき道を努め行い、過ちを改め善に移って、禍にあうような罪や咎がないように求めることをいいます。病のある人が、慎んでよく養生するのも、また人の力を尽くすことです。これは人の力の努めによって天命を得る理があるのです。このようにして、そのうえは天命に任せて楽しむべきです。憂えて心を苦しめてはいけません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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言志四録・言志晩録 第百九十一条 苦悩の一半を省く人事の期せざる所に赴くは、究に人力に非ず。人家の貧富の如きは、天に係る有り、人に係る有り。然れども其の人に係る者も、竟に亦天に係る。世に処して能く此の理を知らば、苦悩の一半を省かんのみ。
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尚書・康誥惟れ命は常には于いてせず。
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孔子家語・五儀解哀公孔子に問いて曰く、「夫れ国家の存亡禍福は、信に天命有りて、唯だ人のみに非ざるか。」孔子対えて曰く、「存亡禍福は、皆己のみ。天災地妖は、加うる能わざるなり。」公曰く、「善いかな。吾子の言、豈に其の事有るか。」孔子曰く、「昔者殷王帝辛の世、雀の大鳥を城隅に生む有り。之を占いて曰く、『凡そ小を以て大を生ずれば、則ち国家必ず王として名必ず昌んならん』と。是に於て帝辛雀の徳を介として、国政を修めず、亢暴極まり無く、朝臣救うこと莫く、外寇乃ち至りて、殷国以て亡ぶ。此れ即ち己を以て天時に逆らい、福を詭りて反りて禍と為す者なり。又其の先世殷王太戊の時、道缺け法圮れ、以て夭櫱・桑穀朝に致し、七日にして大いに拱す。之を占う者曰く、『桑穀は野木にして朝に合生せず、意者国亡びんか』と。太戊恐駭し、身を側めて行を修め、先王の政を思い、養民の道を明らかにす。三年の後、遠方義を慕いて重訳して至る者、十有六国。此れ即ち己を以て天時に逆らい、禍を得て福と為す者なり。故に天災地妖は、人主を儆む所以の者なり。寤夢征怪は、人臣を儆む所以の者なり。災妖は善政に勝たず、寤夢は善行に勝たず。能く此を知る者は、至治の極なり。唯だ明王のみ此に達す。」公曰く、「寡人鄙固此くの如きに、亦た君子の教を聞くを得ざりしなり。」
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