初学訓 / 巻之二
一人の心は、身の主なり。心の官は、思ふことを司る。思案なければ、心の官を失ひて、職分空しくなり、家に主なく、軍に大將なきが如し。耳、目、口、體の欲にひかれ、惡にながれ、亂れて治まらず。每日、口に言ふこと身に行ふことを、事ごとに心に思案し、愼みて言を出しわざを行へば、誤すくなく、後悔すくなし。人の誤をなし惡を行ふは、皆思案せざればなり。よく思へば過惡なし、過惡なければ後悔なし。凡、身の行は、後悔なからんことを思ふべし。
新字:一人の心は、身の主なり。心の官は、思ふことを司る。思案なければ、心の官を失ひて、職分空しくなり、家に主なく、軍に大将なきが如し。耳、目、口、体の欲にひかれ、悪にながれ、乱れて治まらず。毎日、口に言ふこと身に行ふことを、事ごとに心に思案し、慎みて言を出しわざを行へば、誤すくなく、後悔すくなし。人の誤をなし悪を行ふは、皆思案せざればなり。よく思へば過悪なし、過悪なければ後悔なし。凡、身の行は、後悔なからんことを思ふべし。
書き下し
一人の心は、身の主なり。心の官は、思ふことを司る。思案なければ、心の官を失ひて、職分空しくなり、家に主なく、軍に大将なきが如し。耳、目、口、体の欲にひかれ、悪にながれ、乱れて治まらず。毎日、口に言ふこと身に行ふことを、事ごとに心に思案し、慎みて言を出しわざを行へば、誤すくなく、後悔すくなし。人の誤をなし悪を行ふは、皆思案せざればなり。よく思へば過悪なし、過悪なければ後悔なし。凡、身の行は、後悔なからんことを思ふべし。
現代語訳
人の心は身の主人です。心の役目は思うことをつかさどります。思案がなければ、心の役目を失って職分がむなしくなり、家に主人がなく、軍に大将がいないようなものです。耳・目・口・体の欲に引かれ、悪に流れ、乱れて治まりません。毎日、口で言うことや身で行うことを、事ごとに心で思案し、慎んで言葉を出し、行いをすれば、誤りは少なく、後悔も少ない。人が誤りをし悪を行うのは、みな思案しないからです。よく思えば過ちや悪はなく、過ちや悪がなければ後悔はありません。およそ身の行いは、後悔がないようにと思うべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『初学訓』巻之二一人の身のわざは、言行の二にあり。是をつつしみて、過すくなくするは、身を修むる道なり。およそ人は、言は常に余あり、行は常に足らず、言を信にし、行を篤くつつしむべし。言は、過ぎやすく誤りやすし。つつしみて、みだりに言ふべからず。行は、常に怠りやすく、不足多し、怠りなくするどにつとめ、余りある程あつく行ふべし。一心を天官といふ。身の主にて、思を以て官とす。耳、目、口、鼻、形を五官といふ。耳に聴き、目に見、口に物いひ、物をくひ、鼻に香をかぎ、形はうごく。是、五のつかさどりなり。官とはつかさどるなり、役を勤むるをいふ。心は五官の君なり、五官は心の使ふものなり。心によく思案して、五官のひがごとを禁じ、五官の役を勤めしむるは、たとへば、主人の臣下を使ふに、各其官をいひつけて、勤めしむるが如し。
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