初学訓 / 巻之二
一人の身のわざは、言行の二にあり。是をつゝしみて、過すくなくするは、身を修むる道なり。およそ人は、言は常に餘あり、行は常に足らず、言を信にし、行を篤くつゝしむべし。言は、過ぎやすく誤りやすし。つゝしみて、みだりに言ふべからず。行は、常に怠りやすく、不足多し、怠りなくするどにつとめ、餘りある程あつく行ふべし。一心を天官といふ。身の主にて、思を以て官とす。耳、目、口、鼻、形を五官といふ。耳に聽き、目に見、口に物いひ、物をくひ、鼻に香をかぎ、形はうごく。是、五のつかさどりなり。官とはつかさどるなり、役を勤むるをいふ。心は五官の君なり、五官は心の使ふものなり。心によく思案して、五官のひがごとを禁じ、五官の役を勤めしむるは、たとへば、主人の臣下を使ふに、各其官をいひつけて、勤めしむるが如し。
新字:一人の身のわざは、言行の二にあり。是をつゝしみて、過すくなくするは、身を修むる道なり。およそ人は、言は常に余あり、行は常に足らず、言を信にし、行を篤くつゝしむべし。言は、過ぎやすく誤りやすし。つゝしみて、みだりに言ふべからず。行は、常に怠りやすく、不足多し、怠りなくするどにつとめ、余りある程あつく行ふべし。一心を天官といふ。身の主にて、思を以て官とす。耳、目、口、鼻、形を五官といふ。耳に聴き、目に見、口に物いひ、物をくひ、鼻に香をかぎ、形はうごく。是、五のつかさどりなり。官とはつかさどるなり、役を勤むるをいふ。心は五官の君なり、五官は心の使ふものなり。心によく思案して、五官のひがごとを禁じ、五官の役を勤めしむるは、たとへば、主人の臣下を使ふに、各其官をいひつけて、勤めしむるが如し。
書き下し
一人の身のわざは、言行の二にあり。是をつつしみて、過すくなくするは、身を修むる道なり。およそ人は、言は常に余あり、行は常に足らず、言を信にし、行を篤くつつしむべし。言は、過ぎやすく誤りやすし。つつしみて、みだりに言ふべからず。行は、常に怠りやすく、不足多し、怠りなくするどにつとめ、余りある程あつく行ふべし。一心を天官といふ。身の主にて、思を以て官とす。耳、目、口、鼻、形を五官といふ。耳に聴き、目に見、口に物いひ、物をくひ、鼻に香をかぎ、形はうごく。是、五のつかさどりなり。官とはつかさどるなり、役を勤むるをいふ。心は五官の君なり、五官は心の使ふものなり。心によく思案して、五官のひがごとを禁じ、五官の役を勤めしむるは、たとへば、主人の臣下を使ふに、各其官をいひつけて、勤めしむるが如し。
現代語訳
人の身の行いは、言葉と行動の二つにあります。これを慎んで過ちを少なくするのが、身を修める道です。およそ人は、言葉は常に余り、行いは常に足りません。言葉を誠実にし、行いを厚く慎むべきです。言葉は過ぎやすく誤りやすい。慎んで、むやみに言ってはいけません。行いは常に怠りやすく、足りないことが多い。怠りなく鋭く努めて、余るほど厚く行うべきです。心を天官といいます。身の主人であり、思うことを役目とします。耳・目・口・鼻・形(体)を五官といいます。耳で聞き、目で見、口でものを言い物を食べ、鼻で香りをかぎ、体は動きます。これが五つの役目です。官とはつかさどることで、役を務めることをいいます。心は五官の君であり、五官は心が使うものです。心でよく思案して、五官の間違いを禁じ、五官に役を務めさせるのは、たとえば主人が臣下を使うのに、それぞれにその役を言いつけて務めさせるようなものです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
言志四録・南洲手抄信を人に取るは難し。人は口を信ぜずして躬を信ず。躬を信ぜずして心を信ず。是を以て難し。
-
『慎思録』巻之四言は心の声なり。外に発して聞くべし。心は身の主なり。中に在りて見るべからず。故に人に接する時、人は唯だ吾が言を聞きて、吾が心を見ず。然らば則ち外に発する者は、只だ言のみ。言豈に慎まざるべけんや。
-
『初学訓』巻之二一人の心は、身の主なり。心の官は、思ふことを司る。思案なければ、心の官を失ひて、職分空しくなり、家に主なく、軍に大将なきが如し。耳、目、口、体の欲にひかれ、悪にながれ、乱れて治まらず。毎日、口に言ふこと身に行ふことを、事ごとに心に思案し、慎みて言を出しわざを行へば、誤すくなく、後悔すくなし。人の誤をなし悪を行ふは、皆思案せざればなり。よく思へば過悪なし、過悪なければ後悔なし。凡、身の行は、後悔なからんことを思ふべし。
-
『墨子』耕柱子夏の徒、子墨子に問いて曰く、「君子に鬬有りや」と。子墨子曰く、「君子に鬭無し」と。子夏の徒曰く、「狗狶すら猶お鬬有り。惡んぞ士有りて鬬無からんや」と。子墨子曰く、「傷ましいかな。言えば則ち湯・文に稱し、行えば則ち狗狶に譬う。傷ましいかな」と。
-
易経・繋辞上子曰く、「君子其の室に居りて、其の言を出だすに、善なれば則ち千里の外も之に応ず。況んや其の邇(ちか)き者をや。其の室に居りて、其の言を出だすに善ならざれば、則ち千里の外も之に違(たが)う。況んや其の邇き者をや。言は身より出でて、民に加わり、行いは邇きより発して、遠きに見(あら)わる。言行は君子の枢機(すうき)なり。枢機の発するは、栄辱の主なり。言行は、君子の天地を動かす所以なり。慎まざるべけんや」と。
-
説苑・說叢君子の言は寡くして實あり、小人の言は多くして虛あり。君子の學や、耳に入り、心に藏し、之を行うに身を以てす。君子の治や、見るに足らざるに始まり、及ぶべからざるに終わる。君子は福を慮ること及ばず、禍を慮ること之を百にす。君子は人を擇びて取り、人を擇ばずして與う。君子は實なること虛の如く、有ること無きが如し。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る