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初学訓 / 巻之二

一人に義理あり、利養あり。義理は、天道にしたがひて、仁義の心をたもち、五倫の道を行ふをいふ。利養は、四民ともに各其家業をつとめ、衣食居所を求むる營をなして、身を養ふをいふ。義理は心を養ひ、財利は身を養ふ。凡そ、人の日夜營むべきこと、此二の外にこれなし。然るに、義理の心を養ふは、至りておもく、利養の身を養ふは、義理にくらぶれば甚だかろし。此二の輕重を知りて、義をたつとび、利を賤むべし。義を貴び、利をいやしむは、君子の心なり。利を貴び、義を忘るゝは、小人の心なり。君子小人の別は、義と利との間にあり。一およそ、人の好むこと多しといへども、其大なること三あり。一には、富貴を好む。二には、長生を好む。三には、義理をこのむ。此三の内、輕重あり。富貴をこのむより長生をこのむは重く、長生を好むより義理を好むはおもし。人の好む所、輕重おのづから此の如くなるのみならず、好むべき道理の輕重も、亦おのづからかくの如し。

新字:一人に義理あり、利養あり。義理は、天道にしたがひて、仁義の心をたもち、五倫の道を行ふをいふ。利養は、四民ともに各其家業をつとめ、衣食居所を求むる営をなして、身を養ふをいふ。義理は心を養ひ、財利は身を養ふ。凡そ、人の日夜営むべきこと、此二の外にこれなし。然るに、義理の心を養ふは、至りておもく、利養の身を養ふは、義理にくらぶれば甚だかろし。此二の軽重を知りて、義をたつとび、利を賤むべし。義を貴び、利をいやしむは、君子の心なり。利を貴び、義を忘るゝは、小人の心なり。君子小人の別は、義と利との間にあり。一およそ、人の好むこと多しといへども、其大なること三あり。一には、富貴を好む。二には、長生を好む。三には、義理をこのむ。此三の内、軽重あり。富貴をこのむより長生をこのむは重く、長生を好むより義理を好むはおもし。人の好む所、軽重おのづから此の如くなるのみならず、好むべき道理の軽重も、亦おのづからかくの如し。

書き下し

一人に義理あり、利養あり。義理は、天道にしたがひて、仁義の心をたもち、五倫の道を行ふをいふ。利養は、四民ともに各其家業をつとめ、衣食居所を求むる営をなして、身を養ふをいふ。義理は心を養ひ、財利は身を養ふ。凡そ、人の日夜営むべきこと、此二の外にこれなし。然るに、義理の心を養ふは、至りておもく、利養の身を養ふは、義理にくらぶれば甚だかろし。此二の軽重を知りて、義をたつとび、利を賤むべし。義を貴び、利をいやしむは、君子の心なり。利を貴び、義を忘るるは、小人の心なり。君子小人の別は、義と利との間にあり。一およそ、人の好むこと多しといへども、其大なること三あり。一には、富貴を好む。二には、長生を好む。三には、義理をこのむ。此三の内、軽重あり。富貴をこのむより長生をこのむは重く、長生を好むより義理を好むはおもし。人の好む所、軽重おのづから此の如くなるのみならず、好むべき道理の軽重も、亦おのづからかくの如し。

現代語訳

人には義理があり、利養があります。義理とは、天道に従って仁義の心を保ち、五倫の道を行うことをいいます。利養とは、士農工商がそれぞれ家業に努め、衣食住を求める営みをして身を養うことをいいます。義理は心を養い、財利は身を養います。およそ人が日夜営むべきことは、この二つのほかにはありません。ところが、義理で心を養うことはきわめて重く、利養で身を養うことは、義理に比べればとても軽い。この二つの軽重を知って、義を尊び、利を賤しむべきです。義を尊び利を賤しむのは君子の心です。利を尊び義を忘れるのは小人の心です。君子と小人の違いは、義と利の間にあります。およそ人の好むことは多いけれども、その大きなものは三つあります。一つは富貴を好む。二つは長生きを好む。三つは義理を好む。この三つの中に軽重があります。富貴を好むより長生きを好むほうが重く、長生きを好むより義理を好むほうが重い。人の好むところの軽重が自然にこのようであるだけでなく、好むべき道理の軽重もまた自然にこのとおりです。

解説

論語里仁篇の「君子は義に喩り、小人は利に喩る」を、益軒は「義理」と「利養」の対比として説きます。注目すべきは、利養そのものを否定していないことです。家業に励み衣食住を得ることも人の務めだと認めたうえで、その軽重を取り違えるなと言うのです。後半では、富貴・長生・義理の三つの好みを挙げ、次の条から順に論じていきます。仕事でも、利益を追うことは当然ですが、それが信義や誠実さより重くなったとき、人も組織も道を誤るのです。

この章句が説くこと

義利君子小人論語利養

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