初学訓 / 巻之二
一およそ、孝の道は、父母の存生の間、よくつかふるのみならず、父母死して後、終をつゝしみて、葬りをあつくし、遠きを追ひて、時節の祭おこたる可らず。又、わが身を終るまで、父母を思ひしたひて忘るべからず。わが一生の間、身をつゝしみ、行を正しくして、わが身をはづかしめず、父母の名を汚さゞる、是亦孝の道において、重んずる所なり。武士は、武勇をむねとして、君に忠するも、亦孝の道なり。もし、戰場にて、勇なくおくれをとり、或は、變にのぞみて節義を失ふも、我が名をけがし、親をはづかしめて、大なる不孝なり。婦人の夫にそむき不義なるも、大なる不孝なり。一君は、我をやしなひ給ひて、父母、妻子、奴婢も、皆、君恩によりて育み、衣服、居室、器物、萬の財用まで、皆是、君のたまものなり。其恩甚大なり。つねに、其恩を思ひて忘るべからず。こゝを以て、君につかふる人は、ひとへに君のために忠をのみ志して私をわすれ、わが身を顧ることなかれ。
新字:一およそ、孝の道は、父母の存生の間、よくつかふるのみならず、父母死して後、終をつゝしみて、葬りをあつくし、遠きを追ひて、時節の祭おこたる可らず。又、わが身を終るまで、父母を思ひしたひて忘るべからず。わが一生の間、身をつゝしみ、行を正しくして、わが身をはづかしめず、父母の名を汚さゞる、是亦孝の道において、重んずる所なり。武士は、武勇をむねとして、君に忠するも、亦孝の道なり。もし、戦場にて、勇なくおくれをとり、或は、変にのぞみて節義を失ふも、我が名をけがし、親をはづかしめて、大なる不孝なり。婦人の夫にそむき不義なるも、大なる不孝なり。一君は、我をやしなひ給ひて、父母、妻子、奴婢も、皆、君恩によりて育み、衣服、居室、器物、万の財用まで、皆是、君のたまものなり。其恩甚大なり。つねに、其恩を思ひて忘るべからず。こゝを以て、君につかふる人は、ひとへに君のために忠をのみ志して私をわすれ、わが身を顧ることなかれ。
書き下し
一およそ、孝の道は、父母の存生の間、よくつかふるのみならず、父母死して後、終をつつしみて、葬りをあつくし、遠きを追ひて、時節の祭おこたる可らず。又、わが身を終るまで、父母を思ひしたひて忘るべからず。わが一生の間、身をつつしみ、行を正しくして、わが身をはづかしめず、父母の名を汚さざる、是亦孝の道において、重んずる所なり。武士は、武勇をむねとして、君に忠するも、亦孝の道なり。もし、戦場にて、勇なくおくれをとり、或は、変にのぞみて節義を失ふも、我が名をけがし、親をはづかしめて、大なる不孝なり。婦人の夫にそむき不義なるも、大なる不孝なり。一君は、我をやしなひ給ひて、父母、妻子、奴婢も、皆、君恩によりて育み、衣服、居室、器物、万の財用まで、皆是、君のたまものなり。其恩甚大なり。つねに、其恩を思ひて忘るべからず。ここを以て、君につかふる人は、ひとへに君のために忠をのみ志して私をわすれ、わが身を顧ることなかれ。
現代語訳
およそ孝の道は、父母が生きている間によく仕えるだけでなく、父母が亡くなった後も、最期を慎んで葬りを手厚くし、遠い先祖を追慕して、時節の祭りを怠ってはいけません。また、生涯を終えるまで、父母を思い慕って忘れてはいけません。自分の一生の間、身を慎み、行いを正しくして、自分の身を辱めず、父母の名を汚さないこと、これもまた孝の道において重んじるところです。武士は武勇を主として主君に忠を尽くすのも、また孝の道です。もし戦場で勇気がなく遅れを取ったり、あるいは変事に臨んで節義を失ったりするのも、自分の名を汚し、親を辱めて、大きな不孝です。婦人が夫に背いて不義をするのも、大きな不孝です。主君は自分を養ってくださり、父母・妻子・召使いも、みな主君の恩によって育まれ、衣服・住まい・器物・あらゆる財用まで、みな主君の賜物です。その恩はとても大きい。常にその恩を思って忘れてはいけません。このため、主君に仕える人は、ひたすら主君のために忠だけを志して私心を忘れ、自分の身を顧みてはいけません。
解説
この章句が説くこと
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