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翁問答 / 上卷之本

躰充問曰孝經發端の章に、餘の人倫は言はずして、中于事君、忠の一典を說き給ふは、何たる故にて候や。師の曰君父は恩等しき者なり、父生之君食之と云て、皆命を保つ恩なり、親は始めなる故に孝の根本とす、恩等しき故に中于事君と第二に說て、孝德萬事萬物に感通する例となして、兄弟夫婦朋友の道を其內に含み兼たり、孝經篇末に獨り君に事るの一義を發明し給ふも此意なり。

新字:体充問曰孝経発端の章に、余の人倫は言はずして、中于事君、忠の一典を説き給ふは、何たる故にて候や。師の曰君父は恩等しき者なり、父生之君食之と云て、皆命を保つ恩なり、親は始めなる故に孝の根本とす、恩等しき故に中于事君と第二に説て、孝徳万事万物に感通する例となして、兄弟夫婦朋友の道を其内に含み兼たり、孝経篇末に独り君に事るの一義を発明し給ふも此意なり。

書き下し

体充問曰孝経発端の章に、余の人倫は言はずして、中于事君、忠の一典を説き給ふは、何たる故にて候や。師の曰君父は恩等しき者なり、父生之君食之と云て、皆命を保つ恩なり、親は始めなる故に孝の根本とす、恩等しき故に中于事君と第二に説て、孝徳万事万物に感通する例となして、兄弟夫婦朋友の道を其内に含み兼たり、孝経篇末に独り君に事るの一義を発明し給ふも此意なり。

現代語訳

体充が問うた。『孝経』の冒頭の章に、他の人倫は言わずに「君に事うるに中ぶ」として忠の一典を説かれるのは、どういうわけでしょうか。師は答えた。君と父とは恩が等しいものである。「父之を生み、君之を食う」といって、どちらも命を保つ恩である。親は始めであるから孝の根本とする。恩が等しいので「君に事うるに中ぶ」と第二に説いて、孝の徳が万事万物に感応する例とし、兄弟・夫婦・朋友の道をその内に含めたのである。『孝経』の篇末にただ君に仕える一義を明らかにされたのも、この意味である。

解説

『孝経』開宗明義章は「孝は親に事うるに始まり、君に事うるに中び、身を立つるに終わる」と説く。なぜ親の次に君が来るのかという問いに、藤樹は父は命を生み、君は命を養うから恩が等しいと答える。「父之を生み、君之を食う」は『国語』晋語に見える言葉とされる。君臣の関係を孝の延長に置くのは、孝を全ての人倫の根本とする本書の立場による。ここでの君は、現代で言えば自分を養い生かしてくれる組織や社会に置き換えて考えることもできる。受けている恩を自覚することは、仕事への向き合い方を変える。

この章句が説くこと

孝忠孝経恩君臣五倫

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