初学訓 / 巻之二
一もし、父母の身に過あらば、子たる者、わが顏を悅ばしめ、聲を和らげ、言をゆるやかにして、やうやく諫むべし。父母いさめを用ひずして、かへつて怒らば、諫をまづ止むべし。父母の心にそむくべからず。時過ぎて、父母のけしきよき時、又いさむべし。はげしく諫めて、父母の心にさからふべからず。
新字:一もし、父母の身に過あらば、子たる者、わが顔を悦ばしめ、声を和らげ、言をゆるやかにして、やうやく諫むべし。父母いさめを用ひずして、かへつて怒らば、諫をまづ止むべし。父母の心にそむくべからず。時過ぎて、父母のけしきよき時、又いさむべし。はげしく諫めて、父母の心にさからふべからず。
書き下し
一もし、父母の身に過あらば、子たる者、わが顔を悦ばしめ、声を和らげ、言をゆるやかにして、やうやく諫むべし。父母いさめを用ひずして、かへつて怒らば、諫をまづ止むべし。父母の心にそむくべからず。時過ぎて、父母のけしきよき時、又いさむべし。はげしく諫めて、父母の心にさからふべからず。
現代語訳
もし父母の身に過ちがあれば、子である者は、自分の顔を明るくし、声を和らげ、言葉をゆるやかにして、少しずつ諫めるべきです。父母が諫めを聞き入れず、かえって怒るようなら、諫めはひとまずやめるべきです。父母の心に背いてはいけません。時がたって、父母の機嫌のよいときに、また諫めるべきです。激しく諫めて、父母の心に逆らってはいけません。
解説
論語里仁篇の「父母に事へては幾諫す」、つまり穏やかにそれとなく諫めよという教えを、具体的な作法にした条です。孝とは何でも従うことではなく、過ちは正さなければなりません。しかし正論を激しくぶつければ、親は意地になって聞き入れません。益軒は、表情と声を和らげ、怒られたら引き、機嫌のよい時に改めて言えと勧めます。高齢の親に運転や健康のことで意見するときなど、今もそのまま使える知恵です。正しさより伝わり方が大切なのです。
この章句が説くこと
諫言孝論語伝え方親子
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『翁問答』上卷之本扨又己れの力らに従ひて、充分に心力を尽し、苦身を顧みす、我身と妻子の私用を第二として、一家の内にての食物の滋味を備へ、衣服の軽煖を捧げ、いかにも愉色を尽し、父母の受け悦はるゝ様に取なし、若又病ある時は良医の療治を求め、看病の労を尽しぬるは、能く養ふの大槪なり、若又父母不義あらば、何と無く父母感悟ある様に諫むべし、若又父母悦ばずして怒りを成さば、別して色を悦ばしめ、孝を起し敬を起して、親の怒に逆ふべからず、如此幾度も諫め或は親の相ひ口の友を頼みて諫むべし、親には道を悟らしむる様にするが、孝の第一なり、父母既に天年限り在て、永き別れの憂へに当る時は、哀み誠を尽し礼法を以て葬を成し、喪に居て哀戚を尽し宗廟祠堂を立て、鬼神に事へ、四時俗節忌日の祭には、誠敬を尽して合奠の孝を押極むるを、子の孝と云なり、
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荀子・子道篇魯の哀公、孔子に問いて曰く、「子、父の命に従うは、孝なるか。臣、君の命に従うは、貞なるか」と。三たび問うも、孔子対(こた)えず。孔子趨(はし)り出でて以て子貢に語りて曰く、「郷者(さきごろ)、君、丘(きゅう)に問いて曰く、『子、父の命に従うは孝なるか。臣、君の命に従うは貞なるか』と。三たび問うも丘対えず。賜(し)、以て何如(いかん)と為す」と。子貢曰く、「子、父の命に従うは孝なり。臣、君の命に従うは貞なり。夫子、奚(なん)の対うること有らんや」と。孔子曰く、「小人なるかな。賜、識(し)らざるなり。昔、万乗の国に争臣(そうしん)四人有れば、則ち封疆(ほうきょう)削られず。千乗の国に争臣三人有れば、則ち社稷(しゃしょく)危うからず。百乗の家に争臣二人有れば、則ち宗廟毀(こぼ)たれず。父に争子(そうし)有れば、無礼を行わず。士に争友有れば、不義を為さず。故に子、父に従うも、奚ぞ子の孝ならん。臣、君に従うも、奚ぞ臣の貞ならん。其の従う所以を審(つまび)らかにする、之を孝と謂い、之を貞と謂うなり」と。
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礼記・内則外内は井を共にせず、湢浴(ひょくよく)を共にせず、寝席を通ぜず、乞仮(きっか)を通ぜず、男女は衣裳を通ぜず、内言は出でず、外言は入らず。男子内に入れば、嘯(うそぶ)かず指ささず、夜行くには燭を以てし、燭無ければ則ち止む。女子門を出づれば、必ず其の面を擁蔽(ようへい)し、夜行くには燭を以てし、燭無ければ則ち止む。道路には、男子は右に由り、女子は左に由る。子婦の孝なる者、敬なる者は、父母舅姑の命に、逆らうこと勿く怠ること勿し。若しこれに飲食せしむれば、耆(この)まずと雖も、必ず嘗めて待つ。これに衣服を加うれば、欲せずと雖も、必ず服して待つ。これに事を加え、人これに待(か)わらんとすれば、己弗欲すと雖も、姑(しばら)くこれに与え、而して姑くこれを使わしめ、而して後にこれを復す。子婦に勤労の事有れば、甚だこれを愛すと雖も、姑くこれを縦(ほしいまま)にし、而して寧(むし)ろ数(しばしば)これを休ましむ。子婦未だ孝ならず未だ敬ならざれば、庸(もち)いて疾怨すること勿く、姑くこれを教えよ。若し教うべからずして、而る後にこれを怒れ。怒るべからざれば、子は放ち婦は出だして、而して礼を表わさず。父母に過ち有れば、気を下し色を怡(やわら)げ、声を柔らげて以て諫む。諫め若し入れられずんば、敬を起こし孝を起こし、説(よろこ)べば則ち復た諫む。説ばざるも、其の罪を郷党州閭(きょうとうしゅうりょ)に得んよりは、寧ろ孰(つまび)らかに諫めよ。父母怒りて説ばず、而してこれを撻(う)ちて血を流すも、敢えて疾怨せず、敬を起こし孝を起こす。父母に婢子若しくは庶子・庶孫有りて、甚だこれを愛すれば、父母没すと雖も、身を没するまでこれを敬して衰えず。子に二妾有り、父母一人を愛し、子一人を愛すれば、衣服飲食由(よ)り、執事由り、敢えて父母の愛する所に視(なら)うこと毋かれ、父母没すと雖も衰えず。子甚だ其の妻を宜しとするも、父母説ばざれば、出だす。子其の妻を宜しとせざるも、父母曰く、「是れ善く我に事う」と、子は夫婦の礼を行い、身を没するまで衰えず。
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