言志四録 / 言志耋録 第十二条 忠と勇も孝なり
事君不忠非孝。戰陣無勇非孝。是知能忠能勇。則是致之也。乃是能。
新字:事君不忠非孝。戦陣無勇非孝。是知能忠能勇。則是致之也。乃是能。
書き下し
君に事へて忠ならざるは孝に非ず。戦陣に勇無きは孝に非ず。是れ能く忠に能く勇なるを知れば、則ち是れ之を致すなり。乃ち是れ能なり。
現代語訳
主君に仕えて忠実でないのは孝ではない。戦場で勇気がないのは孝ではない。このように、忠を尽くし勇を奮うことができると知ったならば、それを実際に推し進めて行う。それがすなわち「能」(実践する力)である。
解説
「君に事へて忠ならざるは孝に非ず、戦陣に勇無きは孝に非ず」は、『礼記』祭義篇に曾子の言葉として見える句です。親への孝は家の中だけで完結するものではなく、仕事への誠実さや危急の場での勇気として外に表れて初めて本物になる、という考えです。一斎はこれを前二条の「知」と「能」の議論に結びつけ、忠や勇が孝のうちにあると知ったなら、それを推し致して行うことが「能」だと言います。知ったことを実際の場面にまで押し広げてこそ、知は生きる。家庭での徳と職場での責任を別物とせず、一つの筋で考えさせてくれる一条です。
この章句が説くこと
孝忠勇致知実践
関連する章句
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呂氏春秋・孝行③曾子曰く、「身は、父母の遺體なり。父母の遺體を行う、敢て敬せざらんや。居處莊ならざるは、孝に非ざるなり。君に事えて忠ならざるは、孝に非ざるなり。官に蒞みて敬ならざるは、孝に非ざるなり。朋友に篤からざるは、孝に非ざるなり。戰陳に勇無きは、孝に非ざるなり。五行遂げざれば、災い親に及ぶ。敢て敬せざらんや。」
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『都鄙問答』卷之一・武士ノ道ヲ問ノ段曰く、我学問なければ、六ヶ敷きことを問ふには非ず。只心得やすきやうに語らるべし。我一年参宮致し、御師へ太神宮の御教を示し玉へと云ひければ、此の神の御教は、只正直を以て善とす。親への孝、君への忠、直さまにして家業を情に入れ、心に掛かることなく、其の上に罪咎あらば、其の罪咎は某が受けんと云はれけり。扨て心易き御教かなと思ひ、今少し六ヶ敷き教もあらば、示し玉へと云ひければ、御師の云ふ、此のこと、心易く勤まりなば、重ねて告げんと云はれけり。心易く思ひ勤め見れども、先づ正直が勤まらず、孝と忠とは猶往かず、其の上家業を情に入れ、心に掛からぬ様に勤むること、此の身の一生にては、勤まるべきとは思はれず。思へば思ふほど、高大なることかなと、感心致し侍るなり。只加様に心易く告げられよと云ふ。
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論語・学而篇子夏曰く、「賢を賢として色に易え、父母に事えて能く其の力を竭くし、君に事えて能く其の身を致し、朋友と交わるに言いて信有らば、未だ学ばずと曰うと雖も、吾は必ず之を学びたりと謂わん。」
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葉隠・聞書第一忠臣は孝子の門に尋ねよとあり。随分(ずいぶん)心を尽くして孝行すべき事なり。奉公に精を出す人は自然にはあれども、孝行に精出す人は稀なり。よき者には他人も懇(ねんご)ろに、亡き後にて残り多く、孝行に精出す人は稀なり。無理なる人、無理なる親にてなくば知れまじきなり。
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『武士道』第九章 忠節・支那は孝を本とし日本は忠を本とす此れと等しく、日本人の懐抱する如き忠節は、国を異にして之を頌するものの、ほとんど稀なるを見ん。然れども此れ、吾人の観念の非なるが故にあらずして、却つて彼れにありては既に之を忘却せるが故にして、又た日本人の忠節の念に深厚なるは、他国の未だ容易に企及する能はざるものあるが為なるなからんか。グリフィス氏が、支那に在りては孔教は孝を以て百行の基と為し、日本に在りては忠を以て本と為す、と説けるは真に然り。予は今ここに、読者の或は吃驚酸鼻すべきを顧みず、シェイクスピアの所謂『落魄の主君に仕へて艱苦をつぶさにし』、以て『稗史に名を得たる』忠臣の物語を叙せん。其物語は、我国史を飾れる清廉高義の人格、菅原道真を寓せるものなり。
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