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初学訓 / 巻之二

もし財あらば、日々に、味よき物をすゝめずんば有るべからず。古人の詩に、人生有祿親白頭。何能一日無甘饌。又曰、古人一日養。不以三公換。といへり。又老人は、體氣よわきゆゑ、風寒暑濕にやぶられやすし。其防ぎを嚴しくすべし。飮食と風寒暑濕にやぶられて、節にたがふことすこしなりといへども、病となりて、害をなすことは大なり。おこたりなく、其初を防ぐべし。行立坐臥に、つねに心をつけて、扶けたもつべし。是、體をやしなふなり。父母に仕ふるに、志を養ふと、體を養ふとの二なければ、孝の道行はれず。内には愛敬の二をたもち、外には養志養體の二を行ふべし。是愛敬の心を以て、父母を養ふ孝の道なり。只體を養ふのみにて、志を養はざれば、孝にあらず。

新字:もし財あらば、日々に、味よき物をすゝめずんば有るべからず。古人の詩に、人生有禄親白頭。何能一日無甘饌。又曰、古人一日養。不以三公換。といへり。又老人は、体気よわきゆゑ、風寒暑湿にやぶられやすし。其防ぎを厳しくすべし。飲食と風寒暑湿にやぶられて、節にたがふことすこしなりといへども、病となりて、害をなすことは大なり。おこたりなく、其初を防ぐべし。行立坐臥に、つねに心をつけて、扶けたもつべし。是、体をやしなふなり。父母に仕ふるに、志を養ふと、体を養ふとの二なければ、孝の道行はれず。内には愛敬の二をたもち、外には養志養体の二を行ふべし。是愛敬の心を以て、父母を養ふ孝の道なり。只体を養ふのみにて、志を養はざれば、孝にあらず。

書き下し

もし財あらば、日々に、味よき物をすすめずんば有るべからず。古人の詩に、人生禄有りて親白頭。何ぞ能く一日も甘饌無からん。又曰く、古人一日の養。三公を以て換へず。といへり。又老人は、体気よわきゆゑ、風寒暑湿にやぶられやすし。其防ぎを厳しくすべし。飲食と風寒暑湿にやぶられて、節にたがふことすこしなりといへども、病となりて、害をなすことは大なり。おこたりなく、其初を防ぐべし。行立坐臥に、つねに心をつけて、扶けたもつべし。是、体をやしなふなり。父母に仕ふるに、志を養ふと、体を養ふとの二なければ、孝の道行はれず。内には愛敬の二をたもち、外には養志養体の二を行ふべし。是愛敬の心を以て、父母を養ふ孝の道なり。只体を養ふのみにて、志を養はざれば、孝にあらず。

現代語訳

もし財力があるなら、毎日おいしい物をお勧めしないわけにはいきません。古人の詩に「人生、禄を得て親は白髪頭。どうして一日でもうまいごちそうを欠かせようか」とあり、また「古人は親を一日養うことを、三公の位とも換えなかった」とあります。また老人は体力が弱いので、風・寒さ・暑さ・湿気に損なわれやすい。その防ぎを厳しくすべきです。飲食や風寒暑湿に損なわれて、体の調子が少し狂うだけでも、病となって害をなすことは大きい。怠りなく、その初めを防ぐべきです。歩く・立つ・座る・寝るのいずれにも、常に気をつけて支え保つべきです。これが体を養うことです。父母に仕えるには、志を養うことと体を養うことの二つがなければ、孝の道は行われません。内には愛と敬の二つを保ち、外には志を養い体を養う二つを行うべきです。これが愛敬の心をもって父母を養う孝の道です。ただ体を養うだけで志を養わなければ、孝ではありません。

解説

親を養う一日は、最高の官職である三公の位とも換えられないという古人の言葉を引き、体を養う孝の重さを説きます。そのうえで益軒は、老人は寒暑や飲食で体を崩しやすいので「初めを防げ」と、予防の大切さを強調します。のちの『養生訓』に通じる考えです。そして最後に、体の世話だけでは孝ではないと再び念を押します。介護の現場でも、食事や入浴の世話と同じくらい、本人の気持ちや尊厳に寄り添うことが大切だといわれます。三百年前と同じ結論です。

この章句が説くこと

孝養体予防愛敬介護

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