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初学訓 / 巻之二

もし、忘るべきことならば、書きつけ置きてつとむべし、わすれて怠るべからず。いとけなき時、父母を慕へる心を失はず、年たけて後も、父母を思ひしたひて忘れず。父母に對するになづなづしく、愛敬二ながら心にありて、顏色言葉、にこやかにのどやかにして、恭しく父母の心にたがはず、父母の前に久しく在りて、其敎を聽き、物がたりして、親をなぐさめ樂ましめ、其志に背かず。わが心にも、父母に對して、物語するを樂み、父母のよろこべるを悅ぶべし。もし、老いたる人をむづかしくおもひ、久しく相對するを懶く興なくおもひて退屈し、うらめしく厭ひ苦むは、愛敬二ながら缺たるなり。大不孝といふべし。孟子に、大孝は、身を終るまで父母をしたふといへり。

新字:もし、忘るべきことならば、書きつけ置きてつとむべし、わすれて怠るべからず。いとけなき時、父母を慕へる心を失はず、年たけて後も、父母を思ひしたひて忘れず。父母に対するになづなづしく、愛敬二ながら心にありて、顔色言葉、にこやかにのどやかにして、恭しく父母の心にたがはず、父母の前に久しく在りて、其教を聴き、物がたりして、親をなぐさめ楽ましめ、其志に背かず。わが心にも、父母に対して、物語するを楽み、父母のよろこべるを悦ぶべし。もし、老いたる人をむづかしくおもひ、久しく相対するを懶く興なくおもひて退屈し、うらめしく厭ひ苦むは、愛敬二ながら欠たるなり。大不孝といふべし。孟子に、大孝は、身を終るまで父母をしたふといへり。

書き下し

もし、忘るべきことならば、書きつけ置きてつとむべし、わすれて怠るべからず。いとけなき時、父母を慕へる心を失はず、年たけて後も、父母を思ひしたひて忘れず。父母に対するになづなづしく、愛敬二ながら心にありて、顔色言葉、にこやかにのどやかにして、恭しく父母の心にたがはず、父母の前に久しく在りて、其教を聴き、物がたりして、親をなぐさめ楽ましめ、其志に背かず。わが心にも、父母に対して、物語するを楽み、父母のよろこべるを悦ぶべし。もし、老いたる人をむづかしくおもひ、久しく相対するを懶く興なくおもひて退屈し、うらめしく厭ひ苦むは、愛敬二ながら欠たるなり。大不孝といふべし。孟子に、大孝は、身を終るまで父母をしたふといへり。

現代語訳

もし忘れそうなことであれば、書きつけておいて努めるべきで、忘れて怠ってはいけません。幼いときに父母を慕った心を失わず、年をとってからも父母を思い慕って忘れない。父母に対しては親しみ深く、愛と敬の二つをともに心に持って、顔色も言葉もにこやかにのどかにして、恭しく父母の心に背かず、父母の前に長くいて、その教えを聞き、話をして、親を慰め楽しませ、その志に背かない。自分の心でも、父母と話すことを楽しみ、父母が喜ぶことを喜ぶべきです。もし年老いた親を面倒に思い、長く向き合うのをおっくうでつまらないと思って退屈し、恨めしく嫌い苦しむのは、愛と敬の二つがともに欠けているのです。大不孝というべきです。『孟子』に「大孝は、生涯父母を慕う」とあります。

解説

親の言いつけを書き留めよという実際的な助言に始まり、年老いた親との時間を楽しめるかどうかに孝の真価があると説きます。『孟子』万章上篇の「大孝は終身父母を慕ふ」が引かれます。老いた親の話を退屈に感じたり、同じ話の繰り返しにいらだったりするのは、誰にでもあることです。益軒はそれを愛敬の欠けとして厳しく戒めます。介護や同居の場面でこそ問われる心構えです。義務としてではなく、親と過ごす時間そのものを味わう心を持ちたいものです。

この章句が説くこと

孝愛敬老親孟子介護

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