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樵談治要抄録 / 諫めを受ける度量

春の雨の草木をうるほす事、大小の根莖をわかたざるがごとし、子を見るは父にしかず、臣をみるは君にしかずと申侍れば、よきあしきに付て、其心得をみ給て、正躰なき者の申事には、同心あるべからず、狐狸は人をばかす物ぞとしりぬれば、ばかされぬがごとし、次に君のあやまりましまさむ時は、諫め申を忠心といふ、存知ながら申入ざらんをば、不忠の人と云ふべし、いさめ申につきては、機嫌によりて、かならず怒をなし給ふとも、有べし、いかにも生涯にかへても、申べき事をば申べき也、君も又いかに御意にちがふヿなりとも、それを咎になさるゝ事はゆめ〱有べからず、大事と存ずればこそ是程までは申らめと、別して後には勸賞をもをこなはるべき事也、さりながら此頃の人は、いかによき事なれども、我心にたがふをばわろしと申、わろき事なれ共、我心にかなふをばよしと申侍べし、かやうならんいさめは、只我心に任せていふヿなれば、國のため其しるし有べからず、さればまづ人をよく心み給ふべき事也、昔朱雲といふ人、

新字:春の雨の草木をうるほす事、大小の根茎をわかたざるがごとし、子を見るは父にしかず、臣をみるは君にしかずと申侍れば、よきあしきに付て、其心得をみ給て、正体なき者の申事には、同心あるべからず、狐狸は人をばかす物ぞとしりぬれば、ばかされぬがごとし、次に君のあやまりましまさむ時は、諫め申を忠心といふ、存知ながら申入ざらんをば、不忠の人と云ふべし、いさめ申につきては、機嫌によりて、かならず怒をなし給ふとも、有べし、いかにも生涯にかへても、申べき事をば申べき也、君も又いかに御意にちがふヿなりとも、それを咎になさるゝ事はゆめ〱有べからず、大事と存ずればこそ是程までは申らめと、別して後には勧賞をもをこなはるべき事也、さりながら此頃の人は、いかによき事なれども、我心にたがふをばわろしと申、わろき事なれ共、我心にかなふをばよしと申侍べし、かやうならんいさめは、只我心に任せていふヿなれば、国のため其しるし有べからず、さればまづ人をよく心み給ふべき事也、昔朱雲といふ人、

書き下し

春の雨の草木をうるほす事、大小の根莖をわかたざるがごとし、子を見るは父にしかず、臣をみるは君にしかずと申侍れば、よきあしきに付て、其心得をみ給て、正躰なき者の申事には、同心あるべからず、狐狸は人をばかす物ぞとしりぬれば、ばかされぬがごとし、次に君のあやまりましまさむ時は、諫め申を忠心といふ、存知ながら申入ざらんをば、不忠の人と云ふべし、いさめ申につきては、機嫌によりて、かならず怒をなし給ふとも、有べし、いかにも生涯にかへても、申べき事をば申べき也、君も又いかに御意にちがふヿなりとも、それを咎になさるゝ事はゆめ〱有べからず、大事と存ずればこそ是程までは申らめと、別して後には勸賞をもをこなはるべき事也、さりながら此頃の人は、いかによき事なれども、我心にたがふをばわろしと申、わろき事なれ共、我心にかなふをばよしと申侍べし、かやうならんいさめは、只我心に任せていふヿなれば、國のため其しるし有べからず、さればまづ人をよく心み給ふべき事也、昔朱雲といふ人、

現代語訳

春の雨が草木を潤すのに、大小の根や茎を分けないようなものです。「子を見るのは父に及ばず、臣を見るのは君に及ばない」と申しますので、善し悪しにつけて、その心得を見ておられて、正体のない者の言うことには同心なさらぬがよいでしょう。狐や狸は人を化かすものと知っていれば、化かされないのと同じです。次に、君に誤りがおありの時は、諫め申し上げるのを忠心と言います。承知しながら申し入れないのは、不忠の人と言うべきです。諫め申し上げるにあたっては、ご機嫌によって、必ず怒りなさることもあるでしょう。何としても生涯にかえても、申すべきことは申すべきです。君もまた、たとえ御意に違うことでも、それを咎めになさることは決してあってはなりません。大事と思えばこそここまで申すのだろうと、むしろ後には勧賞をも行われるべきです。とはいえこのごろの人は、どれほどよいことでも、自分の心に違えば悪いと言い、悪いことでも自分の心にかなえばよいと申すでしょう。このような諫めは、ただ自分の心に任せて言うことなので、国のためにその験があるはずがありません。ですからまず人をよく試みなさるべきです。昔、朱雲という人が、

解説

主君の誤りを知りながら諫めないのは不忠であり、諫められた君は咎めずむしろ後に賞すべきだと述べられます。同時に、自分の好き嫌いで諫めを選り分ける人や、都合のよい意見だけを聞く態度は国のためにならないとも戒めます。諫める側には命を懸ける覚悟、受ける側には怒りを抑える度量が必要という双方向の話です。現代の管理職にとっても、耳に痛い進言を罰さず、その動機を見極めて受け止める姿勢が、組織の失敗を未然に防ぎます。

この章句が説くこと

諫言忠心逆鱗人を試みる勧賞度量

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