新書 / 瑰瑋
黼黻文繡纂組害女工。且夫百人作之,不能衣一人,方且萬里不輕能具天下之力,勢安得不寒?世之俗侈相耀,人慕其所不如,悚迫於俗,願其所未至,以相競高,而上非有制度也。今唯刑餘鬻妾下賤,衣服得過諸侯、擬天子,是使天下公得冒主而夫人務侈也。冒主務侈,則天下寒而衣服不足矣。故以文繡衣民而民愈寒;以褫民,民必暖而有餘布帛之饒矣。夫奇巧末技、商販遊食之民,形佚樂而心縣愆,志苟得而行淫侈,則用不足而蓄積少矣;即遇凶旱,必先困窮迫身,則苦饑甚焉。今敺民而歸之農,皆著於本,則天下各食於力。末技、遊食之民轉而緣南畝,則民安性勸業而無縣愆之心,無苟得之志,行恭儉蓄積而人樂其所矣。故曰「苦民而民益樂」也。
新字:黼黻文繍纂組害女工。且夫百人作之,不能衣一人,方且万里不軽能具天下之力,勢安得不寒?世之俗侈相耀,人慕其所不如,悚迫於俗,願其所未至,以相競高,而上非有制度也。今唯刑余鬻妾下賤,衣服得過諸侯、擬天子,是使天下公得冒主而夫人務侈也。冒主務侈,則天下寒而衣服不足矣。故以文繍衣民而民愈寒;以褫民,民必暖而有余布帛之饒矣。夫奇巧末技、商販遊食之民,形佚楽而心県愆,志苟得而行淫侈,則用不足而蓄積少矣;即遇凶旱,必先困窮迫身,則苦饑甚焉。今敺民而帰之農,皆著於本,則天下各食於力。末技、遊食之民転而縁南畝,則民安性勧業而無県愆之心,無苟得之志,行恭倹蓄積而人楽其所矣。故曰「苦民而民益楽」也。
書き下し
黼黻文繡纂組は女工を害す。且つ夫れ百人 之を作れども、一人に衣せしむる能わず。方に且つ万里 軽く天下の力を具うる能わず、勢い安くんぞ寒からざるを得ん。世の俗 侈りて相い耀かし、人は其の如かざる所を慕い、俗に悚迫して、其の未だ至らざる所を願い、以て相い競い高うす。而して上に制度有るに非ざるなり。今 唯だ刑余・鬻妾の下賤すら、衣服 諸侯を過ぎ天子に擬するを得、是れ天下をして公に主を冒し夫人をして侈りを務めしむるなり。主を冒し侈りを務むれば、則ち天下 寒くして衣服 足らず。故に文繡を以て民に衣すれば民 愈いよ寒し。以て民を褫げば、民は必ず暖かくして布帛の饒有余あらん。夫れ奇巧の末技、商販遊食の民は、形 佚楽して心 愆に県り、志 苟得にして行い淫侈なり。則ち用 足らずして蓄積 少なし。即し凶旱に遇えば、必ず先ず困窮して身に迫り、則ち苦しみ饑えること甚だし。今 民を駆りて之を農に帰し、皆 本に著かしむれば、則ち天下 各おの力に食む。末技・遊食の民 転じて南畝に縁らば、則ち民 性を安んじ業を勧め、愆に県るの心無く、苟得の志無く、行い恭倹にして蓄積し、人 其の所を楽しまん。故に曰く「民を苦しめて民 益ます楽しむ」と。
現代語訳
黼黻や刺繍、組紐の飾りは、女の手仕事を害します。そもそも百人が作っても、一人分の衣さえ賄えません。万里の遠くまで天下の力を揃えることもたやすくできないのに、どうして寒くならずにいられるでしょう。世の風俗は贅沢で、互いに輝きを誇り、人は自分に及ばないものを慕い、風俗に急き立てられて、まだ手の届かないものを願って、互いに競い高めようとします。しかも上に制度がないのです。いま刑を受けた者や身売りの妾といった下賤の者でも、衣服は諸侯を超え、天子に似せることができる、これは天下の人に公然と主を犯させ、婦人に贅沢を務めさせることです。主を犯し贅沢を務めれば、天下は寒く、衣服は足りなくなります。だから刺繍の飾りを民に着せれば民はますます寒く、それを脱がせれば、民は必ず暖かく、布や絹も余るほど豊かになります。そもそも珍奇な細工の末技や、商いや遊び暮らしの民は、体は楽でも心は過ちにぶら下がり、志は不当な利を得ることにあり、行いは贅沢に流れます。そうなると使うものが足りず、蓄えも少なくなります。もし凶作や日照りに遭えば、真っ先に困窮して身に迫り、飢えの苦しみは甚だしくなります。いま民を駆り立てて農に戻し、みな根本に就かせれば、天下はそれぞれ自分の力で食べていきます。末技や遊食の民が畑に向かえば、民は性を安んじ業に励み、過ちに心を寄せることも不当な利を狙うこともなく、恭しく倹約して蓄え、人はそれぞれの場で楽しみます。だから「民を苦しめて民はますます楽しむ」と言うのです。
解説
この章句が説くこと
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『政談』國の締り一篇の發端の事総して国の治めと云ふは、譬へば碁盤の目を盛るが如し、目を盛らざる盤にては、何ほどの上手にても碁はうたれぬなり、洪水を静むるには、川筋を付るなり、川筋を付ざれば、禹王再び生れ出たまふとも、水を静むることは叶はざるなり、当時火災の事上の御世話にて塗屋土蔵造に成りたれば、火災自然と少なし、是明かなる証拠なり、其外の御政務には、此訳を申し立る人なきにや、是によりて和漢の古法を考へ愚案の量見を左に記す、
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『政談』右四册大意の事右四册の物語りに瑣細なるまでを記したることは、当時は法の立てやう未熟にて、大なる所に法立たず、末に計り法立ちてある故世界に締り無く、風俗ひたものに移り行き、今は法は法にて有りながら、下は下にて別々になりて、法も詮無きことに成りたることを知らせ奉らんためなり、当時のことなど見及び聞及びたる争などを少々書きたるは、定めて承はり違ひもあるべし、又愚按の違ひもあるべし、政治の道はひきつはなれたることにあらず、世の成行世界の全体を知し召すこと肝要なり、肝心の所は世界旅宿の境界なると、諸事の制度なきと、此二つに帰することなり、是によりて、戸籍を立て万民を住所に有付ると、町人百姓と武家と制度の差別を立ると、大名の家に制度を立ると御買上と云ことの之なきやうにすると、大体是にて世界はすぐなをり豊かに成るへし、
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『政談』諸色直段の事偖又用ゆるもの多き故に高直になる、此用ゆる者多きは制度なきより起れり、元来貴き人は善きものを用ひ、賤きものは悪きものを用ゆるときは、物各々其宜きを得るゆゑ諸色高直にはならぬを、今は賤き者まても善きものを用ゆると云は如何やうの事なれは、御城下に来集る民は素は田舎のものにて、麦粟種等の雑穀を食し、濁酒を飲み、味噌をも食せす、すくも火を焼き、麻木綿を織て着し、席薦の上に寝臥をしたるものか、心儘に御城下に来住する故、米味噌を食し、薪を焼き、炭の火にあたり、衣服も買整へて着し、善酒を飲み、田舎に之なき障子を立て、天井を張り、唐紙を張り、畳を敷き、蚊屋を釣るなとすることは、ぼていふりも皆斯の如し、少しも善き町人は衣服食事家居器物まても金さへあれは大名と同しことにて誰れ制する者なし、是諸物の用ゆる人多き故諸色の高直なること尤なり、
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尉繚子・制談此くの如くんば、戦ひ勝つと雖も国益々弱く、地を得るも国益々貧しきは、国中の制弊るるに由るなり。
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『墨子』尚同中子墨子曰く、方今の時の正長は、則ち本より古者と異なれり。之を譬うるに量るに五刑を以てするが若く然り。昔者、聖王は制して五刑を為り、以て天下を治む。有苗の五刑を制するに逮び至りては、以て天下を亂る。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なるなり。是を以て先王の書、呂刑の道いて曰く、「苗民、練を用いず、折くに則ち刑し、唯だ五殺の刑を作り、法と曰う」と。則ち此れ善く刑を用うる者は以て民を治め、善く刑を用いざる者は以て五殺と為すを言う。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なり、故に遂に以て五殺と為す。是を以て先王の書、術令の道いて曰く、「惟れ口は好を出だし戎を興す」と。則ち此れ善く口を用うる者は好を出だし、善く口を用いざる者は以て讒賊冦戎と為すを言う。則ち此れ豈に口の不善ならんや。口を用うること則ち不善なり、故に遂に以て䜛賊冦戎と為す。
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『政談』當時制度之なき事兼て制度を立てゝこれを安くするときは人々知る故分に過ぎたる奢りは自からなくて世上に費へなし、制度なければ上より奢りをするなと制し玉ふと云ふとも、是までが分相応にて是より上か奢りなりと云ふ「キツカケ」なけれはすへきやうなし、華美を好むは人情の常なる故制度なき故に世は次第に奢りに成行くなり、衣服の制度ある時は是は大名是は大役高官の人と云ふ事坐敷の上にても自から知るゝ故、人々貴きを敬ひ儀式自から乱れさるに、上一人より下は民までも何れも小袖を着上下を着ること同様にて、其衣服の地は金さへあれは何を着ても誰制する人なし、上下の見分けなき故高官大役の人下のものと別の立てやうなく、唯々いかつかましき体をして是にて高下を別のことに成り、我か身の君子の礼儀を失ふことをは知らず、御役人奉行なとの無礼甚しく、下たるものは礼に過ぎて這ひ屈み、諂ふ風俗甚しきも制度なきか故なり、
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