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慎思録 / 巻之六

岳武穆千古忠臣。爲姦凶所陷。不能行忠誠。終枉殺乎獄中。千歳所可悲歎也。或曰。此非明哲保身之道也。古人亦有做此說者。愚謂。忠臣孝子。愛君父之至。見國家之危。而授命之道。宜如此。雖喪其軀。所以不顧也。而明哲保身者。復各有時而所宜。不可一槩而論也。

新字:岳武穆千古忠臣。為姦凶所陥。不能行忠誠。終枉殺乎獄中。千歳所可悲嘆也。或曰。此非明哲保身之道也。古人亦有做此説者。愚謂。忠臣孝子。愛君父之至。見国家之危。而授命之道。宜如此。雖喪其躯。所以不顧也。而明哲保身者。復各有時而所宜。不可一槩而論也。

書き下し

岳武穆は千古の忠臣なり。姦凶の陥るる所と為りて、忠誠を行ふこと能はず、終に獄中に枉殺せらる。千歳の悲歎すべき所なり。或ひと曰く、此れ明哲保身の道に非ずと。古人も亦此の説を做す者有り。愚謂へらく、忠臣孝子は、君父を愛するの至り、国家の危きを見て、命を授くるの道、宜しく此くの如くすべし。其の軀を喪ふと雖も、顧みざる所以なり。而して明哲保身なる者は、復た各時有りて宜しき所なり。一概にして論ずべからざるなり。

現代語訳

岳武穆(岳飛)は千年に一人の忠臣です。邪悪な者に陥れられて忠誠を尽くすことができず、ついに獄中で無実のまま殺されました。千年の後まで悲しみ嘆くべきことです。ある人は「これは明哲保身の道ではない」と言います。昔の人にもこの説をなす者がいました。私が思うに、忠臣や孝子は、主君や父を愛することの極みとして、国家の危機を見れば命を投げ出すのが道であり、そうあるべきです。その身を失っても顧みないのはこのためです。そして明哲保身というのも、それぞれ時と場合によってふさわしいものです。一概に論じてはなりません。

解説

南宋の名将岳飛が秦檜らに陥れられて獄死したことを悼み、身を守らなかったと非難する説に反論した条です。「明哲保身」は『詩経』大雅・烝民の語で、賢く道理に明らかで身を全うすることを言います。「危きを見て命を授く」は『論語』憲問篇の語です。益軒は、身を捨てるべき時と身を守るべき時があり、どちらかだけを正解とはできないとします。組織の中で正しいことを貫くか、身を守るか。その判断に一律の答えはなく、時と場合を見極める知恵が問われます。

この章句が説くこと

明哲保身岳飛時宜

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