慎思録 / 巻之六
古人曰。以一人治天下。不以天下奉一人。是上古立君之意。須如此。嗚呼古之賢君。以一人之力。而養彼億兆之人。何其仁也。古之暴君。勞億兆之力。而養我一人。何其不仁也。
新字:古人曰。以一人治天下。不以天下奉一人。是上古立君之意。須如此。嗚呼古之賢君。以一人之力。而養彼億兆之人。何其仁也。古之暴君。労億兆之力。而養我一人。何其不仁也。
書き下し
古人曰く、一人を以て天下を治め、天下を以て一人に奉ぜずと。是れ上古君を立つるの意、須らく此くの如くなるべし。嗚呼古の賢君は、一人の力を以て彼の億兆の人を養ふ。何ぞ其れ仁なるや。古の暴君は、億兆の力を労して我が一人を養ふ。何ぞ其れ不仁なるや。
現代語訳
古人は「一人で天下を治めるのであって、天下をもって一人に奉仕させるのではない」と言いました。これが上古に君主を立てた本来の意味で、そうでなければなりません。ああ、昔の賢君は、一人の力であの億万の人々を養いました。なんと仁であることでしょう。昔の暴君は、億万の人々の力を労して自分一人を養いました。なんと不仁であることでしょう。
解説
君主は天下を養うために立てられたのであって、天下に自分を養わせるためではないと説く条です。引かれる言葉は唐の張蘊古「大宝箴」の一節として知られ、『貞観政要』にも見えます。儒教の民本思想の核心で、益軒は藩主に仕える儒者としてこの考えを為政者の心得としました。組織のトップも同じで、人を使って自分を富ませるのか、自分の力で人を活かすのかで、仁と不仁が分かれます。リーダーの存在理由を問い直す言葉です。
この章句が説くこと
仁君主民本リーダー貞観政要
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