慎思録 / 巻之四
藏怒宿怨。念舊惡而不忘者。不仁者之常情也。不能赦小過與矜愚。爲人君者。苟怨怒之深如此。則其下民視之如寇讎。含寃忍恥。而不堪其命者多矣。凶暴之至。天怒人怨。其降災報禍。不利于子孫。心雖忍刻于民而不顧。豈不愛其子孫乎。不仁之甚。貽禍于子孫。可畏哉。詩曰。貽厥孫謀。以燕翼子。古人曰。可爲子孫惜福。雖無學之人。亦希可微省悟。
新字:蔵怒宿怨。念旧悪而不忘者。不仁者之常情也。不能赦小過与矜愚。為人君者。苟怨怒之深如此。則其下民視之如寇讎。含冤忍恥。而不堪其命者多矣。凶暴之至。天怒人怨。其降災報禍。不利于子孫。心雖忍刻于民而不顧。豈不愛其子孫乎。不仁之甚。貽禍于子孫。可畏哉。詩曰。貽厥孫謀。以燕翼子。古人曰。可為子孫惜福。雖無学之人。亦希可微省悟。
書き下し
怒りを蔵し怨みを宿し、旧悪を念ひて忘れざる者は、不仁者の常情なり。小過を赦し愚を矜れむこと能はず。人君為る者、苟も怨怒の深きこと此の如くなれば、則ち其の下民之を視ること寇讐の如く、寃を含み恥を忍びて、其の命に堪へざる者多し。凶暴の至り、天怒り人怨み、其の災を降し禍に報いて、子孫に利あらず。心は民に忍刻にして顧みずと雖も、豈に其の子孫を愛せざらんや。不仁の甚だしき、禍を子孫に貽す。畏るべきかな。詩に曰く、厥の孫謀を貽して、以て翼子を燕んず、と。古人曰く、子孫の為に福を惜しむべし、と。無学の人と雖も、亦た希はくは微しく省悟すべし。
現代語訳
怒りを胸にしまい、怨みを持ち続け、昔の悪事を思って忘れないのは、不仁な者の常の心情です。小さな過ちを許すことも、愚かな者を哀れむこともできません。君主たる者が、これほど深く怨み怒るなら、下の民は君主を仇のように見て、無実の罪を抱え恥を忍び、その命令に耐えられない者が多くなります。凶暴の極みで、天は怒り人は怨み、災いを下し禍で報いて、子孫にまで不利となります。民に対しては残酷で顧みなくても、自分の子孫を愛さないことがあるでしょうか。不仁のはなはだしさが、禍を子孫に残すのです。恐るべきことです。『詩経』に「子孫のための計らいを残して、子を安らかにする」とあります。昔の人は「子孫のために福を惜しめ」と言いました。学問のない人であっても、少しでも省みて悟ってほしいものです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『慎思録』巻之六古人曰く、一人を以て天下を治め、天下を以て一人に奉ぜずと。是れ上古君を立つるの意、須らく此くの如くなるべし。嗚呼古の賢君は、一人の力を以て彼の億兆の人を養ふ。何ぞ其れ仁なるや。古の暴君は、億兆の力を労して我が一人を養ふ。何ぞ其れ不仁なるや。
-
『正法眼蔵随聞記』巻五示して云く、昔し国王あり、国を治て後ちに諸の臣下に問ふ、我好く国を治む、よく賢なりやと、諸臣みな云く、帝甚だよく治む、太だ賢なりと、時に一臣ありて云く、帝は賢ならずと、帝の云く故は如何、臣が云く、国を治て後ち、帝の弟に与へずして息に与ふと、帝の心にかなはずして、追ひ立られて後、亦一臣に問ふ、朕よく仁なりや、臣が云く、甚だ仁なり、帝の云く、其の故いかん、臣が云く、仁君には必ず忠臣あり、忠臣は直言あるなり、前きの臣太だ直言なり、是れ忠臣なり、仁君にあらずんば得じと、帝是を感じて、即ち前きの臣をめしかへさるゝなり、
-
『十善法語』巻第五・不綺語戒総シテ王公大人ハ其威名日月ノ如ク。其言行泰山ノ雲ノ如ク。下民仰キ瞻ル。四海則ヲトル所シヤ。ソレ故其過モ日月ノ蝕ノ如ク。万国ノ見テ知トコロシヤ。美玉ノ瑕ノ如ク。好絹ノ汚ノ如ク。掩テ掩ハレヌシヤ。民庶ノ類ハ身微ニ事眇ナル故。戯謔ニ由テ身ヲ亡スニ至ルコト少ク。仮令身ヲ亡シ家ヲ敗ルモ。人ニ知ラレ世ニ数ヘラルルニ至ラヌシヤ。此ニ至テハ君タルコト誠ニ難ト云ヘキシヤ。
-
『墨子』兼愛下然り而して天下の士の兼を非とする者の言、猶お未だ止まざるなり。曰く、「意うに以て士を擇ぶ可くして、以て君子を擇ぶ可からず」と。姑く嘗みに兩つながら之を進めん。誰か以て二君と為し、其の一君をして兼を執らしめ、其の一君をして别を執らしめん。是の故に别君の言に曰く、「吾れ惡くんぞ能く吾が萬民の身を為むること吾が身を為むるが若くせんや。此れ泰だ天下の情に非ざるなり。人の地上に生くるや㡬何も無きなり。之を譬うるに猶お駟を馳せて隙を過ぐるがごときなり」と。是の故に退きて其の萬民を睹るに、饑うるも即ち食わしめず、寒きも即ち衣せしめず、疾病あるも侍養せず、死喪あるも葬埋せず。别君の言は此くの若く、行いも此くの若し。
-
孫子・作戦篇故に兵は勝つを貴び、久しきを貴ばず。故に兵を知るの将は、民の司命、国家安危の主なり。
-
論語・里仁篇子曰わく、不仁者は久しく約に処るべからず、長く楽に処るべからず。仁者は仁に安んじ、知者は仁を利とす。