慎思録 / 巻之五
修養之貪生者。術者之事也。攝養之保生者。君子之道也。其養生之道。雖相似。然其所以養生之心。公私之間。不同而已矣。醫家之術。立方之書。有救人之用。固不可廢棄。然凡執方術者之言。往往該誕過譽。失九實者每多矣。拘忌不循理者亦不少矣。其說不可盡信。讀其書者。考其言而可知而已矣。
新字:修養之貪生者。術者之事也。摂養之保生者。君子之道也。其養生之道。雖相似。然其所以養生之心。公私之間。不同而已矣。医家之術。立方之書。有救人之用。固不可廃棄。然凡執方術者之言。往往該誕過誉。失九実者毎多矣。拘忌不循理者亦不少矣。其説不可尽信。読其書者。考其言而可知而已矣。
書き下し
修養して生を貪る者は、術者の事なり。摂養して生を保つ者は、君子の道なり。其の生を養ふの道は、相似たりと雖も、然れども其の生を養ふ所以の心は、公私の間、同じからざるのみ。医家の術、方を立つるの書は、人を救ふの用有り。固より廃棄すべからず。然れども凡そ方術を執る者の言は、往往該誕過誉して、九実を失ふ者毎に多し。拘忌して理に循はざる者も亦少なからず。其の説尽くは信ずべからず。其の書を読む者は、其の言を考へて知るべきのみ。
現代語訳
修養して長生きを貪るのは、術者のすることです。身を養って生を保つのは、君子の道です。生を養う方法は似ていても、生を養う理由となる心には、公と私の違いがあるのです。医家の術や処方を立てる書は、人を救う役に立ちます。もちろん捨ててはなりません。しかしおよそ方術を扱う者の言葉は、しばしば大げさでほめ過ぎ、事実を失うものが多いのです。迷信的な禁忌にとらわれて理に従わないものも少なくありません。その説をすべて信じてはなりません。その書を読む者は、その言葉をよく考えて知るべきです。
解説
『養生訓』を著した益軒ならではの一条です。道家の神仙術のように長生きそのものを目的にするのは私心であり、君子の養生は、天から受けた身を大切にし、人としての務めを果たすためのものだと区別します。益軒は医学や本草学に通じていましたが、医書や方術の書に誇張や迷信が多いことにも厳しい目を向けました。健康法の情報があふれる今、効能をうたう言葉をうのみにせず筋道で吟味すること、そして何のために健康でありたいかを問うことは、そのまま通じる教えです。
この章句が説くこと
養生公私医術迷信吟味
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