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養生訓 / 巻第一・総論上

人の身はいたりて貴く、是をやしなひてたもつは、至りて大なる術なるを、師なく敎なく、學ばず習はず、これを養ふ術を知らで、わが心の慾にまかせば、豈其道を得て、生れつきたる天年をよくたもたんや。故に生を養ひ命をたもたんと思はば、其術を習はずんばあるべからず。夫養生の術そくばくの大道にして小藝にあらず。心にかけて其術をつとめまなばずんば、其道を得べからず。其術を知れる人ありて習ひ得ば、千金にも替へがたし。天地父母よりうけたるおもき身をもちて、これをたもつ道を知らで、みだりに身をもちて、大病をうけ、身を失ひ、世をみじかくする事、いたりて愚なるかな。天地父母に對し大不孝と云ふべし。其上病なく命ながくしてこそ、人となれる樂多かるべけれ。

新字:人の身はいたりて貴く、是をやしなひてたもつは、至りて大なる術なるを、師なく教なく、学ばず習はず、これを養ふ術を知らで、わが心の慾にまかせば、豈其道を得て、生れつきたる天年をよくたもたんや。故に生を養ひ命をたもたんと思はば、其術を習はずんばあるべからず。夫養生の術そくばくの大道にして小芸にあらず。心にかけて其術をつとめまなばずんば、其道を得べからず。其術を知れる人ありて習ひ得ば、千金にも替へがたし。天地父母よりうけたるおもき身をもちて、これをたもつ道を知らで、みだりに身をもちて、大病をうけ、身を失ひ、世をみじかくする事、いたりて愚なるかな。天地父母に対し大不孝と云ふべし。其上病なく命ながくしてこそ、人となれる楽多かるべけれ。

書き下し

人の身はいたりて貴く、是をやしなひてたもつは、至りて大なる術なるを、師なく教なく、学ばず習はず、これを養ふ術を知らで、わが心の慾にまかせば、豈其道を得て、生れつきたる天年をよくたもたんや。故に生を養ひ命をたもたんと思はば、其術を習はずんばあるべからず。夫養生の術そくばくの大道にして小芸にあらず。心にかけて其術をつとめまなばずんば、其道を得べからず。其術を知れる人ありて習ひ得ば、千金にも替へがたし。天地父母よりうけたるおもき身をもちて、これをたもつ道を知らで、みだりに身をもちて、大病をうけ、身を失ひ、世をみじかくする事、いたりて愚なるかな。天地父母に対し大不孝と云ふべし。其上病なく命ながくしてこそ、人となれる楽多かるべけれ。

現代語訳

人の身はこのうえなく貴く、これを養って保つのは、このうえなく大きな術であるのに、師もなく教えもなく、学ばず習わず、これを養う術を知らずに自分の心の欲にまかせたなら、どうしてその道を得て、生まれつきの天寿をよく保てましょうか。ですから、生を養い命を保とうと思うなら、その術を習わなくてはなりません。そもそも養生の術は大きな道であって、小さな芸ではありません。心にかけてその術を努めて学ばなければ、その道は得られません。その術を知る人がいて習い得たなら、千金にも替えがたいものです。天地父母から受けた重い身を持ちながら、これを保つ道を知らずに、みだりに身を扱って大病を受け、身を失い、生涯を短くするのは、このうえなく愚かなことです。天地父母に対して大不孝というべきです。そのうえ、病がなく命が長くてこそ、人として生まれた楽しみも多いでしょう。

解説

前条を受け、養生は小芸ではなく大道であり、学んで身につける価値は千金にも替えがたいと強調します。自分の心の欲にまかせるだけでは道は得られないという言葉には、独学より学びの姿勢を重んじる儒者の気質が表れています。益軒が晩年にこの書を平易な和文で書いたのは、まさに師のいない人々に術を伝えるためでした。信頼できる知識に触れ、学んだことを実践して確かめることが、現代の養生でも変わらぬ基本です。

この章句が説くこと

養生学問術孝楽しみ

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