慎思録 / 巻之四
史書以朱子綱目爲要。其爲書也。貫綜古今。扶植義理。其立義也。以褒貶予奪。正其是非得失。如規矩準繩。可以明倫理綱常。其載事也。簡要而不冗雜。可以通古昔天下之事。知中治亂盛衰之道。葢可爲垂世立敎之大典。非啻歷史之比也。天地之間。不可無此書也。學者讀經之餘暇。須終身循環讀之而不廢。
新字:史書以朱子綱目為要。其為書也。貫綜古今。扶植義理。其立義也。以褒貶予奪。正其是非得失。如規矩準縄。可以明倫理綱常。其載事也。簡要而不冗雑。可以通古昔天下之事。知中治乱盛衰之道。葢可為垂世立教之大典。非啻歴史之比也。天地之間。不可無此書也。学者読経之余暇。須終身循環読之而不廃。
書き下し
史書は朱子の綱目を以て要と為す。其の書為るや、古今を貫綜し、義理を扶植す。其の義を立つるや、褒貶予奪を以て、其の是非得失を正すこと、規矩準縄の如し。以て倫理綱常を明らかにすべし。其の事を載するや、簡要にして冗雑ならず。以て古昔天下の事に通じ、其の治乱盛衰の道を知るべし。蓋し世に垂れ教へを立つるの大典と為すべく、啻に歴史の比のみに非ざるなり。天地の間、此の書無かるべからざるなり。学者経を読むの余暇に、須らく終身循環して之を読みて廃せざるべし。
現代語訳
歴史書では、朱子の『資治通鑑綱目』を要とします。この書は古今を貫いてまとめ、義理を助け植えつけるものです。その義を立てるには、ほめる・けなす・与える・奪うという筆法で是非得失を正し、それはまるで定規やものさし、墨縄のようで、人倫の綱常を明らかにすることができます。その事実を載せるのは簡潔で要を得て、冗長で雑多ではありません。それで昔の天下の出来事に通じ、治乱盛衰の道を知ることができます。後世に伝え教えを立てる大典とすべきもので、単なる歴史書と比べられるものではありません。天地の間に、この書がなくてはなりません。学ぶ者は経書を読む合間に、一生繰り返してこれを読み、やめてはなりません。
解説
朱子が司馬光の『資治通鑑』をもとに編んだ『資治通鑑綱目』を、史書の要として推す条です。事実を簡潔に記すだけでなく、『春秋』にならった褒貶の筆法で是非を正すので、道義を学ぶ書でもあると益軒は評価します。江戸時代の朱子学者にとって、『綱目』は歴史と倫理を同時に学ぶ基本書でした。歴史を出来事の暗記ではなく、治乱盛衰の筋道と人の是非を考える材料として読むという姿勢は、ビジネスの事例研究や過去の失敗から学ぶときにも通じる読み方です。
この章句が説くこと
歴史綱目義理治乱読書
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『慎思録』巻之四朱子曰く、先づ史記を読み、次に左伝を看、次に通鑑を看る。余力有らば則ち全史を看よ、と。愚謂へらく、史を読むの序は、当に此の如くなるべし。左伝を読む者は、国語戦国策も亦た兼ね読むべし。朱子の通鑑と称する者は、是れ温公の通鑑なり。此の書は之を綱目に比ぶれば、其の事を記すや、本末詳備なり。学者余暇有らば、則ち須らく兼ねて之を読むべし。然れども其の書甚だ広博なるが為に、学者の周覧に倦む所以なり。
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『慎思録』巻之六歴史通鑑を通読すれば、則ち天下の広き、千古の久しき、瞭然として尽く胸中に在り。其の往迹を考へて、以て将来の亀鑑と為すべく、以て聖経を補翼して、義理の趣を広むべし。且つ千古を泛覧するも、亦以て人生の喜楽と為すべし。
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『慎思録』巻之二古史の体に二つ有り。書と春秋とに本づくのみ。此の二書は経にして史なる者なり。書は則ち各々其の人の言行を記し、或いは一事の本末を記す。後世の史記以下の諸史は此に本づくなり。春秋は則ち編年して以て通じて其の事を記す。後世の通鑑及び綱目は此に本づくなり。源流至論に曰く、一時の事を論ずるは、紀伝は編年に如かず。一人の始終を論ずるは、編年は紀伝に如かず、と。亦た此の謂ひなり。
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『慎思録』巻之一六経語孟を読むには、宋儒の本註を以て先と為すは、固より善し。然れども古註疏も亦廃すべからず。朱子曰く、漢魏の諸儒は、音読を正し、訓詁に通じ、制度を考へ、名物を弁ず。其の功博し。学者苟も先づ其の流れを渉らざれば、則ち亦何を以てか其の力を此に用ひんと。朱子は四書詩易に於て、既に伝註を作れども、其の言此くの如し。然らば則ち古注疏も亦考へざるべからず。夫れ朱子の伝註を作るや、義理精当にして、固より古注疏を待たず。然れども訓詁文義名物制度の如きは、古註疏に譲りて、詳解せざる者も、亦多し。今人の経を読むや、古註疏を考索せずして、却りて汲汲として明儒の諸説を見ることを貪る。是れ本初を舎てて、末流に趨くなり。蓋し漢唐諸儒の註疏を看れば、則ち文義の故実を得て、考証と為すべき者多し。廃すべからず。