五常訓 / 巻之三・仁之下
一人も餓死せしむる事なかれ。民の妻子下人を賣らしめ、父母兄弟離散し、貧窮飢寒にいたらしむる事、わが身にかへり見るべし。心をいたましむる至極なり。あはれむべし。凡吝嗇にしては、仁義禮智共に行はれず。殊に仁の道缺くるものなり。又吝嗇ならねども、不仁なる人は、人をめぐむ事をこのまず、無用の事には、財を多く費すもの也。
新字:一人も餓死せしむる事なかれ。民の妻子下人を売らしめ、父母兄弟離散し、貧窮飢寒にいたらしむる事、わが身にかへり見るべし。心をいたましむる至極なり。あはれむべし。凡吝嗇にしては、仁義礼智共に行はれず。殊に仁の道欠くるものなり。又吝嗇ならねども、不仁なる人は、人をめぐむ事をこのまず、無用の事には、財を多く費すもの也。
書き下し
一人も餓死せしむる事なかれ。民の妻子下人を売らしめ、父母兄弟離散し、貧窮飢寒にいたらしむる事、わが身にかへり見るべし。心をいたましむる至極なり。あはれむべし。凡吝嗇にしては、仁義礼智共に行はれず。殊に仁の道欠くるものなり。又吝嗇ならねども、不仁なる人は、人をめぐむ事をこのまず、無用の事には、財を多く費すもの也。
現代語訳
一人も餓死させてはなりません。民に妻子や下人を売らせ、父母兄弟を離散させ、貧窮や飢え寒さに至らせることを、わが身に置き換えて振り返るべきです。心を痛ませることの極みです。あわれむべきことです。およそけちであっては、仁義礼智がともに行われません。ことに仁の道が欠けるものです。またけちでなくても、不仁な人は、人を恵むことを好まず、無用のことには財を多く費やすものです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『大和俗訓』巻之三・心術上一民を司どる人は、民の父母なれば、民をあはれむ心を本とすべし。民の心を以て心として、民の好む事を好みてほどこし、民のきらふ事をきらひてほどこさず、父母の子を思ふが如くする故、是を民の父母と云ふ。民の上に立つ人は、民をやしなふ職分を天より授け給ふ事を知りて、天道にしたがひ、民をくるしましむべからず。我一人の楽をきはめんとて、おほくの人を苦むるは、天道の御心にそむけり。天道おそるべし。すべて人は高きもひききも同じ人なれば、民の楽み苦みも、我と同じ。我が心を以て民の心をおしはかるに違はず。民のうれひ苦みを思ひはかりて、憐むべし。不仁なる人は、民をあはれまずして、民を愛すれば奢りて上をあなどるとて、民をあはれまず。
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『五常訓』巻之二・仁之上是己をおす恕なり。又一には、仁を人に施すの道、我が心を以て人の心をおしはかるに、人も我も同じ心なれば、我が好む事は、人も亦必、好むものなり。我が心にきらふ事は、人も亦必きらふもの也。かくの如我が心を以て人の心にくらぶるは、つゆ違ふ事なし。不仁無礼を、人の我に施すは、我がきらふ所也。是を以て人の心をおしはかるに、人もまた不仁無礼をきらふ故に、人に不仁無礼を施さず。是恕なり。民を治むる道を以ていはば、わが身もし下にありて、困窮し饑ゑ寒え、妻を売り子を売りて、親子はなれ、兄弟妻子離散するにいたらば、我が甚きらふ事なるべし。其心を以て、民の心をおしはかるに、我がきらふ如く、民も亦きらふべき事を知りて、民の饑ゑず寒えず、困窮せず、妻子を売らざるやうに、あはれみて施すべし。
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『五常訓』巻之三・仁之下一いにしへ国家の長久せしは、其君仁なればなり。亡びしは、其君不仁なればなり。桀紂以下、歴代不仁の君ほろびざるは無し。堯舜湯武は申すに及ばず、漢の高祖文帝、後漢の光武、唐の太宗、其余歴代の賢君は、皆仁愛ありし故、国家長久せり。凡国家の興亡、身の安危皆仁と不仁とによれり。貴きも賤しきも、仁の道豈つとめざるべけんや。禹湯は、己が身をせむ。故にさかえたまふ。桀紂は人をせむ。故に亡びたり。己をせむるは仁なり。人をせむるは不仁なり。左伝に、国のおこるは、民を見る事やぶるが如し。其亡ぶるは、民を見ること土芥の如しといへるも、仁不仁の異なるなり。
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『初学訓』巻之二一国土を治め給ふ君は、民を恵み治むる役人にて、民をいつくしみ恵むを以て職分とす。是、民の父母なれば、其臣下と万民を愛して、情ふかく憐みあつかるべし。われ一人の楽を専にして、民を苦ましむるは不仁なり。上仁あれば、民も亦、其めぐみになつきて、君を仰ぐ事、父母の如く思ひて忘れず。上は下を憐みて仁あり、下は上を尊びて義あるべし。上仁あり下義あれば、上下和合し、国土平安なり。一条内大臣の歌に、民やすく国ゆたかなる御代なれば君を千とせと誰が祈らぬといへるが如くなるべし。君を千とせと万民のいのるは、君の徳なり。まことにめでたく尊ぶべし。
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『慎思録』巻之六古人曰く、一人を以て天下を治め、天下を以て一人に奉ぜずと。是れ上古君を立つるの意、須らく此くの如くなるべし。嗚呼古の賢君は、一人の力を以て彼の億兆の人を養ふ。何ぞ其れ仁なるや。古の暴君は、億兆の力を労して我が一人を養ふ。何ぞ其れ不仁なるや。
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