慎思録 / 巻之二
學者須以仁存心。毎日要做利人事。不管人之知與不知。稱之爲陰德。上自王公。下至乞人。皆有利人之事。須要盡其心。雖貧賤之極。亦可行焉。唯有大小廣狹之異而已。行之久。而不廢。則積善豈有窮乎。古語曰。塵積而成山。此之謂也。夫利人積善如此。不亦樂乎。
新字:学者須以仁存心。毎日要做利人事。不管人之知与不知。称之為陰徳。上自王公。下至乞人。皆有利人之事。須要尽其心。雖貧賤之極。亦可行焉。唯有大小広狭之異而已。行之久。而不廃。則積善豈有窮乎。古語曰。塵積而成山。此之謂也。夫利人積善如此。不亦楽乎。
書き下し
学者は須らく仁を以て心に存し、毎日人を利する事を做すことを要すべし。人の知ると知らざるとを管せず。之を称して陰徳と為す。上は王公より、下は乞人に至るまで、皆人を利するの事有り。須らく其の心を尽くすことを要すべし。貧賤の極と雖も、亦た行ふべし。唯だ大小広狭の異有るのみ。之を行ふこと久しくして廃せざれば、則ち積善豈に窮まり有らんや。古語に曰く、塵積もりて山と成る、と。此の謂ひなり。夫れ人を利し善を積むこと此くの如し。亦た楽しからずや。
現代語訳
学ぶ者は仁を心に保ち、毎日人の利益になる事をしなければなりません。人が知るか知らないかにはかまいません。これを陰徳と呼びます。上は王侯から下は物乞いに至るまで、みな人を利する事ができます。その心を尽くさなければなりません。貧しく卑しい身の極みであっても、行うことができます。ただ大小や広い狭いの違いがあるだけです。これを長く行って怠らなければ、積み重ねた善にどうして限りがありましょう。古語に「塵が積もって山となる」とあります。このことです。人を利し善を積むことはこのようなものです。なんと楽しいことではありませんか。
解説
毎日一つ、人の役に立つことをせよ、という実践の条です。陰徳は人に知られない善行のことで、二・九の「陰徳を行ひて陽報有り」ともつながります。「塵積もりて山と成る」は仏典に由来するとされ、日本でことわざとして広まった言葉で、益軒は出どころにこだわらず古語として引いています。身分を問わず誰にでもできる、と強調するのは、庶民の教化に心を砕いた益軒らしい点です。小さな親切を毎日続けることの確かな力を思い出させてくれます。
この章句が説くこと
陰徳仁積善利人楽
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