慎思録 / 巻之一
無實而得名者。可耻之甚也。雖偶然一時得之。終亦必亡而已矣。非所可喜也。聖人陰陽合德。剛柔兼備。故仁義之德全矣。中人以下。不能無偏性。故明于彼者暗于此。長乎此者短乎彼。中人以下之性。往往如此。天之生物。無全功。是自然之理也。治性之道。裁其所有餘。補其所不足。而欲無偏而已。
新字:無実而得名者。可耻之甚也。雖偶然一時得之。終亦必亡而已矣。非所可喜也。聖人陰陽合徳。剛柔兼備。故仁義之徳全矣。中人以下。不能無偏性。故明于彼者暗于此。長乎此者短乎彼。中人以下之性。往往如此。天之生物。無全功。是自然之理也。治性之道。裁其所有余。補其所不足。而欲無偏而已。
書き下し
実無くして名を得る者は、恥づべきの甚だしきなり。偶然一時之を得ると雖も、終にも亦必ず亡びんのみ。喜ぶべき所に非ざるなり。聖人は陰陽徳を合はせ、剛柔兼ね備はる。故に仁義の徳全し。中人以下は、偏性無きこと能はず。故に彼に明らかなる者は此に暗く、此に長ずる者は彼に短し。中人以下の性は、往往此くの如し。天の物を生ずる、全功無し。是れ自然の理なり。性を治むるの道は、其の余り有る所を裁ち、其の足らざる所を補ひて、偏り無からんことを欲するのみ。
現代語訳
実質がないのに名声を得るのは、ひどく恥ずべきことです。たまたま一時それを得ても、ついには必ず失うでしょう。喜ぶべきことではありません。聖人は陰と陽の徳を合わせ、剛と柔を兼ね備えているので、仁義の徳が完全です。普通の人より下の者は、性質の偏りがないわけにはいきません。だからあちらに明るい者はこちらに暗く、こちらに長じる者はあちらに短いのです。普通の人より下の者の性質は、しばしばこのようです。天が物を生むのに、完全なものはありません。これが自然の道理です。性質を治める道は、余っているところを削り、足りないところを補って、偏りをなくそうとするだけです。
解説
実力の伴わない名声への戒めと、性質の偏りを整える道を並べた条です。前半は『孟子』離婁下篇の「声聞情に過ぐるは、君子之を恥づ」に通じます。後半では、聖人以外は誰もが得意と不得意を持つのが自然の理だとしたうえで、余るところを削り足りないところを補えと言います。前の条の剛柔論や気稟の偏りの議論とつながる考えです。自分の強みを伸ばすだけでなく、強みが行き過ぎて弱みになっていないかを点検することも、成長には欠かせないと気づかせてくれます。
この章句が説くこと
名実性偏り剛柔修身
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