慎思録 / 巻之一
不知之人。豈唯不能知義理之可爲而巳乎。抑雖利害。亦不能知。是以背仁義。行貪暴。而不止。至敗家滅身。而不顧。可悲哉。此安其危。而利其菑也。
新字:不知之人。豈唯不能知義理之可為而巳乎。抑雖利害。亦不能知。是以背仁義。行貪暴。而不止。至敗家滅身。而不顧。可悲哉。此安其危。而利其菑也。
書き下し
知らざるの人は、豈に唯義理の為すべきを知ること能はざるのみならんや。抑も利害と雖も、亦知ること能はず。是を以て仁義に背き、貪暴を行ひて止まず。家を敗り身を滅ぼすに至りて顧みず。悲しむべきかな。此れ其の危ふきを安しとして、其の菑ひを利とするなり。
現代語訳
知のない人は、義理として行うべきことを知ることができないだけでしょうか。利害さえも知ることができません。だから仁義に背き、貪欲で乱暴な行いをしてやめず、家を傾け身を滅ぼすに至っても顧みません。悲しいことです。これが危ういところを安全だと思い、災いを利益と思うということです。
解説
前条の孟子の言葉を受けて、短く締めくくった条です。義理が分からない人は、せめて損得は分かるかといえば、実は利害さえ見誤るのだと益軒は言います。道徳を軽んじて目先の利を追う人が、結局は大きな損を招くという逆説です。朱子学では義と利を対立させがちですが、益軒はここで、義に背くことは長い目で見れば利にもならないと示しています。短期の得を追って信用や健康を失うことのないよう、長い目で損得を見る知恵を持ちたいものです。
この章句が説くこと
知利害仁義義敗亡
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