武訓 / 下・第32段
凡、大將として、兵を用ひて戰をする道は、義と、術と、勇と、知との四そなはるべし。第一、義を質とすべし。戰をおこすに、義か不義かをかへりみるべし。軍法調ひ、兵つよくして、敵にかつと必定なり。うつべき敵にあらずして、戰をおこすは不義なり。戰をおこすべからず。是、義を質とするなり。次に、戰をなすには、必、術あるべし。術とは、陣を備へ、敵にかつてだての法なり。戰の術をしらざれば、敵にかちがたし。萬の事、皆、術を量りてなすべし。殊に、戰は、死生存亡のわかるゝ所、尤其の術をしるべし。術なくして戰へば、必敗る。次に、戰をなすには、勇あるべし。勇なければ、敵をやぶるに力なくして、勢なし。又、知以て成すべし。知なければ、始終軍の道成就せず。故に、兵の道は、知を以て始をなし終をなすなり。凡、君子の兵を用ふるには、此の四の者備はらずんばあるべからず。五兵の內、義兵、應兵は、君子の用ふる所なり。忿兵、驕兵、貪兵の三は、君子の用ひざる所、小人の用ふる所なり。
新字:凡、大将として、兵を用ひて戦をする道は、義と、術と、勇と、知との四そなはるべし。第一、義を質とすべし。戦をおこすに、義か不義かをかへりみるべし。軍法調ひ、兵つよくして、敵にかつと必定なり。うつべき敵にあらずして、戦をおこすは不義なり。戦をおこすべからず。是、義を質とするなり。次に、戦をなすには、必、術あるべし。術とは、陣を備へ、敵にかつてだての法なり。戦の術をしらざれば、敵にかちがたし。万の事、皆、術を量りてなすべし。殊に、戦は、死生存亡のわかるゝ所、尤其の術をしるべし。術なくして戦へば、必敗る。次に、戦をなすには、勇あるべし。勇なければ、敵をやぶるに力なくして、勢なし。又、知以て成すべし。知なければ、始終軍の道成就せず。故に、兵の道は、知を以て始をなし終をなすなり。凡、君子の兵を用ふるには、此の四の者備はらずんばあるべからず。五兵の内、義兵、応兵は、君子の用ふる所なり。忿兵、驕兵、貪兵の三は、君子の用ひざる所、小人の用ふる所なり。
書き下し
凡、大將として、兵を用ひて戰をする道は、義と、術と、勇と、知との四そなはるべし。第一、義を質とすべし。戰をおこすに、義か不義かをかへりみるべし。軍法調ひ、兵つよくして、敵にかつと必定なり。うつべき敵にあらずして、戰をおこすは不義なり。戰をおこすべからず。是、義を質とするなり。次に、戰をなすには、必、術あるべし。術とは、陣を備へ、敵にかつてだての法なり。戰の術をしらざれば、敵にかちがたし。萬の事、皆、術を量りてなすべし。殊に、戰は、死生存亡のわかるゝ所、尤其の術をしるべし。術なくして戰へば、必敗る。次に、戰をなすには、勇あるべし。勇なければ、敵をやぶるに力なくして、勢なし。又、知以て成すべし。知なければ、始終軍の道成就せず。故に、兵の道は、知を以て始をなし終をなすなり。凡、君子の兵を用ふるには、此の四の者備はらずんばあるべからず。五兵の內、義兵、應兵は、君子の用ふる所なり。忿兵、驕兵、貪兵の三は、君子の用ひざる所、小人の用ふる所なり。
現代語訳
およそ大将として、兵を用いて戦をする道は、義と術と勇と知の四つが備わっていなければならない。第一に、義を本質とすべきである。戦を起こすには、義か不義かを省みるべきである。軍法が整い、兵が強くて、敵に勝つことは確実である。しかし討つべき敵でないのに戦を起こすのは不義である。戦を起こしてはならない。これが義を質とするということである。次に、戦をするには、必ず術がなければならない。術とは、陣を備え、敵に勝つ手だての法である。戦の術を知らなければ、敵に勝ちがたい。万事、みな術をはかってなすべきである。とくに戦は、死生存亡の分かれるところで、もっともその術を知るべきである。術なくして戦えば、必ず敗れる。次に、戦をするには、勇がなければならない。勇がなければ、敵を破るのに力がなく、勢いがない。また、知によって成す。知がなければ、始めから終わりまで軍の道は成就しない。だから兵の道は、知をもって始めをなし終わりをなすのである。およそ君子が兵を用いるには、この四つのものが備わっていなければならない。五兵のうち、義兵・応兵は君子の用いるところである。忿兵・驕兵・貪兵の三つは、君子の用いないところで、小人の用いるところである。
解説
この章句が説くこと
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『文武訓』武訓下一凡大将として、兵を用ひて戦をする道は、義と術と、勇と知との四そなはるべし。第一、義を質とすべし。戦をおこすに、義か不義かをかへりみるべし。軍法調ひ兵つよくして、敵に勝つ事必定なり。うつべき敵にあらずして戦をおこすは不義なり、戦をおこすべからず。是義を質とするなり。次に、戦をなすには必ず術あるべし。術とは陣を備へ、敵に勝つてだての法なり。戦の術を知らざれば敵にかちがたし。万の事皆術を量りてなすべし。殊に、戦は死生存亡のわかるる所、尤其術を知るべし。術なくして戦へば必ず敗る。次に、戦をなすには勇あるべし。勇なければ、敵をやぶるに力なくして勢なし。又、知以て成すべし。知なければ、始終軍の道成就せず。故に兵の道は、知を以て始をなし終をなすなり。凡君子の兵を用ふるには、此四の者備らずんばあるべからず。
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『慎思録』巻之四用兵の道は、義以て質と為し、術以て之を行ひ、勇以て之を出だし、知以て之を成す。良将なるかな。苟も義以て質と為すに非ざれば、勇智良術有りと雖も、是れ賊兵為るのみ。天地の道は、開闢より以来、万古を歴と雖も、常にして変ぜず。故に古今一般なり。人心には私有り、民俗漸く澆薄なり。時世に随ひて、日日変遷して未だ休まず。故に人道の興廃は古今同じからず。天地の道と相似ざる所以なり。
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『五常訓』巻之四・義一子路問へり、君子は勇をたふとぶやと。子路は勇をこのむ人なれば、かくは問へり。孔子こたへて曰、君子は義をたふとぶ。位ある君子、もし勇のみありて義なければ、其力にまかせて反逆をなし、乱をおこす。位なく賤しき小人、もし勇のみにして義なければ、其力あるをたのみて、盗賊をなす。凡勇は、気に力ありて、人をおそれざるを云ふ。力を恃みて義無ければ、かくの如し。義は事の主なり。義を以て事を行へば、其事正し。義なくして事を行へば、其事皆邪なり。勇はまことに善をなすべき力なり。義を以て勇を行へば、其勇貴ぶべし。治世には、其力を以て善をなし、乱世には、其力を以て、武を行ひ、敵をうち、乱をしづむ。是皆義を以て勇を行ふ徳なり。まことに貴ぶべし。もし義なくして勇を用ふれば、かへりて道にそむき、物を害す。たとへば刀を以て敵をきり、悪人を殺すは義なり。刀を以て罪なき人をきるは、暴悪と狂乱となり。
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『晏子春秋』雑上・崔慶劫齊將軍大夫盟晏子不與崔杼既に莊公を弑して景公を立て、杼と慶封と之を相け、諸将軍大夫、及び顕士庶人を太宮の坎上に劫し、盟わざるを得ざらしむ。壇を為ること三仞、其の下を塪り、甲千を以て列ねて其の内外を環らす。盟う者皆剣を脱して入る。維だ晏子のみ肯んぜず、崔杼之を許す。敢えて盟わざる者有らば、戟其の頸を鉤し、剣其の心を承く。自ら盟わしめて曰く、「崔・慶に与せずして、公室に与する者は、其の不祥を受けん」と。言疾からず、指血に至らざる者は死す。殺す所七人。次いで晏子に及ぶ。晏子杯血を奉じ、天を仰ぎて歎じて曰く、「嗚呼。崔子は無道を為して其の君を弑す。公室に与せずして崔・慶に与する者は、此の不祥を受けん」と。俛して血を飲む。崔杼、晏子に謂いて曰く、「子、子の言を変えれば、則ち斉国は吾子と之を共にせん。子の言を変えざれば、戟既に脰に在り、剣既に心に在り、維だ子之を図れ」と。晏子曰く、「吾を劫すに刃を以てして其の志を失うは、勇に非ざるなり。吾を回すに利を以てして其の君に倍くは、義に非ざるなり。崔子、子独り夫の詩を為まざるか。詩に云う、『莫莫たる葛藟、条枚に施く。愷悌たる君子、福を求めて回ならず』と。今嬰且に以て回りて福を求む可けんや。曲刃もて之を鉤し、直兵もて之を推すとも、嬰は革まらず」と。
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『慎思録』巻之五中華の俗、振古君を諫めて命を致す者、相踵ぎて絶えず。刀鋸前に在り、鼎鑊後に在りと雖も、敢へて其の死を畏れざる者は、何ぞや。其の俗義を尚び、且つ文学有りて、諫諍の方を知ればなり。本邦の俗、古来戦死を軽んずる者多し。鋒鏑羅列し、元を喪ふこと須臾に在りと雖も、敢へて其の身を惜しまざる者は、何ぞや。其の俗勇を好みて、名節を尚べばなり。倭漢気概を尚びて、其の死を惜しまざることは同じくして、死する所の地の異なる者は、他無し。俗尚の義を好みて学有ると、勇を好みて気を尚ぶとの同じからざるに因るなり。
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『文武訓』武訓上一事の行ひて宜しききはを思ひきり、いさみてよくつとむれば、義行はれてあやまりなく後悔なし。かかる事のさかひのきはを、心おこたりゆるびてつとめざれば、不義となりおくれとなり、後悔すれどもかひなし。是義を見てせざるは勇なきなり。
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