新論 / 長計
若夫如此、則 天祖 天孫之仁覆於海内、 幕府邦君之義著於天下、慈父孝子之恩申於永世、報本反始之義明、而忠孝之敎立矣、民日由之、而不見異物、〈周人以大司徒掌邦敎、施十有二敎、其第一曰、以祀禮敎敬、則民不苟、祀禮之於邦敎、其重如此、〉君臣有義、父子有親、然後百禮乃興、於是乎謹夫婦之別、順長幼之序、信朋友之交、使民出入相友、守望相助、疾病相扶持、皆親其上死其長、則雖有百異端、不能移其心、而黠虜之焚燬祠宇瞻禮胡神、煽惑蠢愚、以肆其逆焰者、莫得而施其術、所謂上兵伐謀者、實萬世之長策也、而往日淆化傷俗、如巫覡、如浮屠、如陋儒俗學之徒者、亦皆中原赤子、使之得皆安其堵、適其意、優游於大化之中、以浴於 天祖 天孫之深仁厚澤、奉 幕府邦君之政令刑禁、晏然樂以沒齒、亦何不可之有也、
新字:若夫如此、則 天祖 天孫之仁覆於海内、 幕府邦君之義著於天下、慈父孝子之恩申於永世、報本反始之義明、而忠孝之教立矣、民日由之、而不見異物、〈周人以大司徒掌邦教、施十有二教、其第一曰、以祀礼教敬、則民不苟、祀礼之於邦教、其重如此、〉君臣有義、父子有親、然後百礼乃興、於是乎謹夫婦之別、順長幼之序、信朋友之交、使民出入相友、守望相助、疾病相扶持、皆親其上死其長、則雖有百異端、不能移其心、而黠虜之焚燬祠宇瞻礼胡神、煽惑蠢愚、以肆其逆炎者、莫得而施其術、所謂上兵伐謀者、実万世之長策也、而往日淆化傷俗、如巫覡、如浮屠、如陋儒俗学之徒者、亦皆中原赤子、使之得皆安其堵、適其意、優游於大化之中、以浴於 天祖 天孫之深仁厚沢、奉 幕府邦君之政令刑禁、晏然楽以没歯、亦何不可之有也、
書き下し
若し夫れ此くの如くなれば、則ち天祖・天孫の仁海内に覆ひ、幕府・邦君の義天下に著れ、慈父孝子の恩永世に申べ、報本反始の義明らかにして、忠孝の教立たん。民日に之に由りて、異物を見ず。(周人は大司徒を以て邦教を掌らしめ、十有二教を施す。其の第一に曰く、祀礼を以て敬を教ふれば、則ち民苟もせずと。祀礼の邦教に於ける、其の重きこと此くの如し。)君臣義有り、父子親有りて、然る後に百礼乃ち興る。是に於てか夫婦の別を謹み、長幼の序に順ひ、朋友の交はりを信にし、民をして出入相友とし、守望相助け、疾病相扶持し、皆其の上に親しみ其の長に死せしむれば、則ち百の異端有りと雖も、其の心を移すこと能はずして、黠虜の祠宇を焚燬し胡神を瞻礼し、蠢愚を煽惑して、以て其の逆焔を肆にする者も、得て其の術を施す莫し。所謂上兵は謀を伐つ者にして、実に万世の長策なり。而して往日化を淆し俗を傷る、巫覡の如き、浮屠の如き、陋儒俗学の徒の如き者も、亦皆中原の赤子なり。之をして皆其の堵に安んじ、其の意に適ひ、大化の中に優游して、以て天祖・天孫の深仁厚沢に浴し、幕府・邦君の政令刑禁を奉じ、晏然として楽しみて以て歯を没せしむること、亦何の不可か之れ有らんや。
現代語訳
もしこのようになれば、天祖・天孫の仁は国中を覆い、幕府と大名の義は天下に顕れ、慈しむ父と孝行な子の恩は永く後世に伸び、根本に報い始めに返る意義が明らかになって、忠孝の教えが立つであろう。民は日々これに従って、異なるものに目を向けない。(周の人々は大司徒に国の教化を担当させ、十二の教えを施した。その第一に「祭祀の礼で敬を教えれば、民はいいかげんなことをしない」とある。祭祀の礼が国の教化においてこれほど重いのである。)君臣に義があり、父子に親しみがあって、そののちにあらゆる礼が興る。そこで夫婦の区別を慎み、長幼の序列に従い、友人との交わりに信を尽くし、民が出入りには連れ立ち、見張りや守りには助け合い、病気のときには支え合うようにし、みながその上の者に親しみ、その長のために命を投げ出すようにすれば、百の異端があってもその心を動かすことはできず、狡猾な夷狄が祠を焼き異国の神を拝ませ、愚かな者を煽り惑わしてその逆らう炎をほしいままにしようとしても、その術を施すすべがない。いわゆる「最上の兵法は敵の謀を討つ」というもので、まことに万世の長い策である。そして以前は教化を乱し風俗を損なってきた巫覡(みこ)や浮屠(僧侶)、見識の狭い儒者や俗学の徒のような者も、みな国の大切な民である。彼らにもそれぞれ住まいに安んじ、思いにかなって、大いなる教化の中でゆったりと過ごさせ、天祖・天孫の深い仁と厚い恩沢に浴させ、幕府と大名の政令と刑罰の定めを奉じさせて、安らかに楽しく生涯を終えさせることに、何の不都合があろうか。
解説
この章句が説くこと
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『新論』長計其の志を持して其の業を広むるは、務め国体を明らかにするに在り。大卞に循ひて今古を一にし、博広悠久にして、以て夏夷に照臨す。細戈の名に循ひて之を実にするは、兵を足す所以なり。瑞穂の名に循ひて之を実にするは、食を足す所以なり。忠孝を明らかにして以て天下を淬礪するは、民をして之を信ぜしむる所以なり。三者並び挙がりて、食足り、兵足り、民之を信じ、忠孝以て明らかに、天人合一し、幽明憾み無く、正を以て詭に易へ、夏を以て夷を変じ、万世にして已まざる者は、不抜の業なり。今之を施行せんと欲せば、宜しく民をして之に由らしむべくして、之を知らしむべからず。若し夫れ民をして之に由らしむる所以の者を論ずれば、則ち礼と曰ふのみ。礼の目は五にして、民に敬を教ふるは、祀より大なるは莫し。(周官に、祀礼を以て敬を教ふれば、則ち民苟もせずと。)祀礼に数有り義有り。其の数を陳べんと欲せば、当に先づ其の義を明らかにすべし。
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『新論』國體上(臣・連・伴造、各其の属する所の諸氏を領し、皆旧職を失はず。前に挙ぐる所の斎部、諸斎部を率ゐて供奉するの類にして、其の諸国の斎部なる者は、即ち日鷲の後、粟国の斎部と為るの類の如き是れなり。而して亦其の旧職を祭祀の日に奉ぜざるは莫きなり。)惻然悚然として、乃祖乃父の皇祖天神に敬事せし所以の者を念へば、豈其の祖を忘れ其の君に背くに忍びんや。是に於てか孝敬の心、父以て子に伝へ、子以て孫に伝へ、志を継ぎ事を述べ、千百世と雖も猶ほ一日の如し。孝以て忠を君に移し、忠以て其の先志を奉ず。忠孝一に出で、教訓俗を正し、言はずして化す。祭以て政を為し、政以て教を為し、教の政と、未だ嘗て分ちて二と為さず。故に民唯天祖を敬し天胤を奉ずることを知り、郷ふ所一定して、異物を見ず。是を以て民志一にして天人合す。此れ帝王の恃みて以て四海を保つ所にして、祖宗の国を建て基を開く所以の大体なり。
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『新論』國體上天祖既に此の二者を以て人紀を建て、訓を万世に垂る。夫れ君臣や、父子や、天倫の最も大なる者にして、至恩内に隆く、大義外に明かにして、忠孝立ちて、天人の大道昭昭乎として其れ著る。忠以て貴を貴び、孝以て親を親しむ。億兆の能く心を一にし、上下の能く相親しむは、良に以有るなり。若し夫れ至教の言はざるに存し、百姓日に用ゐて知らざる者は、此れ其の故何ぞや。天祖天に在りて下土を照臨し、天孫誠敬を下に尽して、以て天祖に報ず。祭政維れ一にして、治むる所の天職、代る所の天工、一として天祖に事ふる所以に非ざる者無し。祖を尊び民に臨み、既に天と一なり。故に天と悠久を同じくするも、亦其の勢の宜しく然るべきなり。故に列聖の大孝を申ぶるや、山陵を秩し、祀典を崇び、其の誠敬を尽す所以の者、礼制大いに備はりて、其の本に報い祖を尊ぶの義、大嘗に至りて極まれり。
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『新論』長計夫れ然る後に天下靡然として咸相告げて曰く、天祖天職を上に治め、群神励翼して、国土を平定す。今各国土の神を礼するは、其の神の功徳に答へて、天祖の仁沢に報ゆる所以なりと。則ち群神百祀、皆統一する所有り。相告げて曰く、天祖洋洋として上に在り、皇孫紹述して、黎庶を愛育し、大将軍帝室を翼戴して、以て国家を鎮護し、邦君各疆内を統治して、民をして皆其の生に安んじて寇盗を免れしむ。今邦君の令を共み、幕府の法を奉ずるは、天朝を戴きて、天祖に報ゆる所以なりと。則ち幕府及び邦君の治、統一する所有り。宗族相糾緝して、以て其の先を祀れば、則ち又相告げて曰く、宗を敬するは祖を尊ぶ所以なり。其の相与に緝睦して、以て邦君の令を共み、幕府の法を奉じ、天朝を戴きて以て天祖に報ゆるは、乃の祖乃の父の志を継ぐ所以なりと。則ち其の祖を念ひ徳を修むるの心、統一する所有り。
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『新論』長計夫れ物は天より威なるは莫し。故に聖人厳敬欽奉して、天をして死物たらしめず、而して民をして畏敬悚服する所有らしむ。物は人より霊なるは莫し。其の魂魄精強にして、草木禽獣と澌滅すること能はず、其の死生の際に於ても、亦漠然として念ふこと無きこと能はず。故に聖人祀礼を明らかにして、以て幽明を治め、死者をして憑りて以て其の神を安んずる所有らしめ、生者をして死して依る所有るを知りて、其の志を弐にせざらしむ。民既に天威に畏敬悚服すれば、則ち天を誣ふるの邪説に誑かされず、幽明に歉然たること無ければ、則ち身後の禍福に眩まず。報祭祈禳、上其の事に任じて、民上に聴けば、則ち君を敬すること天を奉ずるが如く、遠きを追ひ孝を申べ、人其の族を輯めて、情内に尽くれば、則ち祖を念ふこと父を慕ふが如し。民心下に純にして、怪妄不経の説由りて入ること莫し。
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『新論』長計夫れ善く万世を維持する者は、念慮永遠にして、必ず先づ其の大経を立つ。而して天命人心、物則民彝、瞭然として火を観るが如くにして、然る後教訓化導し、序に循ひて之を施す。万世の典常は、固より我が胸中の事なり。昔者天祖神道を以て教へを設け、忠孝を明らかにして以て人紀を立つ。其の万世を維持する所以の者、固より既に瞭然たり。太古に始まりて、無窮に垂る。天孫奉承して、以て皇化を弘む。天祖設教の遺意に非ざる莫し。太祖の征戦するや、毎に神威に仗りて、以て武功を成す。(太祖の中土を平らぐるや、先づ神祇を礼祭し、日神の威を背負ひて進戦す。其の韴霊剣を提げ、及び頭八咫烏を以て郷導と為す等の事の如きは、皆天神の教へを奉ずる者にして、天神地祇を丹生の川上に祭り、道臣に勅して高皇産霊尊を祭らしむるの類、皆神威に仗らざる莫きなり。)中州を定むるに及び、霊畤を鳥見に立て、皇祖天神を報祭し、以て大孝を申ぶ。(初め長髄彦を撃ち、鵄の瑞を得て遂に之に克つ。故に其の地を号して鵄邑と為す、即ち鳥見なり。則ち其の畤を此に立つるは、蓋し以有るなり。)
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