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新論 / 長計

今夫欲決一定之策、宜觀天下大勢、以審察彼此之虚實也、四海萬國形勢、臣既粗言之、今既觀於其大勢、則宜以八洲爲城、滄海爲池、因天下全形、以爲戰守之略也、欲察彼此虚實、則宜審主客之勢、以制操縱之權也、夫虜萬里而窺人者客也、我内自守者主也、然虜毎出於長策、從容制人者、變客爲主也、彼客而無饋糧之勞者、或漁或商、活用因糧之術也、無破車罷馬之費者、乘巨艦駕長風也、其能坐使吾民罷於奔命者、則不戰而屈人兵之謀、而以夷敎誘我民者、則全國爲上之策也、

新字:今夫欲決一定之策、宜観天下大勢、以審察彼此之虚実也、四海万国形勢、臣既粗言之、今既観於其大勢、則宜以八洲為城、滄海為池、因天下全形、以為戦守之略也、欲察彼此虚実、則宜審主客之勢、以制操縦之権也、夫虜万里而窺人者客也、我内自守者主也、然虜毎出於長策、従容制人者、変客為主也、彼客而無饋糧之労者、或漁或商、活用因糧之術也、無破車罷馬之費者、乗巨艦駕長風也、其能坐使吾民罷於奔命者、則不戦而屈人兵之謀、而以夷教誘我民者、則全国為上之策也、

書き下し

今夫れ一定の策を決せんと欲せば、宜しく天下の大勢を観て、以て彼此の虚実を審察すべし。四海万国の形勢は、臣既に粗之を言へり。今既に其の大勢を観れば、則ち宜しく八洲を以て城と為し、滄海を池と為し、天下の全形に因りて、以て戦守の略と為すべし。彼此の虚実を察せんと欲せば、則ち宜しく主客の勢を審らかにして、以て操縦の権を制すべし。夫れ虜の万里にして人を窺ふ者は客なり、我の内に自ら守る者は主なり。然れども虜の毎に長策に出で、従容として人を制する者は、客を変じて主と為すなり。彼客にして饋糧の労無き者は、或いは漁し或いは商し、因糧の術を活用するなり。破車罷馬の費無き者は、巨艦に乗り長風に駕するなり。其の能く坐して吾が民をして奔命に罷れしむる者は、則ち戦はずして人の兵を屈するの謀にして、夷教を以て我が民を誘ふ者は、則ち国を全うするを上と為すの策なり。

現代語訳

さて一定の策を決めようとするなら、天下の大きな形勢を見て、彼我の虚と実を詳しく察するべきである。世界の国々の形勢については、私(臣)がすでにおおよそ述べた。いまその大きな形勢を見たからには、日本の島々を城とし、大海を堀とし、天下全体の地形に基づいて戦いと守りの策を立てるべきである。彼我の虚実を察しようとするなら、主と客の勢いを詳しく見極めて、主導権を握るべきである。そもそも万里のかなたから人を窺う敵は客であり、内にあって自ら守るわが方は主である。しかし敵がいつも長期の策から出て、ゆったりと人を制しているのは、客を変じて主となっているのである。彼が客でありながら食糧輸送の労がないのは、漁をしたり交易をしたりして、現地で食糧を得る術を活用しているからである。車が壊れ馬が疲れる費えがないのは、巨艦に乗り長い風を受けて進むからである。居ながらにしてわが民を奔走させ疲れさせることができるのは、戦わずして敵の兵を屈服させる謀であり、夷狄の教え(キリスト教)でわが民を誘うのは、国をそのまま手に入れるのを最上とする策である。

解説

一定の策を決めるには天下の大勢を観て彼我の虚実を見極めよと説き、日本列島を城、海を堀とみなして戦守の略を立てよと正志斎は言う。そして本来は客であるはずの西洋が、漁や交易で糧を得、巨艦で移動し、日本の民を奔走させ、教えで民心を誘うことで「客を変じて主となっている」と分析する。『孫子』の「因糧於敵」「戦わずして人の兵を屈す」「国を全うするを上と為す」を西洋の戦略に当てはめた読みである。キリスト教を侵略の手段とみる見方は当時の警戒心から出たものだが、相手が主導権を握る仕組みを冷静に分解する手法は今も参考になる。

この章句が説くこと

主客虚実戦略主導権防衛孫子

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