新論 / 虜情
虜之肉而不粒、猶我民之粒而不肉、其無稻米、於彼何歉也、〈虜非無所用稻米、然其用之不過以爲餌餅而已、〉且使彼欲稻乎、則其國中及他屬國與其與國、産稻之地、亦爲不尠矣、而何必至懇請如此之甚也、〈如印度諸國、及南海諸島、其地皆産稻、他諸國在南方者、亦可推知、而近時大抵爲西夷所併有、其不乏稻米也明矣、〉且彼欲因互市以窺間以售妖敎、固亡論已、而交易一開、則其東邊如柬薩噶烏抱等地、由此而得致富庶、是其於増兵衆以圖東方、勢爲甚便、則一擧而兩利存焉、以故浸淫漸漬、日甚一日、是其勢宜必得所求而後已也、
新字:虜之肉而不粒、猶我民之粒而不肉、其無稲米、於彼何歉也、〈虜非無所用稲米、然其用之不過以為餌餅而已、〉且使彼欲稲乎、則其国中及他属国与其与国、産稲之地、亦為不尠矣、而何必至懇請如此之甚也、〈如印度諸国、及南海諸島、其地皆産稲、他諸国在南方者、亦可推知、而近時大抵為西夷所併有、其不乏稲米也明矣、〉且彼欲因互市以窺間以售妖教、固亡論已、而交易一開、則其東辺如柬薩噶烏抱等地、由此而得致富庶、是其於増兵衆以図東方、勢為甚便、則一挙而両利存焉、以故浸淫漸漬、日甚一日、是其勢宜必得所求而後已也、
書き下し
虜の肉して粒せざるは、猶我が民の粒して肉せざるがごとし。其の稲米無きは、彼に於いて何ぞ歉らん(虜は稲米を用ふる所無きに非ず。然れども其の之を用ふるは、以て餌餅と為すに過ぎざるのみ)。且つ彼をして稲を欲せしめんか、則ち其の国中及び他の属国と其の与国と、稲を産するの地、亦尠からずと為す。而るに何ぞ必ずしも懇請すること此くの如く甚だしきに至らんや(印度の諸国及び南海の諸島の如きは、其の地皆稲を産す。他の諸国の南方に在る者も、亦推して知るべし。而して近時大抵西夷の併有する所と為る、其の稲米に乏しからざること明らかなり)。且つ彼の互市に因りて以て間を窺ひ以て妖教を售らんと欲するは、固より論ずる亡きのみ。而して交易一たび開くれば、則ち其の東辺の柬薩噶・烏抱等の地の如き、此に由りて富庶を致すことを得。是れ其の兵衆を増して以て東方を図るに於いて、勢甚だ便と為す、則ち一挙にして両利存す。故を以て浸淫漸漬して、日に甚だしきこと一日なり。是れ其の勢宜しく必ず求むる所を得て而る後に已むべきなり。
現代語訳
ロシア人が肉を食べて穀物を食べないのは、わが国の民が穀物を食べて肉を食べないのと同じである。米がなくても、彼らにとって何の不足があろうか(ロシア人も米を用いないわけではない。しかし用いるのは、菓子や餅にする程度にすぎない)。また仮に彼らが米を欲しがるとしても、その国内やほかの属国、同盟国には、米を産する土地も少なくない。どうしてこれほどまでに熱心に頼みこむ必要があろうか(インドの国々や南海の島々などは、どこも米を産する。南方にあるほかの国々も推して知るべきである。そして近ごろはその多くが西洋人に併合されているのだから、米に困らないことは明らかである)。さらに、彼らが交易を通じてすきをうかがい、邪な教えを売りこもうとしていることは、もとより言うまでもない。そのうえ交易がひとたび開かれれば、その東の辺境のカムチャツカ(柬薩噶)やオホーツク(烏抱)などの地は、これによって豊かになり人も増える。これは兵を増やして東方を狙ううえで、きわめて都合がよい。つまり一挙に二つの利がある。だからじわじわとしみこみ、日に日に甚だしくなっているのである。その勢いからすれば、必ず求めるものを手に入れるまではやめないはずである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『新論』虜情其の初めや洋中に出没して、以て吾が地形を測り、吾が動静を闚ひ、而して又吾が人民を誘ふ。尋いで礼を厚くして以て通商を乞ひ、黠計行はれざるに及びて、乃ち蝦夷を劫かし吾が官府を焚き、吾が戎器を掠め、而して又更に通市を要む。是れ其の闚伺に漸有り、而して其の請求、或いは自ら飾るに礼を以てし、或いは人を嚇すに兵を以てし、百方兼ね施し、其の術至らざる莫し、而して其の意も亦知るべきなり。而るに偸安の徒、動もすれば謂ふ、彼は特に米穀を欲するのみ、深く慮るに足らずと。何ぞ其れ思はざるの甚だしきや。
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『新論』虜情升平已に久しく、海内無事なるに及びて、夷復た中国を窺ひ、諳厄利重ねて通商を乞ふ(長崎夜話に是の事を載す。大略に云ふ、諳厄利往年市舶を通じ、元和中に至りて、自ら其の通舶を罷むる者は、蓋し深く時勢を知る者有ればなり。世移り時改まるに及びて、又徼幸する所有らんと欲し、延宝癸丑を以て復た通商を乞ふも、許さずと。今其の語意を詳らかにするに、亦泛言なる者に非ざるに似たり)。而して邏馬も亦僧を遣はして潜入し、窃かに夷教を唱ふ。亦皆未だ其の志を得ること能はざるなり。近時に至りては、則ち鄂羅殊に張り、蝦夷を誘ふに邪教を以てし、諸島を蚕食して、遂に内地を伺ふ。而して諳厄利も亦頻りに来たりて、潜かに辺氓を誘ふ。然らば則ち其の胡神を奉じて以て中国を覬覦する者、豈に独り波爾杜瓦のみにして止まんや。
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『新論』虜情夫れ西夷並び立ちて戦国と為り、同じく一神を奉じ、利を見れば則ち相連和して、以て其の欲を済し、其の利を分かち、害あれば則ち各々疆場を保つ、固より是れ其の常なり。故に西方に難有れば、則ち東方事無く、難平らげば則ち各々地を四方に略し、東方是に於いてか寧きを得ず。鄂羅の如きも、亦既に西荒を平らげ、乃ち東のかた止百里を収め、潜かに黒龍江に入る。而して満清尚強く、未だ志を得ること能はず、転じて蝦夷の地を略し、先づ其の取り易き者を取りて然る後に其の難き者を争はんと欲す。是れ秦の司馬錯の蜀を取るの策なり。
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『新論』虜情故に人の国家を傾けんと欲すれば、則ち必ず先づ通市に因りて其の虚実を窺ひ、乗ずべきを見れば則ち兵を挙げて之を襲ひ、不可なれば則ち夷教を唱へて、以て民心を煽惑す。民心一たび移れば、簞壺相迎へて、之を禁ずるを得る莫し。而して民は胡神の為に死を致し、相欣羨して以て栄と為す、其の勇以て闘ふに足る。資産を傾けて以て胡神に奉ず、其の財以て兵を行ふに足る。人の民を誘ひ人の国を傾くるを以て、胡神の心に副ふと為し、兼愛の言を仮りて、以て其の呑噬を逞しうす。其の兵貪と云ふと雖も、而も以て義兵の名を衒ふに足る。其の国を併せ地を略する、皆此の術に由らざる莫きなり。
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『新論』虜情虜は海を航ること万里にして、人の国家を伺ふ。糧を敵に因らざるを得ず。故に至る所或いは商し或いは漁し、以て屯田の用と為すに非ざる莫きなり。然らずして彼をして徒らに鯨を獲んことを欲せしめんか、則ち其の近旁の海中にも、捕鯨の処亦多し。而るに何ぞ必ずしも遥遥として絶険を度りて、之を東洋に捕らんや(臥児狼徳等の地は、諳厄利と一水を隔つるのみ。而して海上に鯨甚だ多く、諸国の人皆往きて之を捕ると云ふ)。而して其の船の制為る、以て漁すべく、以て商すべく、亦以て戦ふべし。則ち悪くんぞ今日の漁船商舶の果たして異日の戦艦と為らざるを知らんや。
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『新論』虜情夫れ西夷の中国を窺ふ者、前後武を接し、各国逓ひに至る。其の国殊なりと雖も、其の敬事尊奉する所以の者は、則ち同一の胡神なり。故に耶蘇の中原を闚ふこと三百年にして変ぜず。而して中国の之を待つ所以の者は、則ち時論の趨舎に係り、或は雄断に出で、或は姑息に出づ。是れ其の間を闚ふ者は始終一意にして、之に応ずる者は前後論を異にす。一意なる者を以て、異論なる者を闚ふ、安んぞ其の能く久しくして間の乗ずべき無きを保たんや。然らば則ち時論をして一定し乗ずべきの間無からしめんと欲せば、虜情を審らかにするに在るかな、虜情を審らかにするに在るかな。(巻上終)
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