新論 / 國體中
尺蠖之屈、以求信、故弛者將以有所張、捨者將以有所用、捨今之所用、而用所捨、弛今之所張而張所弛、略末節而急先務、去虚文而責實効、以張古之所張、而用古之所用、行之存於其人、夫 東照宮之興也、濱松之強鳴於天下、今將以天下爲濱松、而鳴於殊方絶域、則亦足以奉 東照宮磨勵士衆之遺意焉、於是乎立政明敎、兵必受命於 天神、天人爲一、億兆同心、覲光揚烈、宣國威海外、攘除夷狄、開拓土宇、則 天祖之貽謀、 天孫之繼述、深意所存者、實於是乎在焉、
新字:尺蠖之屈、以求信、故弛者将以有所張、捨者将以有所用、捨今之所用、而用所捨、弛今之所張而張所弛、略末節而急先務、去虚文而責実効、以張古之所張、而用古之所用、行之存於其人、夫 東照宮之興也、浜松之強鳴於天下、今将以天下為浜松、而鳴於殊方絶域、則亦足以奉 東照宮磨励士衆之遺意焉、於是乎立政明教、兵必受命於 天神、天人為一、億兆同心、覲光揚烈、宣国威海外、攘除夷狄、開拓土宇、則 天祖之貽謀、 天孫之継述、深意所存者、実於是乎在焉、
書き下し
尺蠖の屈むは、以て信びんことを求むるなり。故に弛むる者は将に以て張る所有らんとし、捨つる者は将に以て用ゐる所有らんとす。今の用ゐる所を捨てて捨つる所を用ゐ、今の張る所を弛めて弛むる所を張り、末節を略して先務を急にし、虚文を去りて実効を責め、以て古の張る所を張り、古の用ゐる所を用ゐる。之を行ふは其の人に存す。夫れ東照宮の興るや、浜松の強天下に鳴る。今将に天下を以て浜松と為して、殊方絶域に鳴らさんとす。則ち亦以て東照宮の士衆を磨励するの遺意を奉ずるに足らん。是に於てか政を立て教を明らかにし、兵は必ず命を天神に受け、天人一と為り、億兆心を同じくし、光を覲し烈を揚げ、国威を海外に宣べ、夷狄を攘除し、土宇を開拓せば、則ち天祖の貽謀、天孫の継述、深意の存する所、実に是に於てか在り。
現代語訳
尺取虫が身を縮めるのは、伸びようとするためである。だから緩めるのはやがて締めるためであり、捨てるのはやがて用いるためである。今用いているものを捨てて捨てているものを用い、今締めているところを緩めて緩めているところを締め、末節を省いて先にすべき務めを急ぎ、虚飾を去って実際の効果を求め、そうして古に締めたところを締め、古に用いたものを用いる。これを行うかどうかは、その任にある人にかかっている。そもそも東照宮が興ったとき、浜松の強さは天下に鳴り響いた。いま天下全体を浜松として、その強さを遠い異国にまで鳴り響かせようとするのである。そうすれば東照宮が武士たちを磨き励ました遺志を奉じるに足りよう。ここに政治を立て教えを明らかにし、兵は必ず天神から命を受け、天と人が一つになり、万民が心を同じくし、祖宗の光を仰ぎその功業を輝かせ、国威を海外に示し、夷狄を打ち払い、国土を切り開くならば、天祖の遺された計画、天孫の受け継がれた志の深い意図は、まさにここにある。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『新論』國體中昔東照宮の武力を尚ぶは、基業を建つる所以にして、其の天下を愚弱にするは、天下と休息する所以なり。之を張りて弛むる者なり。今外夷日に干戈を尋ね、呑併を事とし、逓ひに出で並び至りて、以て人の辺境を窺ふ。其の勢猶尾甲相の浜松に隣するがごとし。固より休息を得るの時に非ず。則ち将た安んぞ弛めて張らざるを得んや。故に其の基業を建つる所以の意は必ず法るべくして、之を愚弱にするの跡は、必ずしも泥むべからず。時変の見易き者なり。
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『新論』國體中夫れ節義を以て士衆を磨励するは、必ず東照宮当日の意に倣傚す。本を強くする所以なり。邦君をして強を国に養ふを得しめ、士大夫をして強を邑に養はしめ、兵に土有り、土に兵有らしむるは、末を強くする所以なり。本末共に強く、兵甲既に衆く、天下の民、勇有りて方を知り、義気海内に溢れ、海内の全力を用ゐて、以て膺懲の師を興し、醜虜をして跡を屏け形を竄して敢へて辺に近づかざらしめば、庶幾くは国体を忝めざらん。
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『新論』國體中故に朝廷衰ふと雖も、天下乱ると雖も、天下の勢猶未だ其の強為るを失はず。是を以て能く胡元の賊船を却け、朝鮮の国都を抜き、兵威の海外に震ふこと、猶尚ほ此の如きなり。豊臣氏天下の太だ強きを患へ、有土の君を挙げて尽く之を大阪に処き、或いは之を土木に役し、或いは之を戦伐に用ゐ、之をして一日も強を其の国に養ふを得ざらしむ。東照宮の興るや、其の務めも亦本を強くして末を弱くするに在り。武士をして各々都城に聚処せしめ、之をして一日も強を其の邑に養ふを得ざらしめ、庶民をして耳に金鼓を聞かず目に干戈を見ざらしむ。是に於てか兵寡く民愚にして、天下始めて弱く、而して一時の人豪、息を屏めて命を聴く。英算偉略の独り天下を運らす所以の者、其の効速やかなりと謂ふべし。
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『新論』國體上夫れ方今古を去ること遠しと雖も、仰ぐ所の至尊は則ち儼然として天祖の正胤なり。治むる所の蒼生は、則ち依然として天祖の愛養したまふ所の裔孫なり。苟も能く人心の磨滅すべからざる者に因りて、之が教条を設け、神聖の天下を淬礪したまふ所以の意に原づき、天に事へ先を祀り本に報い始めに反り、因りて以て君臣の義を正し、父子の親を敦くし、万民を槖籥して、以て一心と為さば、豈に甚だ為し難からんや。此れ乃ち千載の一時、必ず失ふべからざるの機なり。臣是を以て弊の由りて生ずる所を審らかにせんと欲し、邪説の害に眷眷たらざるを得ざるなり。夫れ英雄は通変神化し、為すべからざるの時無く、為すべからざるの事無し。而して帝王の恃みて以て四海を保つ所の者は、天人の大道なり。其の文は変ずべきも、其の義は易ふべからず。則ち神聖の天地を経緯し億兆をして皆其の上に親しみて離るるに忍びざらしむる所以の意は、今日と雖も亦復た行ふべからざる者無し。今時勢の変なり、邪説の害なり、天下其の弊に勝へずと雖も、而も之を更張作新せんと欲すれば、顧ふに之を処する所以の方何如なるのみ。
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『新論』國體中其の弛張の機、用捨の権の如きは、則ち之に処するに方有り、之を発するに時有り。朝聘の疎数、去留の久近、職貢の軽重、征役の施舎は、一を執りて論ずべからず。其の変に通じ、民をして倦まざらしむるは、要は機会に投ずるに在るのみ。然らずんば則ち徒に旧轍を守りて以て天下を把持せんと欲するも、而も浜海寡弱の卒、或いは一たび敗衄を致さば、勢固より其の君を遣はして国に就かしめざるを得ざるなり。均しく之を遣はすに、先んじて自ら断ずることを為さず、情見はれ勢屈するに至りて、然る後已むを得ずして之を遣はさば、適に以て侮りを天下に取るに足るのみ。故に曰く、先んずれば則ち人を制し、後るれば則ち人に制せらると。今天下を制御せんと欲して、縦送磬控するは、其の機断と不断とに在り。古人曰く、断じて之を行へば、鬼神も之を避くと。況や行ふ所乃ち鬼神の祐くる所なるをや。
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『新論』國體中夫れ天下の事、斯の利有れば必ず斯の害有り。弱の弊は必ず振はざるに至る。然るに当時弱勢有りて弱形無きは何ぞや。東照宮の基を立つるや、専ら節義を以て士衆を磨励し、士は進みて死する有りて退きて生くる無し。兵の加ふる所、大衆勁敵と雖も、敢へて其の鋒に当たる莫し。天下既に平らぎ、麾下の将士、皆名節を重んじ、勇武を尚び、而して世未だ干戈を忘れず、不虞に備ふるを知る。故に天下弱しと雖も、通邑大都、武士の聚処する所は、則ち亦未だ其の弱為るを見ざるなり。
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