新論 / 序論
臣是以慷慨悲憤、不能自已、敢陳國家所宜恃者、一曰國體、以論 神聖以忠孝建國、而遂及其尚武重民命之説、二曰形勢、以論四海萬國之大勢、三曰虜情、以論戎狄覬覦之情實、四曰守禦、以論富國強兵之要務、五曰長計、以論化民成俗之遠圖、是五論者、皆所以祈天之定而復勝人也、臣之自誓而以身殉天地者、大略如此矣、
新字:臣是以慷慨悲憤、不能自已、敢陳国家所宜恃者、一曰国体、以論 神聖以忠孝建国、而遂及其尚武重民命之説、二曰形勢、以論四海万国之大勢、三曰虜情、以論戎狄覬覦之情実、四曰守禦、以論富国強兵之要務、五曰長計、以論化民成俗之遠図、是五論者、皆所以祈天之定而復勝人也、臣之自誓而以身殉天地者、大略如此矣、
書き下し
臣是を以て慷慨悲憤し、自ら已む能はず、敢へて国家の宜しく恃むべき所の者を陳ぶ。一に曰く国体、以て神聖の忠孝を以て国を建てしことを論じて、遂に其の武を尚び民命を重んずるの説に及ぶ。二に曰く形勢、以て四海万国の大勢を論ず。三に曰く虜情、以て戎狄覬覦の情実を論ず。四に曰く守禦、以て富国強兵の要務を論ず。五に曰く長計、以て化民成俗の遠図を論ず。是の五論は、皆天の定まりて復た人に勝つを祈る所以なり。臣の自ら誓ひて身を以て天地に殉ぜんとする者、大略此くの如し。
現代語訳
私はそれゆえ憤り嘆いて自分を抑えられず、あえて国家が頼みとすべきものを述べる。第一は「国体」で、神聖(皇祖)が忠孝によって国を建てたことを論じ、さらに武を尊び民の命を重んじる説に及ぶ。第二は「形勢」で、世界万国の大勢を論じる。第三は「虜情」で、外敵が日本をうかがう実情を論じる。第四は「守禦」で、国を富ませ兵を強くする要務を論じる。第五は「長計」で、民を教化し良い風俗をつくる遠大な計画を論じる。この五論はみな、天の秩序が定まって、ふたたび人に勝つことを祈るためのものである。私が自ら誓い、身をもって天地に殉じようとするところは、おおよそこのとおりである。
解説
この章句が説くこと
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『新論』長計古人言へる有り、国の大事は、祀と戎とに在りと。戎に一定の略有り、祀は不抜の業たり、実に国家の大事にして、天下を大観し、万世を通視して、一定不易の長策を立つる所以の者此くの如し。夫れ国体を明らかにし、形勢を審かにし、虜情を察し、守禦を修めて、長計を立つるは、実に聖子神孫の皇祖天神に報ゆる所以の大孝にして、幕府・邦君の万姓を済ひ無窮に施す所以の大忠なり。臣謹んで五論を著す。臣の私言に非ざるなり。天地鬼神将に与に之を聴かんとす。
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『新論』守禦夫れ内政修まり、軍令飭ひ、邦国富み、守備班たば、則ち天下の宜しく釐革すべき所の者、大綱挙がる。大綱挙がれば、則ち其の瑣瑣たる者も亦た将に随ひて振起せんとす。夫れ英雄は時を相て変に処す。昔時未だ設けざる所にして、今日宜しく創立すべき所の者、亦た安んぞ熟思して之を講明せざるを得んや。臣を以て之を策すれば曰く、屯兵を設く、曰く、斥候を明らかにす、曰く、水兵を繕ふ、曰く、火器を練る、曰く、資糧を峙ふ。是の五者は、以て創立せざるべからざるなり。
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『新論』國體上今夷虜禍心を包蔵し、日に辺陲を窺伺して、邪説の害内に稔ること、百端窮まり無きこと此の如し。夷狄を中国に養ひ、天下嗷嗷として、民に淫朋有り、人に比徳有り。挙げて之を大観すれば、果たして中国と為すか、明清か、将た身毒か、抑も西洋か。国の体為る、其れ何如ぞや。夫れ四体具はらざれば、以て人と為すべからず。国にして体無くんば、何を以て国と為さんや。而るに論者方に富国強兵、守辺の要務を言ふ。今虜民心の主無きに乗じて、陰に辺民を誘ひ、暗に之が心を移す。民心一たび移らば、則ち未だ戦はずして天下既に夷虜の有と為る。所謂富強なる者、既に我が有に非ずして、適に以て賊に兵を借し盗に糧を齎すに足るのみ。心を労し慮りを竭くして、其の国を富強にし、一旦挙げて以て寇賊に資す。亦惜しむべきなり。苟も稍事体を弁ずる者は、誰か扼腕切歯して共に之を憤らざらんや。今幕府断然として天下に明令し、辺民の接済を厳禁し、黠虜をして肆に吾が民を煽惑するを得ざらしむ。而して令布くこと一日にして、天下智愚と無く、黠虜の狡謀詭計の悪むべく醜むべきを知らざる莫し。天下人心の磨滅すべからざること此の如し。
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『新論』序論今、天下の為に其の大計を論ずれば、天下の人、愕然として相顧み、驚怪せざるは莫し。旧聞に溺れて故見に狃るればなり。兵法に曰く、「其の来らざるを恃むこと無く、吾の以て之を待つ有るを恃め。其の攻めざるを恃むこと無く、吾の攻むべからざる所有るを恃め」と。然らば則ち吾をして治化洽浹し、風俗淳美、上下義を守り、民富み兵足り、強寇大敵と雖も之に応じて遺算無からしむれば則ち可なり。若し猶ほ未だしくんば、則ち其の自ら遑あり自ら逸する者、果して何をか恃む所ぞや。而るに論者皆謂ふ、「彼は蛮夷なり、商舶なり、漁船なり、深患大禍を為す者に非ず」と。是れ其の恃む所の者は、来らざるなり、攻めざるなり。恃む所彼に在りて我に在らず。如し吾の之を恃む所以の者と攻むべからざる所の者とを問へば、則ち茫乎として之を能く知る莫きなり。嗟夫、天地の誣罔を免るるを見んと欲すとも、将た何れの時にか之を期せんや。
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『新論』序論謹んで按ずるに、神州は太陽の出づる所、元気の始まる所にして、天日の嗣、世々宸極を御し、終古易らず、固より大地の元首にして、万国の綱紀なり。誠に宜しく宇内を照臨し、皇化の曁ぶ所、遠邇有ること無かるべし。而るに今、西荒の蛮夷、脛足の賤を以て、四海に奔走し、諸国を蹂躪し、眇視跛履、敢へて上国を凌駕せんと欲す。何ぞ其れ驕れるや。(地の天中に在る、渾然として端無く、宜しく方隅無きが如くなるべし。然れども凡そ物は自然の形体有りて存せざるは莫し。而して神州其の首に居る。故に幅員甚だしくは広大ならずして、其の万方に君臨する所以の者、未だ嘗て一たびも姓を易へ位を革めず。西洋諸蕃は、其の股脛に当る。故に奔舶走舸、遠くして至らざる莫きなり。而して海中の地、西夷名づけて亜墨利加洲と曰ふ者に至りては、則ち其の背後なり。故に其の民愚戇にして、為す所有る能はず。是れ皆自然の形体なり。)是れ其の理、宜しく自ら隕越して以て傾覆を取るべし。然れども天地の気は盛衰無き能はず、而して人衆ければ則ち天に勝つも、亦其の勢の已むを得ざる所なり。苟くも豪傑奮起して以て天功を亮くる有るに非ざるよりは、則ち天地も亦将に胡羯腥膻の誣罔する所と為りて然る後に已まんとす。
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『新論』守禦夫れ屯戍設け、斥候明らかに、水兵繕ひ、火器練り、資糧峙はれば、則ち其の宜しく創立すべき所の者、大綱挙がる。大綱挙がれば、則ち其の瑣瑣たる者も、亦将に随ひて作興せんとす。経制の昔存して今廃れ、紀綱の昔張りて今弛む者は、尽く釐革して之を振起し、規模の宜しく立つべくして未だ立たず、禁令の宜しく設くべくして未だ設けざる者は、尽く創立して之を作興す。臣の画する所の守禦の策、大略此くの如し。然り而して智者の事を挙ぐるや其の之を慮るや、必ず利害に雑ふ。故に謀議画策、既に其の利を知れば亦以て其の害の所在を知らざるべからざるなり。請ふ竟に之を論ぜん。
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