新語 / 慎微
夫建大功於天下者必先修於閨門之內,垂大名於萬世者必先行之於纖微之事。是以伊尹負鼎,居於有莘之野,修道德於草廬之下,躬執農夫之作,意懷帝王之道,身在衡門之裏,志圖八極之表,故釋負鼎之志,為天子之佐,尅夏立商,誅逆征暴,除天下之患,辟殘賊之類,然後海內治,百姓寧。曾子孝於父母,昏定晨省,調寒溫,適輕重,勉之於糜粥之間,行之於衽席之上,而德美重於後世。此二者,修之於內,著之於外;行之於小,顯之於大。
新字:夫建大功於天下者必先修於閨門之内,垂大名於万世者必先行之於繊微之事。是以伊尹負鼎,居於有莘之野,修道徳於草廬之下,躬執農夫之作,意懐帝王之道,身在衡門之裏,志図八極之表,故釈負鼎之志,為天子之佐,尅夏立商,誅逆征暴,除天下之患,辟残賊之類,然後海内治,百姓寧。曽子孝於父母,昏定晨省,調寒温,適軽重,勉之於糜粥之間,行之於衽席之上,而徳美重於後世。此二者,修之於内,著之於外;行之於小,顕之於大。
書き下し
夫れ大功を天下に建つる者は必ず先ず閨門の内に修め、大名を万世に垂るる者は必ず先ず之を纖微の事に行う。是を以て伊尹は鼎を負い、有莘の野に居り、道徳を草廬の下に修め、躬ら農夫の作を執り、意に帝王の道を懐き、身は衡門の裏に在りて、志は八極の表を図る。故に鼎を負うの志を釈きて、天子の佐と為り、夏に尅ちて商を立て、逆を誅し暴を征し、天下の患を除き、残賊の類を辟け、然る後に海内治まり、百姓寧し。曽子は父母に孝にして、昏に定め晨に省み、寒温を調え、軽重を適え、之を糜粥の間に勉め、之を衽席の上に行い、而して徳の美は後世に重し。此の二者は、之を内に修め、外に著し、之を小に行い、大に顕わる。
現代語訳
天下に大きな功を立てる者は、必ずまず家の内で身を修め、万世に大きな名を残す者は、必ずまず細やかな事柄で行いを積みます。だから伊尹は、鼎を背負って有莘の野に暮らし、粗末な草の庵で道徳を修め、自ら農夫の仕事をしながら、心に帝王の道を抱き、粗末な門の内にいながら、志は八方の果てを図っていました。やがて鼎を背負う志を解いて天子の補佐となり、夏に勝って商の世を立て、逆らう者を誅し暴を討ち、天下の患いを除き、残忍な賊の類を退け、その後に天下は治まり、民は安らぎました。曽子は父母に孝行で、夕べには寝所を整え、朝には安否を見舞い、寒さ暖かさを調え、軽重を宜しく計らい、粥のような簡素な食事の間にも努め、寝床の上でも孝を行い、その徳の美しさは後世に重んじられました。この二人は、内で身を修め、外に表れ、小さなことで行い、大きなこととして現れたのです。
解説
この章句が説くこと
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『潜夫論』慎微凡そ山陵の高きは、削りて崛起を成すに非ず、必ず歩ごとに増して稍や上るなり。川谷の卑きは、截断して顛陥するに非ず、必ず陂池して稍や下るなり。是の故に上を積みて止まざれば、必ず嵩山の高きを致し、下を積みて已まざれば、必ず黄泉の深きを極む。独り山川のみに非ず、人行も亦た然り。布衣有り善を積みて怠らざれば、必ず顔閔の賢を致し、悪を積みて休まざれば、必ず桀蹠の名を致す。独り布衣のみに非ず、人臣も亦た然り。正を積みて倦まざれば、必ず節義の志を生じ、邪を積みて止まざれば、必ず暴弑の心を生ず。独り人臣のみに非ず、国君も亦た然り。政教徳を積めば、必ず安泰の福を致し、挙錯数しば失すれば、必ず危亡の禍を致す。故に仲尼曰く、「湯武は一善にして王たるに非ず、桀紂は一悪にして亡ぶるに非ず」と。三代の廃興は、其の積む所に在り。善を積むこと多き者は、一悪有りと雖も、是を過失と謂い、未だ以て亡ぶるに足らず、悪を積むこと多き者は、一善有りと雖も、是を誤中と謂い、未だ以て存するに足らず。人君此れを聞かば、以て悚懼すべく、布衣此れを聞かば、以て容を改むべし。
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新語・慎微湯・武の君、伊・呂の臣の若きは、天時に因りて罰を行い、陰陽に順いて運動し、上は天文を瞻、下は人心を察し、寡を以て衆を服し、弱を以て強を制す。革車三百、甲卒三千にして、敵を征し衆を破り、以て大讎に報い、逆乱の君を討ち、煩濁の原を絶つ。天下和平にして、家給し人足り、疋夫は仁を行い、商賈は信を行い、天地を斉しくし、鬼神を致し、河は図を出だし、洛は書を出だす。是に因るの道は、之を天地の間に寄す。豈に古の所謂道を得る者に非ずや。夫れ布革を播き、毛髪を乱し、高山に登り、木実を食らい、之を視れば優游の容無く、之を聴けば仁義の辞無く、忽忽として狂癡の若く、之を推せども往かず、之を引けども来らず、当世其の功を蒙らず、後代其の才を見ず、君傾けども扶けず、国危うけれども持せず、寂寞として鄰無く、寥廓として独り寐ぬ。避世と謂う可くして、道を懐く者に非ざるなり。故に身を殺して以て難を避くるは則ち計に非ざるなり。道を懐きて世を避くるは則ち不忠なり。
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新語・慎微是を以て君子は乱世に居りては、則ち道徳に合し、微善を采り、纖悪を絶ち、父子の礼を脩め、以て君臣の序に及ぼす。乃ち天地の通道、聖人の失わざる所なり。故に之を隠せば則ち道と為り、之を布けば則ち文と為る。詩は心に在りては志と為り、口に出でては辞と為る。矯むるに雅僻を以てし、鈍才を砥礪し、文彩を雕琢し、狐疑を抑定し、通塞を理順し、然否を分別して、情は以て利を得、性は以て治まるを得。緜緜漠漠として、道を以て之を制す。之を察すれば兆無く、之を遁るれば恢恢たり。其の行いを見ず、其の仁を覩ず、湛然として未だ悟らざるも、久しくして乃ち殊なり。天地を論思し、動けば枢機に応じ、俯仰進退、道と依を為す。之を身に藏し、優遊して時を待つ。故に道は廃れて興らざる無く、器は毀れて治まらざる無し。孔子曰く、「至徳要道有りて以て天下に順う」と。徳行ありて其の下之に順うを言うなり。
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新語・慎微顔回は一簞の食、一瓢の飲、陋巷の中に在り、人は其の憂いに堪えざるも、回や其の楽しみを改めず。礼以て之を行い、遜以て之を出だす。蓋し力学して詩・書を誦するは、凡人の能く為す所なり。若し江・河を移し、太山を動かさんと欲するは、固より人力の能わざる所なり。如し心を己に調え、悪に背き善に向かい、財に貪らず、利に苟くもせず、財を分かつに寡きを取り、事に服するに労を取らば、此れ天下の知り易きの道、行い易きの事なり。豈に難き有らんや。造父の馬を御し、羿の弩を用うるが若きは、則ち所謂難きなり。君子は其の難きを以て之を為さず。故に以て善を為すを知らざるなり。気力を絶ち、徳を尚ぶなり。
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『潜夫論』慎微是の故に君子は戦戦栗栗として、日に一日を慎み、己に克ち三たび省み、見れざるを是れ図る。孔子曰く、「善積まざれば以て名を成すに足らず、悪積まざれば以て身を滅ぼすに足らず」と。夫れ賢聖は卑革して、則ち其の福に登る。慶封伯は酒に荒淫し、沈湎度無く、以て其の家を弊う。晋平は政を殆んじ、惑いて以て志を喪い、良臣匡さず、故に倶に禍有り。楚荘・斉威は、始め荒淫の行い有り、削弱の敗、乱亡に幾し。中ごろ能く感悟し、民事を勤恤し、労積み苦思して、孜孜として怠らず。夫の陳応を出し、管蘇に爵命し、即墨を召し、阿大夫を烹るや、故に能く中興し、諸侯に強霸し、当時尊顕、後世思わるるを見、伝えて令名と為り、載せて図籍に在り。此に由りて言えば、希なる人君有るも、其の行は一なり。
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『潜夫論』慎微己を知るを明と曰い、自ら勝つを強と曰う。夫れ不善有れば、未だ嘗て知らずんばあらず、之を知れば未だ嘗て復た行わず、此れ顔子の庶幾と称せらるる所以なり。詩に曰く、「天は爾を保定し、亦た孔だ之れ固く、爾をして亶に厚からしむ、胡んぞ福の除かれん」と。小人は小善を以て益無しと謂いて為さず、小悪を以て傷無しと謂いて去らず。是を以て悪積みて掩うべからず、罪大にして解くべからず。此れ蹶属の国を迷わせて返らざる所以、三季の遂に往きて振るわざる所以の者なり。夫れ微を積みて顕と成り、著を積みて鄂と成り、鄂は存亡を致す、聖人は常に其の微を慎むなり。文王は小心翼翼、成王は夙夜敬止し、微眇を慎むを思い、早く未萌を防ぐ、故に能く太平にして子孫に伝う。且つ夫れ邪と正は、猶お水と火のごとく、原を同じくせず、並び盛んなるを得ず、正性勝てば則ち遂に己を重んじて虧くに忍びざるなり、故に伯夷は餓死して恨まず。邪性勝てば則ち忸怵して舎つるに忍びざるなり、故に王莽は位を窃みて慚じず、悪習を積むの致す所なり。夫れ悪習を積むは久しきに非ず、死亡を致すは一に非ざるなり。世品人遂に爾をして益を多くし、以て庶からざる莫からしむ。蓋し也た此の言なり。言うこころは、天は王者を保佐し、其の性命を定め、甚だ堅固なり、と。
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