新語 / 辨惑
人有與曾子同姓名者殺人,有人告曾子母曰:「參乃殺人。」母方織,如故,有頃復告云,若是者三,曾子母投杼踰垣而去。曾子之母非不知子不殺人也,言之者眾。夫流言之並至,眾人之所是非,雖賢智不敢自畢,況凡人乎?魯定公之時,與齊侯會於夾谷,孔子行相事。兩君升壇,兩相處下,兩相欲揖,君臣之禮,濟濟備焉。齊人鼓譟而起,欲執魯公。孔子歷階而上,不盡一等而立,謂齊侯曰:「兩君合好,以禮相率,以樂相化。臣聞嘉樂不野合,犧象之薦不下堂。夷、狄之民何求為?」命司馬請止之。定公曰:「諾。」齊侯逡巡而避席曰:「寡人之過。」退而自責大夫。罷會。齊人使優旃儛於魯公之幕下,傲戲,欲候魯君之隙,以執定公。孔子歎曰:「君辱臣當死。」使司馬行法斬焉,首足異門而出。
新字:人有与曽子同姓名者殺人,有人告曽子母曰:「参乃殺人。」母方織,如故,有頃復告云,若是者三,曽子母投杼踰垣而去。曽子之母非不知子不殺人也,言之者衆。夫流言之並至,衆人之所是非,雖賢智不敢自畢,況凡人乎?魯定公之時,与斉侯会於夾谷,孔子行相事。両君升壇,両相処下,両相欲揖,君臣之礼,済済備焉。斉人鼓譟而起,欲執魯公。孔子歴階而上,不尽一等而立,謂斉侯曰:「両君合好,以礼相率,以楽相化。臣聞嘉楽不野合,犠象之薦不下堂。夷、狄之民何求為?」命司馬請止之。定公曰:「諾。」斉侯逡巡而避席曰:「寡人之過。」退而自責大夫。罷会。斉人使優旃儛於魯公之幕下,傲戯,欲候魯君之隙,以執定公。孔子嘆曰:「君辱臣当死。」使司馬行法斬焉,首足異門而出。
書き下し
人の曽子と姓名を同じくする者有りて人を殺す。人有り曽子の母に告げて曰く、「参乃ち人を殺せり」と。母方に織りて、故の如し。頃く有りて復た告げて云う。是くの若き者三たび、曽子の母杼を投げ垣を踰えて去る。曽子の母は子の人を殺さざるを知らざるに非ず、之を言う者衆ければなり。夫れ流言の並び至り、衆人の是非する所は、賢智と雖も敢えて自ら畢せず、況んや凡人をや。魯の定公の時、斉侯と夾谷に会し、孔子相の事を行う。両君壇に升り、両相下に処り、両相揖せんと欲す。君臣の礼、済済として備わる。斉人鼓譟して起ち、魯公を執えんと欲す。孔子階を歴て上り、一等を尽くさずして立ち、斉侯に謂いて曰く、「両君好みを合わせ、礼を以て相率い、楽を以て相化す。臣聞く、嘉楽は野に合せず、犠象の薦は堂を下らずと。夷・狄の民何をか求めて為さんや」と。司馬に命じて之を止めんことを請う。定公曰く、「諾」と。斉侯逡巡して席を避けて曰く、「寡人の過ちなり」と。退きて自ら大夫を責む。会を罷む。斉人優旃をして魯公の幕下に舞わしむ。傲戯して、魯君の隙を候い、以て定公を執えんと欲す。孔子歎じて曰く、「君辱めらるれば臣は死に当たる」と。司馬をして法を行い斬らしむ。首足門を異にして出ず。
現代語訳
曽子と同姓同名の者が人を殺しました。ある人が曽子の母に「参が人を殺しました」と告げました。母はちょうど機を織っていて、そのまま変わりませんでした。しばらくしてまた告げる者があり、こうして三度に及ぶと、曽子の母は杼を投げ出し、垣を越えて逃げ去りました。曽子の母は、わが子が人を殺さないことを知らなかったわけではありません。言う者が多かったからです。流言が次々に届くと、人々の是非の声は、賢者や知者でさえ自分だけでは決めきれません。まして凡人はなおさらです。魯の定公のとき、斉侯と夾谷で会し、孔子が介添えの役を務めました。両君が壇に登り、両国の介添えは下にいて、礼を交わそうとしました。君臣の礼は整然と備わっていました。そこへ斉の人が鬨の声をあげて立ち、魯公を捕らえようとしました。孔子は階段を上り、最上段の一段手前まで来て立ち、斉侯に言いました。「両君が親しみを結ぶのに、礼で率い、楽で感化するものです。私は、立派な楽は野で合奏せず、祭りの供え物は堂を下りないと聞いています。夷や狄の民が、何を求めてここにいるのですか」。そして司馬に命じて、これを止めさせるよう願いました。定公は「よろしい」と言い、斉侯はためらい、席を避けて「寡人の過ちです」と言い、退いて自分の大夫を責め、会は終わりました。斉の人は優旃に魯公の幕の下で舞わせ、ふざけて魯君の隙をうかがい、定公を捕らえようとしました。孔子は嘆いて「君が辱められれば、臣は死に当たる」と言い、司馬に法を行わせて斬らせました。首と足は別々の門から出されました。
解説
この章句が説くこと
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孟子・告子章句下任人屋廬子に問ふ有りて曰く、「礼と食と孰れか重き。」曰く、「礼重し。」「色と礼と孰れか重き。」曰く、「礼重し。」曰く、「礼を以て食へば則ち飢ゑて死し、礼を以てせずして食へば則ち食を得んに、必ず礼を以てせんか。親迎すれば則ち妻を得ず、親迎せざれば則ち妻を得んに、必ず親迎せんか。」屋廬子対ふる能はず。明日鄒に之きて以て孟子に告ぐ。孟子曰く、「是に答ふるに於いて何か有らん。其の本を揣らずして、其の末を斉しくせば、方寸の木も岑楼より高からしむべし。金は羽より重しとは、豈に一鉤の金と一輿の羽との謂ならんや。食の重き者と礼の軽き者とを取りて之を比べば、奚ぞ翅に食重きのみならん。色の重き者と礼の軽き者とを取りて之を比べば、奚ぞ翅に色重きのみならん。往きて之に応へて曰へ、『兄の臂を紾りて之が食を奪へば、則ち食を得、紾らざれば、則ち食を得ずんば、則ち将に之を紾らんとするか。東家の墻を逾えて其の処子を摟けば、則ち妻を得、摟かざれば、則ち妻を得ずんば、則ち将に之を摟かんとするか。』と。」
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論語・八佾篇子貢、告朔の餼羊を去らんと欲す。子曰く、「賜や、爾は其の羊を愛しむ、我は其の礼を愛しむ。」
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『山鹿語類』士道・明衣服之制朱子語録曰、今官員執笏、最無義理、笏者唯在君前記事、恐事多、須以紙粘笏上、記其頭緒、或在君前不可以手指人物、便用笏指之、此笏常只挿在腰間、不執在手中、天子摂斉升堂、何曽手中有笏、摂者是畏謹、恐上階時踏着裳、有顛仆之患、執圭者自是賛見之物、唯是捧至君前、不是如執笏、所以天子執圭時、便足縮々如有循縁、手中有圭、不得摂斉亦防顛仆。馬端臨曰、圭鎮玉也、笏服飾也、圭則執之以為信、笏則執之以為飾、晦庵言、笏只是君前記事指画之具、不当執之於手、然古者天子亦有笏、豈又藉此以記事指画乎、蓋朝章之服飾也、但天子之笏以玉為之、其制似圭、而天子与公侯伯之圭、上鋭下方、其形類笏、故後人或誤以圭為笏、然笏者非執則措、不可須臾去身者也、若圭則天子以礼神、諸侯以朝見、天子不過当事之時暫捧之而即尊之、不常執也、嘗見絵礼図者、絵上公衮冕執桓圭、左手如取笏之状、是矣、至卿大夫、無圭壁、則端冕盛服而執、所謂羔厂者在手、殊為可笑、蓋誤以圭為笏、誤以鎮信之具為服飾之具故也。今案ずるに馬端臨笏を以て服飾之具とするは又誤れり。聖人何ぞ不入の物を制して服飾とせんや。天子又記事指画のことあるべからずと云もあやまれり。笏常に身を不離は、天子も又其可忘失之事、今叡慮におもむく処は則しるし付けたまふべし。又指画して侍臣に示し玉ふべし。手指を出さんは、君臣ともに礼に非ざれば也。故に天子より士に至るまで笏あるべき也。
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『大和俗訓』巻之八・応接一凡人に交るには、言も形も、礼をあつくすべし。人の言を咎むべからず。もし止む事を得ずして、人の過を正さば、礼義を以て、其道理を真実にのぶべし。怒りて言を過し、無礼をなすべからず。一古人の言に、天下皆非なるの理なしといへり。此言よく体認すべし。世の中の人のしわざ、わが心に叶はずとも、皆ひが事にてはあらじ、何事ぞ故ありて斯あるべしと思ひ、みだりに人を咎むべからず。我が心にあししと思へど、又さなき事あり。故ありてなせる事には、過ならざる事あり。又かへつて道理にかなへる事あり。わが心必道理の寸尺のかねになるべからず。我が心にあしきと思ふとも、みだりに人を責めそしるべからず。愚なる人は、人情事変を知らず、人のなすわざ心に叶はざれば、故ありと、故なきとをかへりみず、妄に人をそしり怨むる故に、うらむるも誹る義理にかなはざること多し。
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『翁問答』下卷之末体充曰、淳于髡曰く、男女授受するに親らせざるは礼か、孟子曰く、礼なり、曰く、嫂溺るれば則ち之を援くるに手を以てせんか、曰く、嫂溺るるを援けざるは是れ豺狼なり、男女授受するに親らせざるは礼なり、嫂溺るるときに之を援くるに手を以てするは権なり、曰く、今天下溺る、夫子の援けざるは何ぞや、曰く、天下溺るれば之を援くるに道を以てし、嫂溺るれば之を援くるに手を以てす、子は手もて天下を援けんと欲するか、孟子の此章を考見れば、経と権と差別あるべきと存候はいかゞ。師の曰、漢儒の経に反して道に合ふを権と為すの説は、此の章を見誤たる者なり此章の礼は礼法を指ていへり、礼法は天下万民日用通行のために平生急務の事ばかりを定たまふものなれば、非常の変事には礼法なし、道は大虚に充満して身をはなれざるものなれば、もとより平常日用の道も礼法なり、また非常の変に処する義も道なり権は此道の総名なる故に、礼法も本権なれ共事の模様定りて迹あるによつて権と名けがたき故に法と名づけたり、
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『弁名』智孔子臧文仲を称して、不智なる者三と。皆其の礼を知らざるを謂ふなり。古は礼を知らざるを以て不智と為すを見るべきのみ。孟子の言を知るも、亦た先王の法言を知るを謂ふなり。苟も能く先王の法言を知れば、則ち規矩我に在りて以て人の言を知るに足る。故に下に詖淫邪遁を以て之を言ふのみ。後儒は道を知らず。故に直ちに孔子の人の言を知ると謂ふなり。訟を聴くは吾猶ほ人のごときなり、と。是れ孔子と雖も敢へて自ら人の言を知ると道はず。況んや孟子にして之を能くせんや。故に詖淫邪遁も、亦た弁を好むの過ちなり。然れども又た毎に規矩を以て言と為せば、則ち其の言を知るも亦た先王の法言を知るを謂ふを知るのみ。
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