師導古典を学びたいすべての人に

史記 / 李斯列伝

丞相長男李由為三川守,楚盜陳勝等皆丞相傍縣之子,以故楚盜公行,過三川,城守不肯擊。高聞其文書相往來,未得其審,故未敢以聞。且丞相居外,權重於陛下。」二世以為然。欲案丞相,恐其不審,乃使人案驗三川守與盜通狀。李斯聞之。是時二世在甘泉,方作觳抵優俳之觀。李斯不得見,因上書言趙高之短曰:「臣聞之,臣疑其君,無不危國;妾疑其夫,無不危家。今有大臣於陛下擅利擅害,與陛下無異,此甚不便。昔者司城子罕相宋,身行刑罰,以威行之,朞年遂劫其君。田常為簡公臣,爵列無敵於國,私家之富與公家均,布惠施德,下得百姓,上得群臣,陰取齊國,殺宰予於庭,即弑簡公於朝,遂有齊國。此天下所明知也。今高有邪佚之志,危反之行,如子罕相宋也;私家之富,若田氏之於齊也。兼行田常、子罕之逆道而劫陛下之威信,其志若韓玘為韓安相也。陛下不圖,臣恐其為變也。」二世曰:「何哉?夫高,故宦人也,然不為安肆志,不以危易心,潔行修善,自使至此,以忠得進,以信守位,朕實賢之,而君疑之,何也?且朕少失先人,無所識知,不習治民,而君又老,恐與天下絕矣。朕非屬趙君,當誰任哉?

新字:丞相長男李由為三川守,楚盗陳勝等皆丞相傍県之子,以故楚盗公行,過三川,城守不肯撃。高聞其文書相往来,未得其審,故未敢以聞。且丞相居外,権重於陛下。」二世以為然。欲案丞相,恐其不審,乃使人案験三川守与盗通状。李斯聞之。是時二世在甘泉,方作觳抵優俳之観。李斯不得見,因上書言趙高之短曰:「臣聞之,臣疑其君,無不危国;妾疑其夫,無不危家。今有大臣於陛下擅利擅害,与陛下無異,此甚不便。昔者司城子罕相宋,身行刑罰,以威行之,朞年遂劫其君。田常為簡公臣,爵列無敵於国,私家之富与公家均,布恵施徳,下得百姓,上得群臣,陰取斉国,殺宰予於庭,即弑簡公於朝,遂有斉国。此天下所明知也。今高有邪佚之志,危反之行,如子罕相宋也;私家之富,若田氏之於斉也。兼行田常、子罕之逆道而劫陛下之威信,其志若韓玘為韓安相也。陛下不図,臣恐其為変也。」二世曰:「何哉?夫高,故宦人也,然不為安肆志,不以危易心,潔行修善,自使至此,以忠得進,以信守位,朕実賢之,而君疑之,何也?且朕少失先人,無所識知,不習治民,而君又老,恐与天下絶矣。朕非属趙君,当誰任哉?

書き下し

丞相の長男李由は三川の守為り。楚の盗陳勝等は皆丞相の傍県の子なり。故を以て楚の盗公行し、三川を過ぐるも、城守りて撃つを肯ぜず。高聞く、其の文書相往来すと。未だ其の審らかなるを得ず。故に未だ敢て以て聞せず。且つ丞相は外に居りて、権は陛下より重し」と。二世以て然りと為す。丞相を案ぜんと欲するも、其の審らかならざるを恐れ、乃ち人をして三川の守の盗と通ずる状を案験せしむ。李斯之を聞く。是の時二世甘泉に在り、方に觳抵優俳の観を作す。李斯見ゆるを得ず、因りて書を上りて趙高の短を言ひて曰く、「臣之を聞く、臣其の君を疑へば、国を危ふくせざる無し。妾其の夫を疑へば、家を危ふくせざる無しと。今大臣有りて陛下に於て利を擅にし害を擅にし、陛下と異なる無し。此れ甚だ便ならず。昔者司城子罕宋に相たり、身づから刑罰を行ひ、威を以て之を行ふ。朞年にして遂に其の君を劫かす。田常は簡公の臣と為り、爵列国に敵無く、私家の富は公家と均し。恵を布き徳を施し、下は百姓を得、上は群臣を得、陰かに斉国を取り、宰予を庭に殺し、即ち簡公を朝に弑し、遂に斉国を有つ。此れ天下の明らかに知る所なり。今高は邪佚の志、危反の行ひ有ること、子罕の宋に相たるが如きなり。私家の富は、田氏の斉に於けるが若きなり。田常・子罕の逆道を兼ね行ひて陛下の威信を劫かす。其の志は韓玘の韓安の相と為るが若きなり。陛下図らずんば、臣其の変を為さんことを恐る」と。二世曰く、「何ぞや。夫れ高は、故の宦人なり。然れども安きを為して志を肆にせず、危ふきを以て心を易へず、行ひを潔くし善を修め、自ら此に至らしむ。忠を以て進むを得、信を以て位を守る。朕実に之を賢とす。而るに君之を疑ふは、何ぞや。且つ朕少くして先人を失ひ、識知する所無く、民を治むるに習はず。而して君又老い、恐らくは天下と絶えん。朕趙君に属せずんば、当に誰にか任ずべき。

現代語訳

丞相の長男李由は三川郡の太守である。楚の盗賊の陳勝らは、みな丞相の故郷の近くの県の者だ。だから楚の盗賊どもが公然と通り過ぎて三川を抜けていっても、李由は城を守るだけで撃とうとしなかったのだ。私は、彼らの間で文書のやりとりがあると聞いているが、まだ詳しいことがつかめないので、あえて申し上げなかった。しかも丞相は宮中の外にいて、その権勢は陛下よりも重い」。二世はそのとおりだと思った。丞相を取り調べようとしたが、確かでないことを恐れ、人をやって三川太守が盗賊と通じている証拠を調べさせた。李斯はこれを聞いた。このとき二世は甘泉宮にいて、ちょうど角力や役者の芝居の見物をしていた。李斯は目通りできなかったので、上書して趙高の悪を訴えた。「臣下が君主と権力を分け合うような疑わしい振る舞いをすれば、国を危うくしないことはなく、妾が夫と権を争えば、家を危うくしないことはない、と聞いている。いま陛下のそばに、利益を与えるのも害を加えるのも思いのままにし、陛下と変わらない権力を持つ大臣がいる。これはたいへんよくない。むかし司城の子罕は宋の宰相となり、自ら刑罰を執り行い、威勢でそれを押し通して、一年でついに主君を脅かした。田常は斉の簡公の臣下であったが、爵位は国内に並ぶ者がなく、家の富は公室と等しく、恩恵を施して下は民の心をつかみ、上は群臣の心をつかみ、ひそかに斉の国を奪い、宰予を庭で殺し、簡公を朝廷で弑して、ついに斉の国を手に入れた。これは天下の誰もがよく知っていることだ。いま趙高はよこしまで放縦な野心と、危うく反逆的な行いを持っており、子罕が宋の宰相となったときのようだ。その家の富は、田氏が斉で持っていたほどだ。田常と子罕の逆道を兼ね行い、陛下の威信を脅かしている。その野心は、韓玘が韓王安の宰相となって主君を殺したときのようだ。陛下が手を打たれなければ、趙高が変事を起こすのではないかと私は恐れる」。二世は言った。「何を言うのか。趙高はもとは宦官であるが、安泰だからといって思うままに振る舞わず、危うくなっても心を変えず、行いを清くし善を修めて、自らの力でここまで来たのだ。忠誠によって取り立てられ、誠実によって地位を守っている。私はまことに彼を賢いと思っている。それなのに、あなたが彼を疑うのはなぜか。しかも私は若くして父を失い、何もわからず、民を治めることにも慣れていない。そしてあなたはもう年老いて、天下のことから遠ざかってしまうだろう。私が趙君(趙高)に任せなければ、いったい誰に任せればよいのか。

解説

趙高の讒言が李斯の息子にまで及び、李斯が反撃の上書をする段です。趙高は、陳勝らが李斯の故郷の近くの出身であること、李由の三川郡を反乱軍が素通りしたことをつなげ、李斯父子が盗賊と通じていると吹き込みました。確証はないと言いつつ疑いだけを植え付ける、典型的な讒言の手口です。李斯は二世に会えず、上書で趙高を宋の子罕や斉の田常になぞらえ、主君をしのぐ権力を持つ臣下は必ず国を奪うと警告しました。内容はまったく正しく、のちに趙高は実際に二世を殺します。ところが二世は、趙高は忠実で清廉だ、自分は若くて何もわからず、李斯は年老いている、趙高に任せなければ誰に任せるのか、と取り合いませんでした。すでに情報を趙高に握られた二世には、正しい警告も讒言にしか聞こえなかったのです。どれほど正しい意見も、届け方と届く時期を誤れば力を持ちません。

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る