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史記 / 魯仲連鄒陽列伝

「事將柰何?」平原君曰:「勝也何敢言事!前亡四十萬之眾於外,今又內圍邯鄲而不能去。魏王使客將軍新垣衍令趙帝秦,今其人在是。勝也何敢言事!」魯仲連曰:「吾始以君為天下之賢公子也,吾乃今然後知君非天下之賢公子也。梁客新垣衍安在?吾請為君責而歸之。」平原君曰:「勝請為紹介而見之於先生。」平原君遂見新垣衍曰:「東國有魯仲連先生者,今其人在此,勝請為紹介,交之於將軍。」新垣衍曰:「吾聞魯仲連先生,齊國之高士也。衍人臣也,使事有職,吾不願見魯仲連先生。」平原君曰:「勝既已泄之矣。」新垣衍許諾。魯連見新垣衍而無言。新垣衍曰:「吾視居此圍城之中者,皆有求於平原君者也;今吾觀先生之玉貌,非有求於平原君者也,曷為久居此圍城之中而不去?」魯仲連曰:「世以鮑焦為無從頌而死者,皆非也。眾人不知,則為一身。

新字:「事将柰何?」平原君曰:「勝也何敢言事!前亡四十万之衆於外,今又内囲邯鄲而不能去。魏王使客将軍新垣衍令趙帝秦,今其人在是。勝也何敢言事!」魯仲連曰:「吾始以君為天下之賢公子也,吾乃今然後知君非天下之賢公子也。梁客新垣衍安在?吾請為君責而帰之。」平原君曰:「勝請為紹介而見之於先生。」平原君遂見新垣衍曰:「東国有魯仲連先生者,今其人在此,勝請為紹介,交之於将軍。」新垣衍曰:「吾聞魯仲連先生,斉国之高士也。衍人臣也,使事有職,吾不願見魯仲連先生。」平原君曰:「勝既已泄之矣。」新垣衍許諾。魯連見新垣衍而無言。新垣衍曰:「吾視居此囲城之中者,皆有求於平原君者也;今吾観先生之玉貌,非有求於平原君者也,曷為久居此囲城之中而不去?」魯仲連曰:「世以鮑焦為無従頌而死者,皆非也。衆人不知,則為一身。

書き下し

「事将に柰何せん」と。平原君曰く、「勝や何ぞ敢て事を言はん。前に四十万の衆を外に亡ひ、今又内に邯鄲を囲まれて去らしむる能はず。魏王、客将軍新垣衍をして趙をして秦を帝とせしめんとす。今其の人是に在り。勝や何ぞ敢て事を言はん」と。魯仲連曰く、「吾始め君を以て天下の賢公子と為せり。吾乃ち今然る後に君の天下の賢公子に非ざるを知る。梁の客新垣衍安くに在る。吾請ふ、君の為に責めて之を帰さん」と。平原君曰く、「勝請ふ、紹介を為して之を先生に見えしめん」と。平原君遂に新垣衍に見えて曰く、「東国に魯仲連先生なる者有り。今其の人此に在り。勝請ふ、紹介を為して之を将軍に交へん」と。新垣衍曰く、「吾聞く、魯仲連先生は斉国の高士なりと。衍は人臣なり。使事に職有り。吾魯仲連先生に見ゆるを願はず」と。平原君曰く、「勝既已に之を泄らせり」と。新垣衍許諾す。魯連、新垣衍に見えて言無し。新垣衍曰く、「吾此の囲城の中に居る者を視るに、皆平原君に求むる有る者なり。今吾先生の玉貌を観るに、平原君に求むる有る者に非ず。曷為れぞ久しく此の囲城の中に居りて去らざる」と。魯仲連曰く、「世、鮑焦を以て従頌無くして死する者と為すは、皆非なり。衆人知らず、則ち一身の為にすと。

現代語訳

「この事態をどうなさるおつもりか」。平原君は言った。「私ごときがどうして事を論じられましょう。先には四十万の兵を国外で失い、今また国内で邯鄲を囲まれて、退かせることもできません。魏王は客将軍の新垣衍をよこして、趙に秦を帝と認めさせようとしている。その人は今ここにいる。私ごときがどうして事を論じられましょう」。魯仲連は言った。「私ははじめ、あなたを天下の賢い公子だと思っていました。今になって、あなたが天下の賢い公子ではないとわかりました。梁(魏)の客の新垣衍はどこにいるのですか。あなたのために彼を責めて、追い返してさしあげましょう」。平原君は「では私が仲立ちをして、先生に引き合わせましょう」と言った。平原君はそこで新垣衍に会って言った。「東の国(斉)に魯仲連先生という方がいて、今ここにおられる。私が仲立ちをして、将軍にお引き合わせしたい」。新垣衍は言った。「魯仲連先生は斉の国の高潔な士だと聞いている。私は人の臣下で、使者としての務めがある。魯仲連先生にお会いしたいとは思いません」。平原君が「もう先生にはお話ししてしまいました」と言うので、新垣衍は承諾した。魯仲連は新垣衍に会っても何も言わなかった。新垣衍は言った。「この包囲された城の中にいる者を見ると、みな平原君に何かを求めている者ばかりだ。ところが先生のご立派なお姿を見ると、平原君に何かを求める方ではない。なぜこんな包囲された城の中にいつまでもとどまって、去らないのですか」。魯仲連は言った。「世間では、鮑焦(周の隠者)は度量がなくて死んだのだと言いますが、みな誤りだ。人々は彼の真意がわからず、自分一身のために死んだと思っているのだ。

解説

魯仲連が平原君を叱咤し、新垣衍と対面する場面です。平原君は戦国四君に数えられる名公子ですが、ここでは「私ごときが何を言えよう」と繰り返し、判断を放棄しています。魯仲連はその姿を「賢公子ではない」と正面から斬り、自ら交渉役を買って出ます。新垣衍は会うのを渋り、会えば会ったで「先生のような方がなぜ包囲された城に」と探りを入れます。魯仲連が引いた鮑焦は、世を憎んで木を抱いて死んだとされる周の隠者で、自分も一身の利益のためにここにいるのではない、と言外に示す布石です。この後に続く長い弁舌の導入部にあたります。追い込まれた組織では、責任ある立場の人ほど黙り込みがちです。外部の人間が遠慮なく核心を突くことで、ようやく議論が動き出すことがあります。

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