師導古典を学びたいすべての人に

史記 / 孟嘗君列伝

齊王惑於秦、楚之毀,以爲孟嘗君名髙其主而擅齊國之權,遂廢孟嘗君。諸客見孟嘗君廢,皆去。馮驩曰:「借臣車一乘,可以入秦者,必令君重於國而奉邑益廣,可乎?」孟嘗君乃約車幣而遣之。馮驩乃西説秦王曰:「天下之游士馮軾結靷西入秦者,無不欲彊秦而弱齊;馮軾結靷東入齊者,無不欲彊齊而弱秦。此雄雌之國也,勢不兩立爲雄,雄者得天下矣。」秦王跽而問之曰:「何以使秦無爲雌而可?」馮驩曰:「王亦知齊之廢孟嘗君乎?」秦王曰:「聞之。」馮驩曰:「使齊重於天下者,孟嘗君也。今齊王以毀廢之,其心怨,必背齊;背齊入秦,則齊國之情,人事之誠,盡委之秦,齊地可得也,豈直爲雄也!君急使使載幣陰迎孟嘗君,不可失時也。如有齊覺悟,復用孟嘗君,則雌雄之所在未可知也。」秦王大悅,乃遣車十乘黃金百鎰以迎孟嘗君。馮驩辭以先行,至齊,説齊王曰:「天下之游士馮軾結靷東入齊者,無不欲彊齊而弱秦者;馮軾結靷西入秦者,無不欲彊秦而弱齊者。夫秦齊雄雌之國,秦彊則齊弱矣,此勢不兩雄。

新字:斉王惑於秦、楚之毀,以為孟嘗君名高其主而擅斉国之権,遂廃孟嘗君。諸客見孟嘗君廃,皆去。馮驩曰:「借臣車一乗,可以入秦者,必令君重於国而奉邑益広,可乎?」孟嘗君乃約車幣而遣之。馮驩乃西説秦王曰:「天下之游士馮軾結靷西入秦者,無不欲彊秦而弱斉;馮軾結靷東入斉者,無不欲彊斉而弱秦。此雄雌之国也,勢不両立為雄,雄者得天下矣。」秦王跽而問之曰:「何以使秦無為雌而可?」馮驩曰:「王亦知斉之廃孟嘗君乎?」秦王曰:「聞之。」馮驩曰:「使斉重於天下者,孟嘗君也。今斉王以毀廃之,其心怨,必背斉;背斉入秦,則斉国之情,人事之誠,尽委之秦,斉地可得也,豈直為雄也!君急使使載幣陰迎孟嘗君,不可失時也。如有斉覚悟,復用孟嘗君,則雌雄之所在未可知也。」秦王大悦,乃遣車十乗黄金百鎰以迎孟嘗君。馮驩辞以先行,至斉,説斉王曰:「天下之游士馮軾結靷東入斉者,無不欲彊斉而弱秦者;馮軾結靷西入秦者,無不欲彊秦而弱斉者。夫秦斉雄雌之国,秦彊則斉弱矣,此勢不両雄。

書き下し

斉王、秦・楚の毀りに惑ひ、以為へらく孟嘗君は名その主より高くして斉国の権を擅にすと。遂に孟嘗君を廃す。諸客孟嘗君の廃せらるるを見て、皆去る。馮驩曰く、「臣に車一乗を借せ、以て秦に入るべき者、必ず君をして国に重くして奉邑益々広からしめん、可なるか」と。孟嘗君乃ち車幣を約してこれを遣る。馮驩乃ち西して秦王に説きて曰く、「天下の游士の軾に馮り靷を結びて西して秦に入る者は、秦を彊くして斉を弱めんと欲せざるは無し。軾に馮り靷を結びて東して斉に入る者は、斉を彊くして秦を弱めんと欲せざるは無し。此れ雄雌の国なり、勢ひ両立して雄たらず、雄たる者は天下を得ん」と。秦王跽きてこれに問ひて曰く、「何を以てせば秦をして雌と為ること無からしめて可ならん」と。馮驩曰く、「王もまた斉の孟嘗君を廃せるを知るか」と。秦王曰く、「これを聞く」と。馮驩曰く、「斉をして天下に重からしむる者は、孟嘗君なり。今、斉王毀りを以てこれを廃す、その心怨み、必ず斉に背かん。斉に背きて秦に入らば、則ち斉国の情、人事の誠、尽くこれを秦に委ね、斉の地得べきなり、豈に直だに雄たるのみならんや。君、急ぎ使ひをして幣を載せて陰かに孟嘗君を迎へしめよ、時を失ふべからざるなり。如し斉覚悟する有りて、また孟嘗君を用ひば、則ち雌雄の在る所未だ知るべからざるなり」と。秦王大いに悦び、乃ち車十乗・黄金百鎰を遣りて以て孟嘗君を迎へしむ。馮驩辞して以て先に行き、斉に至り、斉王に説きて曰く、「天下の游士の軾に馮り靷を結びて東して斉に入る者は、斉を彊くして秦を弱めんと欲せざる者は無し。軾に馮り靷を結びて西して秦に入る者は、秦を彊くして斉を弱めんと欲せざる者は無し。夫れ秦・斉は雄雌の国なり、秦彊ければ則ち斉弱し、此れ勢ひ両雄ならず。

現代語訳

斉王は秦や楚からの中傷に惑わされ、孟嘗君は名声が主君より高く、斉の国の権力をほしいままにしていると考えて、とうとう孟嘗君を罷免した。食客たちは孟嘗君が罷免されたのを見て、みな去っていった。馮驩は言った。「私に車を一台貸してほしい。秦に入ることができれば、必ずあなたを国で重んじられるようにし、領地もさらに広げてみせる。よろしいか。」孟嘗君はそこで車と贈り物を用意して彼を送り出した。馮驩は西へ行って秦王に説いた。「天下の遊説の士で、車の横木にもたれ、手綱を結んで西の秦に入る者は、誰もが秦を強くして斉を弱めたいと思っている。車の横木にもたれ、手綱を結んで東の斉に入る者は、誰もが斉を強くして秦を弱めたいと思っている。秦と斉は雄と雌を争う国で、勢いとして両方が雄になることはできない。雄となった方が天下を得るのだ。」秦王は身を乗り出して尋ねた。「どうすれば秦が雌にならずにすむのか。」馮驩は言った。「王は斉が孟嘗君を罷免したことをご存じか。」秦王は言った。「聞いている。」馮驩は言った。「斉を天下に重んじられる国にしているのは孟嘗君だ。いま斉王は中傷を信じて彼を罷免した。孟嘗君は心に恨みを抱き、必ず斉に背くだろう。斉に背いて秦に入れば、斉の国の内情も人の実情もすべて秦に委ねることになり、斉の土地を手に入れることができる。雄になるどころの話ではない。王は急いで使者に贈り物を積ませて、ひそかに孟嘗君を迎えさせるべきだ。この時を逃してはならない。もし斉が気づいて再び孟嘗君を用いれば、雄と雌がどちらになるかはわからなくなる。」秦王は大いに喜び、車十台と黄金百鎰を遣わして孟嘗君を迎えに行かせた。馮驩は秦王に別れを告げて先に出発し、斉に着くと斉王に説いた。「天下の遊説の士で、車の横木にもたれ、手綱を結んで東の斉に入る者は、誰もが斉を強くして秦を弱めたいと思っている。車の横木にもたれ、手綱を結んで西の秦に入る者は、誰もが秦を強くして斉を弱めたいと思っている。そもそも秦と斉は雄と雌を争う国で、秦が強ければ斉は弱くなる。これは勢いとして両方が雄になれないということだ。

解説

孟嘗君が罷免され、馮驩がその復権のために秦と斉を往復する段です。秦や楚の中傷を信じた斉王は、孟嘗君の名声が自分より高いことを恐れて罷免し、三千人の食客はみな去ってしまいました。そこで馮驩は車一台を借りて秦へ行き、「秦と斉は雄と雌を争う関係だ。斉を強くしている孟嘗君を迎え入れれば、斉の内情がすべて手に入る」と説いて、秦王に孟嘗君を迎える使者を出させます。そして自分は先回りして斉に戻り、今度は斉王に同じ理屈を裏返して説き始めます。一つの材料で両方の国を動かし、主君の価値を最大に引き上げる見事な駆け引きです。人の価値は、その人を欲しがる相手が現れて初めて周りに認識されることが多いという点は、今の人材の市場価値の話にもそのまま通じます。

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る