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史記 / 孟嘗君列伝

孟嘗君聞馮驩燒券書、怒而使使召驩。驩至、孟嘗君曰、聞先生得錢、即以多具牛酒而燒券書、何。馮驩曰、然。不多具牛酒即不能畢會、無以知其有餘不足。有餘者、為要期。不足者、雖守而責之十年、息愈多、急、即以逃亡自捐之。若急、終無以償、上則為君好利不愛士民、下則有離上抵負之名、非所以厲士民彰君聲也。焚無用虛債之券、捐不可得之虛計、令薛民親君而彰君之善聲也、君有何疑焉。孟嘗君乃拊手而謝之。

新字:孟嘗君聞馮驩焼券書、怒而使使召驩。驩至、孟嘗君曰、聞先生得銭、即以多具牛酒而焼券書、何。馮驩曰、然。不多具牛酒即不能畢会、無以知其有余不足。有余者、為要期。不足者、雖守而責之十年、息愈多、急、即以逃亡自捐之。若急、終無以償、上則為君好利不愛士民、下則有離上抵負之名、非所以厲士民彰君声也。焚無用虚債之券、捐不可得之虚計、令薛民親君而彰君之善声也、君有何疑焉。孟嘗君乃拊手而謝之。

書き下し

孟嘗君馮驩の券書を焼くを聞き、怒りて使をして驩を召さしむ。驩至る。孟嘗君曰く、「聞くならく先生銭を得れば、即ち多く牛酒を具へて券書を焼くと、何ぞや」と。馮驩曰く、「然り。牛酒を多く具へざれば即ち会を畢ふる能はず、以て其の有余不足を知る無し。余有る者は、期を為す。足らざる者は、守りて之を責むること十年と雖も、息愈々多く、急なれば、即ち逃亡を以て自ら之を捐てん。若し急なれば、終に以て償ふ無く、上は則ち君の利を好みて士民を愛せずと為し、下は則ち上を離れ負に抵るの名有り、士民を厲まし君の声を彰す所以に非ざるなり。無用虚債の券を焚き、得可からざるの虚計を捐て、薛民をして君に親しましめて君の善声を彰すなり、君何の疑ひか有らん」と。孟嘗君乃ち手を拊ちて之を謝す。

現代語訳

部下の「常識外れに見える判断」の裏にある深い戦略的合理性を、本人が論理的に説明する一段です。証文を焼いたと聞いた孟嘗君は激怒し、馮驩を呼びつけて詰問します。それに対する馮驩の説明は、完璧な論理でした。「返済能力のない貧者から無理に取り立てても、利息が膨らむほど彼らは追い詰められ、最後は逃亡して踏み倒すだけ。取り立てれば取り立てるほど、①主君は『利益ばかりを好み民を愛さない』という評判を得、②民は『主君に背く踏み倒し者』という汚名を負う。誰も得をしない。だから、どうせ回収できない無価値な証文(虚債・虚計)を焼き捨てることで、薛の民が主君を慕い、主君の善い評判が世に広まるようにしたのです。何を疑うことがありましょう」。これを聞いた孟嘗君は、手を打って感謝しました。ここに、二つの重要な教訓があります。第一に、部下や現場の「一見おかしな判断」を、頭ごなしに否定せず、その意図・論理を確かめる度量の大切さ。孟嘗君は最初怒りましたが、馮驩の説明を聞いて即座に非を認め、感謝に転じた。もし説明を聞かずに罰していれば、優れた参謀を失っていたでしょう。第二に、馮驩の論理が示すのは、「回収不能な債権に固執することの無意味さ」と「評判・人心という無形資産の重要性」です。取れないものを取ろうとして双方が傷つくより、それを手放して信頼と好評を得る方が、長期的にははるかに合理的。組織の意思決定でも、短期の数字(回収額)だけを見て「損か得か」を判断すると、より大きな価値(評判・信頼・持続的関係)を見落とします。優れた判断は、目先の帳簿ではなく、全体の長期的利益で測る。そして、それを部下がしたとき、その意図を理解し評価できるリーダーの器が、人材を活かすのです。

解説

あなたは、部下や現場の「一見おかしな判断」を、頭ごなしに否定せず、その意図・論理を確かめられていますか?短期の数字(損得)だけでなく、評判・信頼という長期的・全体的な利益で判断できていますか?優れた判断をした部下の意図を理解し、素直に評価できる器がありますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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