史記 / 張儀列伝
吾又新用,安能謀趙乎?為吾謝蘇君,蘇君之時,儀何敢言。且蘇君在,儀寧渠能乎!」張儀既相秦,為文檄告楚相曰:「始吾從若飲,我不盜而璧,若笞我。若善守汝國,我顧且盜而城!」
新字:吾又新用,安能謀趙乎?為吾謝蘇君,蘇君之時,儀何敢言。且蘇君在,儀寧渠能乎!」張儀既相秦,為文檄告楚相曰:「始吾従若飲,我不盗而璧,若笞我。若善守汝国,我顧且盗而城!」
書き下し
吾又新たに用ひらる、安くんぞ能く趙を謀らんや。吾が為に蘇君に謝せよ、蘇君の時、儀何ぞ敢へて言はん。且つ蘇君在らば、儀寧渠ぞ能くせんや」と。張儀既に秦に相たり、文檄を為りて楚の相に告げて曰く、「始め吾若に従ひて飲む、我而の璧を盗まざるに、若我を笞うつ。若善く汝の国を守れ、我顧つて且に而の城を盗まんとす」と。
現代語訳
(張儀は続けた。)「それにわたしは用いられたばかりだ。どうして趙を攻める謀りごとなどできようか。わたしに代わって蘇君に礼を言ってくれ。蘇君がいる間は、わたしがどうして趙を攻めようなどと口にできようか。それに蘇君がいる限り、わたしなどに何ができようか。」張儀は秦の宰相になると、檄文を書いて楚の宰相に告げた。「以前、わたしはおまえの酒宴に同席したとき、おまえの璧(たま)を盗んでもいないのに、おまえはわたしを鞭打った。おまえは自分の国をしっかり守っておれ。わたしはこれから、おまえの城を盗んでやる。」
解説
蘇秦の計略を知った張儀が、恩に報いて蘇秦の存命中は趙を攻めないと誓う場面と、楚への宣戦布告のような檄文です。張儀はかつて楚の宰相の酒宴で璧を盗んだ疑いをかけられ、鞭打たれたことがありました。その屈辱を忘れず、秦の宰相となるや「璧は盗んでいないが、今度はおまえの城を盗んでやる」と言い放ちます。蘇秦への義理を守る一方で、自分を辱めた相手には徹底して報復するという、張儀の執念深い人柄がよく表れています。のちに張儀は楚の懐王を欺いて大きな痛手を与え、この言葉を実行します。受けた恩も恨みも、人を動かす大きな原動力になるということ、そして人を軽んじて辱めた代償が、どれほど大きくなりうるかを考えさせる一節です。
関連する章句
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史記 張儀列伝蘇秦已に趙王に説きて相約して従親するを得たり、然れども秦の諸侯を攻め、約を敗りて後に負かんことを恐れ、秦に使用すべき者莫きを念ひ、乃ち人をして微かに張儀を感ぜしめて曰く、「子始め蘇秦と善し、今秦已に路に当たる、子何ぞ往きて游び、以て子の願ひを通ぜんことを求めざる」と。張儀是に於いて趙に之き、謁を上りて蘇秦に見えんことを求む。蘇秦乃ち門下の人を誡めて為に通ぜず、又去るを得ざらしむること数日。已にして之に見え、之を堂下に坐せしめ、僕妾の食を賜ふ。因りて数々之を譲めて曰く、「子の材能を以て、乃ち自ら困辱をして此に至らしむ。吾寧ろ言ひて子を富貴にする能はざらんや、子は収むるに足らざるなり」と。謝して之を去らしむ。張儀の来たるや、自ら以為へらく故人なりと、益を求めて、反つて辱めらる、怒り、諸侯の事ふべき莫く、独り秦のみ能く趙を苦しめんと念ひ、乃ち遂に秦に入る。蘇秦已にして其の舎人に告げて曰く、「張儀は、天下の賢士なり、吾殆ど如かざるなり。今吾幸ひに先に用ひらる、而して能く秦の柄を用ふる者は、独り張儀のみ可なり。然れども貧しく、因りて以て進む無し。吾其の小利を楽しみて遂げざらんことを恐る、故に召して之を辱め、以て其の意を激す。子我が為に陰かに之を奉ぜよ」と。乃ち趙王に言ひ、金幣車馬を発し、人をして微かに張儀に随はしめ、与に宿舎を同じくし、稍稍近づきて之に就き、奉ずるに車馬金銭を以てし、用ひんと欲する所は、為に取りて給し、而して告げず。張儀遂に以て秦の恵王に見ゆるを得。恵王以て客卿と為し、与に諸侯を伐たんことを謀る。蘇秦の舎人乃ち辞して去る。張儀曰く、「子に頼りて顕るるを得、方に且に徳に報いんとす、何の故に去るや」と。舎人曰く、「臣君を知るに非ず、君を知るは乃ち蘇君なり。蘇君秦の趙を伐ちて従約を敗らんことを憂へ、以為へらく君に非ざれば能く秦の柄を得る莫しと、故に君を感怒せしめ、臣をして陰かに君に資を奉給せしむ、尽く蘇君の計謀なり。今君已に用ひらる、請ふ帰りて報ぜん」と。張儀曰く、「嗟乎、此れ吾が術中に在りて悟らず、吾蘇君に及ばざること明らかなり。
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史記 張儀列伝張儀帰りて、復た秦に相たり。三歳にして魏復た秦に背きて従を為す。秦魏を攻め、曲沃を取る。明年、魏復た秦に事ふ。秦斉を伐たんと欲す、斉楚従親す、是に於いて張儀往きて楚に相たり。楚の懐王張儀の来たるを聞き、上舎を虚しくして自ら之を館す。曰く、「此れ僻陋の国なり、子何を以て之に教へん」と。儀楚王に説きて曰く、「大王誠に能く臣に聴き、関を閉ぢ約を斉に絶たば、臣請ふ商於の地六百里を献じ、秦の女をして大王の箕帚の妾たるを得しめ、秦楚婦を娶り女を嫁し、長く兄弟の国と為らん。此れ北のかた斉を弱めて西のかた秦を益すなり、計此れより便なる者無し」と。
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史記 張儀列伝張儀は、魏人なり。始め嘗て蘇秦と倶に鬼谷先生に事へ、術を学ぶ。蘇秦自ら張儀に及ばずと以(おも)ふ。張儀已に游説を諸侯に学ぶ。嘗て楚相に従ひて飲む。已にして楚相璧を亡ふ。門下、張儀を意ひて曰く、「儀は貧にして行無し、必ず此れ相君の璧を盗めり」と。共に張儀を執へ、掠笞すること数百、服せず、之を醳す。其の妻曰く、「嘻、子、書を読み游説する毋くんば、安ぞ此の辱を得んや」と。張儀、其の妻に謂ひて曰く、「吾が舌を視るに尚ほ在りや不や」と。其の妻笑ひて曰く、「舌在るなり」と。儀曰く、「足れり」と。
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戦国策・秦一・張儀之殘樗里疾張儀の樗里疾を殘わんとするや、重んじて之を楚に使いせしむ。因りて楚王をして之が為に相を秦に請わしむ。張子秦王に謂いて曰わく、「樗里疾を重んじて之を使いする者は、將に以て國交を為さんとすればなり。今身楚に在り、楚王因りて之が為に相を秦に請う。臣其の言を聞くに曰わく、『王儀を秦に窮せしめんと欲するか。臣請う王を助けん』と。楚王以て然りと為し、故に為に相を請うなり。今王誠に之を聽かば、彼必ず國を以て楚王に事えん。」秦王大いに怒り、樗里疾出走す。
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戦国策・張儀相秦張儀秦に相たり、昭雎に謂いて曰わく、「楚に鄢・郢・漢中無くんば、更に得る所有りや。」曰わく、「有る無し。」曰わく、「昭雎・陳軫無くんば、更に得る所有りや。」曰わく、「更に得る所無し。」張儀曰わく、「儀の為に楚王に謂いて昭雎・陳軫を逐わば、請う鄢・郢・漢中を復さん。」昭雎帰りて楚王に報じ、楚王之を説ぶ。人有りて昭雎に謂いて曰わく、「甚しいかな、楚王の名を争う者に察せざるや。韓相たらんことを工陳籍に求むるも周聴かず、魏相たらんことを綦母恢に求むるも周聴かず、何を以てするか。周は是れ列県のごとく我を畜えばなり。今楚は万乗の強国なり、大王は天下の賢主なり。今儀君と陳軫とを逐わんと曰いて王之を聴けば、是れ楚自ら行うこと周に如かず、而して儀韓・魏の王より重んぜらるるなり。且つ儀の行う所、功名有る者は秦なり、貴富ならんと欲する者は魏なり。魏に攻を為さんと欲せば、必ず南のかた楚を伐たん。故に攻に道有り、外は其の交わりを絶ち、内は其の謀臣を逐う。陳軫は夏人なり、三晋の事に習う、故に之を逐わば、則ち楚謀臣無し。今君能く楚の衆を用う、故に亦た之を逐わば、則ち楚衆用いられず。此れ所謂内之を攻むる者なり、而るに王察するを知らず。今君何ぞ臣を王に見えしめざる、請う王の為に斉との交わりを絶えざらしめん。斉との交わり絶えざれば、儀之を聞けば、其の鄢・郢・漢中を効すこと必ず緩からん。是れ昭雎の言信ならず、王必ず之を薄んぜん。」
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史記 張儀列伝夫れ易危の功を守りて彊秦の心に逆ふ、臣竊かに大王の為に之を危ぶむ。且つ夫れ秦の兵を函谷より出だして以て斉・趙を攻めざること十五年なる所以の者は、陰かに天下を合するの心有るを謀ればなり。楚嘗て秦と難を構へ、漢中に戦ひ、楚人勝たず、列侯執珪の死する者七十余人、遂に漢中を亡ふ。楚王大いに怒り、兵を興して秦を襲ひ、藍田に戦ふ。此れ所謂両虎相搏つ者なり。夫れ秦楚相敝れて韓魏全きを以て其の後を制す、計此れより危ふき者無し。願はくは大王孰々之を計れ。秦甲を下して衛の陽晋を攻めば、必ず大いに天下の匈を関さん。大王悉く兵を起こして以て宋を攻めば、数月に至らずして宋挙ぐべし、宋を挙げて東に指さば、則ち泗上の十二諸侯尽く王の有なり。凡そ天下にして信約を以て従親し相堅むる者は蘇秦なり、武安君に封ぜられ、燕に相たり、即ち陰かに燕王と謀りて斉を伐破して其の地を分かたんとす。乃ち詳りて罪有りとして出で走りて斉に入る、斉王因りて受けて之を相とす。居ること二年にして覚る、斉王大いに怒り、蘇秦を市に車裂す。夫れ一詐偽の蘇秦を以て、天下を経営し、諸侯を混一せんと欲す、其の成るべからざるも亦明らかなり。今秦と楚とは境を接し界を壌にし、固より形親の国なり。大王誠に能く臣に聴かば、臣請ふ秦の太子をして入りて楚に質たらしめ、楚の太子をして入りて秦に質たらしめ、請ふ秦の女を以て大王の箕帚の妾と為し、万室の都を効して以て湯沐の邑と為し、長く昆弟の国と為り、終身相攻伐すること無からん。臣以為へらく計此れより便なる者無しと」と。是に於いて楚王已に張儀を得て、黔中の地を出だして秦に与ふるを重り、之を許さんと欲す。屈原曰く、「前に大王張儀に欺かる、張儀至らば、臣以為へらく大王之を烹んと。今縦ひ之を殺すに忍びずとも、又其の邪説を聴くは、不可なり」と。懐王曰く、「儀を許して黔中を得るは、美利なり。後にして之に倍くは、不可なり」と。故に卒に張儀を許し、秦と親しむ。張儀楚を去り、
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