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史記 / 秦本紀

繆公聞,怒曰:「孤發兵而子沮哭吾軍,何也?」二老曰:「臣非敢沮君軍。軍行,臣子與往;臣老,遲還恐不相見,故哭耳。」二老退,謂其子曰:「汝軍即敗,必於殽阨矣。」三十三年春,秦兵遂東,更晉地,過周北門。周王孫滿曰:「秦師無禮,不敗何待!」兵至滑,鄭販賣賈人弦高,持十二牛將賣之周,見秦兵,恐死虜,因獻其牛,曰:「聞大國將誅鄭,鄭君謹修守御備,使臣以牛十二勞軍士。」秦三將軍相謂曰:「將襲鄭,鄭今已覺之,往無及已。」滅滑。滑,晉之邊邑也。當是時,晉文公喪尚未葬。太子襄公怒曰:「秦侮我孤,因喪破我滑。」遂墨衰絰,

新字:繆公聞,怒曰:「孤発兵而子沮哭吾軍,何也?」二老曰:「臣非敢沮君軍。軍行,臣子与往;臣老,遅還恐不相見,故哭耳。」二老退,謂其子曰:「汝軍即敗,必於殽阨矣。」三十三年春,秦兵遂東,更晋地,過周北門。周王孫満曰:「秦師無礼,不敗何待!」兵至滑,鄭販売賈人弦高,持十二牛将売之周,見秦兵,恐死虜,因献其牛,曰:「聞大国将誅鄭,鄭君謹修守御備,使臣以牛十二労軍士。」秦三将軍相謂曰:「将襲鄭,鄭今已覚之,往無及已。」滅滑。滑,晋之辺邑也。当是時,晋文公喪尚未葬。太子襄公怒曰:「秦侮我孤,因喪破我滑。」遂墨衰絰,

書き下し

繆公聞き、怒りて曰く、「孤兵を発して子沮みて吾が軍を哭するは、何ぞや」と。二老曰く、「臣敢へて君の軍を沮むに非ず。軍行くに、臣の子与に往く。臣老いたり、遅く還らば相見ざらんことを恐る、故に哭するのみ」と。二老退きて、其の子に謂ひて曰く、「汝の軍即し敗れなば、必ず殽の阨に於てせん」と。三十三年春、秦の兵遂に東し、晋の地を更り、周の北門を過ぐ。周の王孫満曰く、「秦の師礼無し、敗れずして何をか待たん」と。兵滑に至る。鄭の販売の賈人弦高、十二牛を持ちて将に之を周に売らんとす。秦の兵を見て、死虜を恐れ、因りて其の牛を献じて、曰く、「大国将に鄭を誅せんとすと聞く。鄭君謹んで守御の備へを修め、臣をして牛十二を以て軍士を労はしむ」と。秦の三将軍相謂ひて曰く、「将に鄭を襲はんとす。鄭今已に之を覚る、往くも及ぶ無し」と。滑を滅ぼす。滑は、晋の辺邑なり。是の時に当たり、晋の文公の喪尚ほ未だ葬らず。太子襄公怒りて曰く、「秦我が孤を侮り、喪に因りて我が滑を破る」と。遂に衰絰を墨くし、

現代語訳

穆公はこれを聞いて怒って言った。「私が兵を出すのに、おまえたちが泣いて我が軍の士気をくじくとは、どういうつもりか。」二人の老臣(百里傒と蹇叔)は言った。「私どもは君の軍の士気をくじこうというのではない。軍が出陣するのに、私どもの息子も一緒に行く。私どもは年老いて、帰りが遅くなればもう会えないのではと恐れるので、泣いているだけだ。」二人の老臣は退出すると、息子たちに言った。「おまえたちの軍がもし敗れるとすれば、必ず殽山の険しい隘路でであろう。」三十三年の春、秦の軍はついに東へ進み、晋の領地を通り、周の都の北門を通り過ぎた。周の王孫満は言った。「秦の軍は礼儀がない。負けずに何を待つというのか。」軍は滑に至った。鄭の商人の弦高が、十二頭の牛を連れて周へ売りに行こうとしていた。秦の軍を見て、殺されるか捕虜にされるかと恐れ、牛を献上して言った。「大国が鄭を討とうとしていると聞いた。鄭の君主は謹んで守りの備えを整え、私に牛十二頭を持たせて兵士の皆さまをねぎらわせたのである。」秦の三人の将軍は話し合った。「鄭を不意打ちしようとしていたのに、鄭はもう気づいている。行っても間に合わない。」そこで滑を滅ぼした。滑は晋の国境の町である。このとき、晋の文公はまだ喪中で埋葬もされていなかった。太子の襄公は怒って言った。「秦は父を亡くした私を侮り、喪中につけこんで我が滑を破った。」そこで喪服を黒く染め、

解説

秦が鄭への奇襲を企てて失敗し、殽の戦いへと向かう場面です。穆公が遠征を決めると、百里傒と蹇叔の二人の老臣は反対し、出陣を見送りながら泣きました。怒る穆公に、二人は「息子たちに二度と会えないのではと泣いているだけだ」と答え、息子たちには「負けるなら殽の隘路だ」と告げます。諫めても聞き入れられないとき、老臣たちは涙と具体的な予測で警告を残したのです。遠征軍は周の都の前を無礼に通り過ぎ、王孫満に「礼がない軍は必ず負ける」と見抜かれます。さらに鄭の商人弦高が、とっさに自分の牛を差し出して「鄭はすでに備えている」と偽り、秦の将軍たちは奇襲を断念しました。一人の商人の機転が、国を救ったのです。秦軍は腹いせに晋の辺境の滑を滅ぼし、喪中の晋を怒らせてしまいます。経験豊かな人の反対を押し切った計画は、思わぬところで綻びが出ます。そして現場の一人の機転が、大きな流れを変えることもあるのです。

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