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士道要論 / 士氣・外見より内に満ちる気力が働きを決める

士風既に正しかりし上は士氣をやしなふをもて簡要とす、士風を守るも士氣を養ふためなれど、風は外面のことなれば、いかめしといへども、ふかくたのみとはなりがたし、氣は體中にみちあふれて、火の燃るありさまなればやゝたのもし、されば、士氣振ひてこそ士風もまことに剛なるべけれ、力量普通にすぐれたりとも、氣臆すれば、敵に向ひて働くこと能はず、武藝いかほど巧なるとも、氣臆すれば、敵にのぞんで施すこと能はず、されば、氣みちてこそ智も勇も用をばなすべけれ、ゆへに馬は毛色のよきを貴はずして、かんつよきをよしとす、士はかたちのいかめしきを貴ずして、氣のつよきをもてよしとす、千軍萬馬の中に橫行するもこの氣なり、君の顔を犯して直言極諫するもこの氣なり、平居威風凜々として人におそれらるゝも、此氣中にみつるゆへなり、もし氣中にみたざれば腹ぬくるなり、腹ぬけなば腰もぬくべし、士にして腰ぬけば何の用をかなさんや、近世士風大におとろへ、柔なること婦女のごときものあり、いやしきこと商賣のごときものあり、

新字:士風既に正しかりし上は士気をやしなふをもて簡要とす、士風を守るも士気を養ふためなれど、風は外面のことなれば、いかめしといへども、ふかくたのみとはなりがたし、気は体中にみちあふれて、火の燃るありさまなればやゝたのもし、されば、士気振ひてこそ士風もまことに剛なるべけれ、力量普通にすぐれたりとも、気臆すれば、敵に向ひて働くこと能はず、武芸いかほど巧なるとも、気臆すれば、敵にのぞんで施すこと能はず、されば、気みちてこそ智も勇も用をばなすべけれ、ゆへに馬は毛色のよきを貴はずして、かんつよきをよしとす、士はかたちのいかめしきを貴ずして、気のつよきをもてよしとす、千軍万馬の中に横行するもこの気なり、君の顔を犯して直言極諫するもこの気なり、平居威風凜々として人におそれらるゝも、此気中にみつるゆへなり、もし気中にみたざれば腹ぬくるなり、腹ぬけなば腰もぬくべし、士にして腰ぬけば何の用をかなさんや、近世士風大におとろへ、柔なること婦女のごときものあり、いやしきこと商売のごときものあり、

書き下し

士風既に正しかりし上は士氣をやしなふをもて簡要とす、士風を守るも士氣を養ふためなれど、風は外面のことなれば、いかめしといへども、ふかくたのみとはなりがたし、氣は體中にみちあふれて、火の燃るありさまなればやゝたのもし、されば、士氣振ひてこそ士風もまことに剛なるべけれ、力量普通にすぐれたりとも、氣臆すれば、敵に向ひて働くこと能はず、武藝いかほど巧なるとも、氣臆すれば、敵にのぞんで施すこと能はず、されば、氣みちてこそ智も勇も用をばなすべけれ、ゆへに馬は毛色のよきを貴はずして、かんつよきをよしとす、士はかたちのいかめしきを貴ずして、氣のつよきをもてよしとす、千軍萬馬の中に橫行するもこの氣なり、君の顔を犯して直言極諫するもこの氣なり、平居威風凜々として人におそれらるゝも、此氣中にみつるゆへなり、もし氣中にみたざれば腹ぬくるなり、腹ぬけなば腰もぬくべし、士にして腰ぬけば何の用をかなさんや、近世士風大におとろへ、柔なること婦女のごときものあり、いやしきこと商賣のごときものあり、

現代語訳

士風がすでに正しくなった上は、士気を養うことが肝要です。士風を守るのも士気を養うためですが、風は外面のことなので、いかめしくても深くは頼みにしがたい。気は体の中に満ちあふれて、火が燃えるようなありさまなので、いくらか頼もしいのです。だから、士気が振るってこそ士風もまことに剛くなります。力量が人並みすぐれていても、気が臆すれば敵に向かって働けません。武芸がどれほど巧みでも、気が臆すれば敵に臨んで施せません。ですから、気が満ちてこそ、智も勇も役に立ちます。それゆえ馬は毛色のよいのを貴ばず、気性の強いのをよしとし、士は姿のいかめしいのを貴ばず、気の強いのをよしとします。千軍万馬の中を縦横に駆けるのもこの気であり、主君の顔色を犯して直言し極諫するのもこの気であり、ふだんから威風凜々として人に恐れられるのも、この気が中に満ちているからです。もし気が中に満ちていなければ、腹が抜けます。腹が抜ければ腰も抜けるでしょう。士が腰を抜かしては何の役に立てましょうか。近ごろは士風が大いに衰え、柔弱なことは婦女のようで、いやしいことは商売人のようなものがいます。

解説

見た目の威厳や肩書きより、内に満ちた気力が実際の働きを決める、という指摘です。技術や知識が高くても、気が臆すれば本番で力を出せません。職場に置き換えれば、専門性があっても、反対意見を言う場面や難しい判断を迫られる場面で縮こまれば、成果にはつながらないということです。管理職は、立ち居振る舞いを整えるだけで満足せず、上司にも率直に意見を述べる胆力を養う必要があります。同時に部下が臆さず発言できる空気をつくることも、組織の気力を保つ大切な務めです。

この章句が説くこと

士道要論斎藤拙堂気力胆力直言臆病

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