洗心洞箚記 / 卷下・第五十條
曉行忽値雨、而無簑笠、頭項迄手脚盡霑、是時心爲之動、卽方寸之虛亦復霑也、不動則與太虛之不霑乃一般、因此又悟入水不濡之理、
新字:暁行忽値雨、而無簑笠、頭項迄手脚尽霑、是時心為之動、即方寸之虚亦復霑也、不動則与太虚之不霑乃一般、因此又悟入水不濡之理、
書き下し
暁に行きて忽ち雨に値ひ、而して蓑笠無し。頭項より手脚に迄るまで尽く霑(うるほ)ふ。是の時心之が為に動けば、即ち方寸の虚も亦復た霑ふなり。動かざれば則ち太虚の霑はざると乃ち一般なり。此に因りて又水に入りて濡れざるの理を悟入す。
現代語訳
夜明けに出かけて急に雨にあい、蓑も笠もなかった。頭やうなじから手足まで、すっかり濡れた。このとき心がそのために動けば、胸の内の虚もまた濡れてしまう。動かなければ、太虚が濡れないのと同じである。これによって、また「水に入っても濡れない」という道理を悟った。
解説
朝の外出で雨に打たれた体験から、心の虚と太虚の一致を悟る短い条である。体が濡れても心が動かなければ、方寸の虚は太虚と同じく濡れない。『荘子』大宗師篇の真人の「水に入りて濡れず」を、中斎は神秘ではなく心の不動として読み替えている。「太虚に帰す」を日常の小事で確かめる中斎の工夫がよく表れる。現代でも、思わぬ不運に見舞われたとき、出来事そのものより心の動揺が人を消耗させる。濡れた事実と濡れた心を分けて見ることができる。
この章句が説くこと
太虚心虚不動修己陽明学
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