潜夫論 / 斷訟
舜敕龍以讒說殄行,震驚朕師,乃自上古患之矣。故先慎己唯舌,以元示民。孔子曰:「亂之所生也,則言語以為階。」小人不恥不仁,不畏不義,脈脈規規,常懷奸唯,昧冒前利,不顧廉恥。苟且中,後則榆解奴抵,以致禍變者,比屋是也。非唯細民為然,自封王侯貴戚豪富,尤多有之。假舉驕奢以作淫侈,高負千萬不肯償責,小民守門號哭啼呼,曾無怵惕慚怍哀矜之意。苟崇聚酒徒無行之人,傳空引滿,啁啾罵詈,晝夜鄂鄂,慢遊是好。或毆擊責主人於死亡,群盜攻剽,劫人無異。雖會赦贖,不當複得在選辟之科,而州司公府,反爭取之。且觀諸敢妄驕奢而作大責者,必非救饑寒而解困急,振貧窮而行禮義者也。鹹以崇驕奢而奉淫湎爾。春秋之義,責知誅率。孝文皇帝至寡動欲任德,然河陽侯陳信坐負六日免國。
新字:舜勅竜以讒説殄行,震驚朕師,乃自上古患之矣。故先慎己唯舌,以元示民。孔子曰:「乱之所生也,則言語以為階。」小人不恥不仁,不畏不義,脈脈規規,常懐奸唯,昧冒前利,不顧廉恥。苟且中,後則榆解奴抵,以致禍変者,比屋是也。非唯細民為然,自封王侯貴戚豪富,尤多有之。仮舉驕奢以作淫侈,高負千万不肯償責,小民守門号哭啼呼,曽無怵惕慚怍哀矜之意。苟崇聚酒徒無行之人,伝空引満,啁啾罵詈,昼夜鄂鄂,慢遊是好。或殴撃責主人於死亡,群盗攻剽,劫人無異。雖会赦贖,不当複得在選辟之科,而州司公府,反争取之。且観諸敢妄驕奢而作大責者,必非救饑寒而解困急,振貧窮而行礼義者也。鹹以崇驕奢而奉淫湎爾。春秋之義,責知誅率。孝文皇帝至寡動欲任徳,然河陽侯陳信坐負六日免国。
書き下し
舜は龍に敕するに讒説の行を殄ち、朕が師を震驚するを以てす。乃ち上古より之を患えり。故に先ず己の唯舌を慎み、以て元く民に示す。孔子曰く、「乱の生ずる所や、則ち言語以て階と為す」と。小人は不仁を恥じず、不義を畏れず、脈脈規規として、常に奸唯を懐き、前利を昧冒して、廉恥を顧みず。苟且中、後には榆解奴抵、以て禍変を致す者は、比屋是れなり。唯だ細民のみ然りと為すに非ず、自ら封ぜられし王侯貴戚豪富、尤も多く之有り。驕奢を仮挙して以て淫侈を作し、高く千万を負いて償責を肯んぜず、小民門を守り号哭啼呼するも、曾て怵惕慚怍哀矜の意無し。苟くも酒徒無行の人を崇聚し、空を伝え満を引き、啁啾罵詈し、昼夜鄂鄂として、慢遊を是れ好む。或いは責むる主人を毆撃して死亡に至らしめ、群盗攻剽して、人を劫かすこと異なる無し。赦贖に会うと雖も、当に複た選辟の科に在るを得べからず、而るに州司公府、反って争いて之を取る。且つ観るに諸そ敢えて妄りに驕奢して大責を作す者は、必ず饑寒を救いて困急を解き、貧窮を振いて礼義を行う者に非ざるなり。咸な驕奢を崇び淫湎を奉ずるのみ。春秋の義、責知誅率。孝文皇帝は至って寡欲動じて徳に任ず、然れども河陽侯陳信は六日を負うに坐して国を免ぜらる。
現代語訳
舜は龍に命じて、人を陥れる言葉や行いを絶ち、民を驚かすことをなくさせました。このことは上古から憂えられていたのです。ですから、まず自分の口を慎み、民に範を示すのです。孔子は言いました。「乱れの生まれるところは、言葉が階段になっている。」小人は不仁を恥じず、不義を恐れず、こそこそと小さく立ち回り、いつも悪だくみを抱いて、目先の利に目がくらみ、廉恥を顧みません。かりそめに取り繕い、後には身を損なって、わざわいを招く者は、家々にいくらでもいます。庶民だけがそうなのではなく、封じられた王侯や貴戚、豪富に特に多いのです。驕りと奢りを持ち上げて淫らな贅沢をし、千万もの借金を負いながら返そうとせず、小民が門を守って泣き叫んでも、少しもおそれや恥や憐れみの心がありません。酒飲みや素行の悪い人を集めて崇め、空の杯を回し満ちた杯を引き、ののしり合い、昼夜騒ぎ続け、だらしない遊びを好みます。ときには取り立てに来た主人を殴って死なせ、群盗が襲って奪うのと変わりません。恩赦や贖罪にあっても、再び選抜や登用の対象とすべきでないのに、州の役所や公府はかえって争って彼らを採ります。しかも、あえて勝手に驕り奢って大きな借金をする者は、飢えや寒さを救い、困窮を解き、貧しい人を助けて礼義を行うような者では決してありません。みな驕奢を尊び、酒色にふけっているだけです。『春秋』の義には「責知誅率」という考え方があります。孝文皇帝は欲が少なく、徳に任せて政を行いましたが、それでも河陽侯の陳信は、六日間返済を滞らせた罪で封国を失いました。
解説
この章句が説くこと
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『潜夫論』斷訟永平の時、諸侯責を負えば、輒ち削絀の罰有り。此れ其の後は皆な敢えて民に負かず、而して世は自ら節倹に、辞訟は自ずから消ゆ。今諸侯貴戚、或いは曰く赦民慎行、徳義違う無く、節を製し度を謹み、未だ嘗て責を負わず、身を潔くして規避し、志は青雲を厲ますと。或いは既に百姓を欺き負いて、上書して祖を封ぜられ、願わくは且く責を償わんと、此れ乃ち官民を残掠して、還って県官に依る者にして、其の誣罔慢易、罪は大なるは莫し。孝経に曰く、「之に陳ぶるに徳義を以てして民興り行い、之に示すに好悪を以てして民禁を知る」と。今巧偽を変じて以て美化を崇び、辞訟を息めて以て官事を閑にせんと欲せば、有行を表顕し、無状を痛誅し、文武の法を導き、詭詐の信を明らかにするに若くは莫し。今侯王貴戚、浸く広きを得ず、奸宄遂に多し、豈に謂わんや争闘辞訟有る毎に、婦女必ず此に致すかと。亦た以て伝見す、凡そ諸の禍根早く断絶せざれば、則ち或いは転じて滋蔓す、人斯くの若きか。是の故に官を原ね察するの務めて念う所以、臣主の憂労する所以は、其の本は皆な郷亭の治むる所の者、太半は詐欺の生ずる所なり。故に曰く、其の原の少なきを知れば則ち奸は塞ぎ易く、其の守の約なるを見れば則ち政は持し易しと。或いは婦人の行いは、令鮮潔を貴ぶ。
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『潜夫論』浮侈此れ等の儔は、既に農工女を助長せず、世に益有ること無くして、坐して嘉穀を食らい、白日を消費し、成功を毀敗し、見るを以て破と為し、牢きを以て行くと為し、大なるを以て小と為し、易きを以て難と為す、皆な禁ずべき者なり。山林も野火に給する能わず、江海も漏卮に灌ぐ能わず。孝文皇帝は躬ら弋綈を衣、足は革寫を履み、韋を以て剣を帯び、上書の囊を集めて、以て殿の帷と為す。盛夏の苦暑にも、一台を起こさんと欲し、直を計るに百万、以て奢費と為して作らず。今京師の貴戚は、衣服飲食、車輿の文飾、廬舎、皆な王制に過ぎ、上を僭すること甚し。従奴仆妾も、皆な葛子升越、筒中の女布、細致の綺縠、水紈錦繡、犀象珠玉、琥珀玳瑁、石山隠飾、金銀錯鏤、獐麂の履寫、文組彩禖を服し、驕奢して主を僭し、転た相い誇詫す。箕子の晞う所、今は仆妾に在り。富貴の嫁娶には、車軿各々十、騎奴侍僮、轂を夾みて節引す。富める者は競いて相い過ぎんと欲し、貧しき者は及ばざるを恥ず。是の故に一饗の費やす所、終身の本業を破る。
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『潜夫論』浮侈夫れ貧は富に生じ、弱は強に生じ、乱は治に生じ、危は安に生ず。是の故に明王の民を養うや、之を憂い之を労い、之を教え之を誨え、微を慎み萌を防ぎ、以て其の邪を断つ。故に《易》は「節するに制度を以てし、財を傷らず、民を害せず」を美とす。《七月》の詩に「大小之を教え、終りて復た始む」と。此に由りて之を観れば、民は固より恣にすべからず。今民は衣服に奢り、飲食に侈り、口舌を事とし、而して調欺を習い、以て相い詐紿すること、比肩して是れなり。或いは奸を謀り任に合するを以て業と為し、或いは遊敖博弈を以て事と為し、或いは丁夫世々犁鋤を伝えず、丸を懐き弾を挟み、手を携えて遨遊す。或いは好土を取り、丸を作りて之を弾に売る、外は以て寇を禦ぐべからず、内は以て鼠を禁ずるに足らず。晋の霊之を好み、以て其の悪を増す、未だ嘗て志義の士の、操りて以て遊ぶを喜ぶ者を聞かず。唯だ無心の人、群豎小子のみ、接して之を持ち、妄りに烏雀を弾き、百発して一を得ず、而して反って面目に中つ、此れ最も無用にして害有るなり。或いは坐して竹簧を作り、其の頭を削鋭し、傷害の象有り、傅くるに蠟蜜を以てし、甘舌の類有り、皆吉祥善応に非ず。或いは泥車瓦狗、馬騎倡排、諸もろの戯弄小児の具を作りて以て巧詐し、詩は其の麻を績まざるを刺る。
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『潜夫論』浮侈今、枿畢の郊、文武の陵、南城の塁、曾皙の塚を按ずるに、周公は忠ならざるに非ず、曾子は孝ならざるに非ず。以為らく、君を褒め父を顕すは、財を聚むるに在らず、名を揚げ祖を顕すは、車馬に在らず、と。孔子曰く、「貨財多ければ徳を傷り、弊るれば則ち礼を没す」と。晋の霊は賦を厚くして以て牆を雕り、春秋は以て君に非ずと為す。華元・楽呂は文公を厚葬し、春秋は以て臣ならずと為す。況んや群司士庶、乃ち主上を僭侈し、天道に過ぐべけんや。景帝の時、原侯衛不害は葬の律に過ぐるに坐して国を奪われ、明帝の時、桑民摐陽侯は塚の製に過ぐるに坐して髡削せらる。今天下は浮侈して本を離れ、僭奢して上に過ぐ、亦た已に甚だし。凡そ諸もろの譏る所、皆な民の性に非ず、而して競い務むる者は、乱政薄化の之をして然らしむるなり。王者は世を統べ民を観て教えを設け、乃ち能く風を変え俗を易え、以て太平を致す。
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『潜夫論』斷訟五代は礼を同じくせず、三家は教えを同じくせず。其の苟くも相反するに非ず、蓋し世推移して俗化異なればなり。俗化異なれば則ち乱の原殊なり、故に三家世に符して、皆な定法を革む。高祖は三章の約を製し、孝文は克膚の刑を除く。是の故に殺傷盗贓に非ざるより、文罪の法は、軽重常無く、各おの時宜に随い、要は用を足し善を勧め悪を消すを取るのみ。夫れ法を製するの意は、藩籬溝塹を為して、以て防ぐ有るが若し。禽獣の尤も数しば犯す可き者を択びて、深厚を加う。今奸宄は衆しと雖も、然れども其の原は少なし。君事は繁しと雖も、然れども其の守は約なり。其の原の少なきを知れば、奸は塞ぎ易く、其の守の約なるを見れば、政は治め易し。其の原を塞げば則ち奸宄絶え、其の術を施せば則ち遠近治まる。今一歳に獄を断ずること万を以て計うと雖も、然れども辞訟の弁、闘賊の発、郷部の治、獄官の治むる者、其の状は一なり。本は皆な民の誠信ならずして数しば相欺紿するに起こる。
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『潜夫論』斷訟今以に適きて、顔無く複た甲の門に入る、県官之を原し、故に令して既に入れる家に留まらしむ。必ず未だ乱の本原を昭らかにせず、貞潔の生ずる所の者の言を惟わざるなり。貞女は二心して以て数しば変ぜず、故に匪石の詩有り。行いを枉げて以て憂いを遺さず、故に帰寧の志を美す。一たび許して改めざるは、蓋し貞潔を長じ父兄を寧んずる所以なり。其の此に循わずして其の徳を二三にする者は、此れ本より廉恥無きの家、貞専ならざるの所なり。然る人の若きは、又た何の醜吝せん。父兄を軽薄にし、婦女を淫僻にし、義理を惟わず、苟くも一徳を疏にし、本を借りて生を治め、逃亡して中に抵り、卒に以て刳腹芟頸滅宗の禍を致す者は、何れの所にか無からん。先王は人情の喜怒の能く已む所の者に因りて、則ち之が為に礼製を立てて徳譲を崇び、人の已む可き所の者は、則ち之が為に法禁を設けて賞罰を明らかにす。今市売に相欺く勿れ、婚姻に相詐る無かれとは、人情の能くす可からざる所に非ざるなり。是の故に義を立て法に順い、其の原を遏絶するに若かず。初めは一人に慚吝すと雖も、其の終わりや長く万世に利あり。小しく懲らして大いに戒む、此れ小を全うして頑凶を済う所以なり。
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