潜夫論 / 浮侈
夫貧生於富,弱生於強,亂生於治,危生於安。是故明王之養民也,憂之勞之,教之誨之,慎微防萌,以斷其邪。故《易》美「節以制度,不傷財,不害民」。《七月詩》「大小教之,終而復始」。由此觀之,民固不可恣也。今民奢衣服,侈飲食,事口舌,而習調欺,以相詐紿,比肩是也。或以謀奸合任為業;或以遊敖博弈為事;或丁夫世不傳犁鋤,懷丸挾彈,攜手遨遊;或取好土,作丸賣之於彈,外不可以禦寇,內不足以禁鼠。晉靈好之,以增其惡,未嘗聞誌義之士,喜操以遊者也。唯無心之人,群豎小子,接而持之,妄彈烏雀,百發不得一,而反中面目,此最無用而有害也。或坐作竹簧,削銳其頭,有傷害之象,傅以蠟蜜,有甘舌之類,皆非吉祥善應。或作泥車瓦狗,馬騎倡排,諸戲弄小兒之具以巧詐,詩刺不績其麻。
新字:夫貧生於富,弱生於強,乱生於治,危生於安。是故明王之養民也,憂之労之,教之誨之,慎微防萌,以断其邪。故《易》美「節以制度,不傷財,不害民」。《七月詩》「大小教之,終而復始」。由此観之,民固不可恣也。今民奢衣服,侈飲食,事口舌,而習調欺,以相詐紿,比肩是也。或以謀奸合任為業;或以遊敖博弈為事;或丁夫世不伝犁鋤,懐丸挟弾,攜手遨遊;或取好土,作丸売之於弾,外不可以禦寇,内不足以禁鼠。晋霊好之,以增其悪,未嘗聞誌義之士,喜操以遊者也。唯無心之人,群豎小子,接而持之,妄弾烏雀,百発不得一,而反中面目,此最無用而有害也。或坐作竹簧,削鋭其頭,有傷害之象,傅以蝋蜜,有甘舌之類,皆非吉祥善応。或作泥車瓦狗,馬騎倡排,諸戯弄小児之具以巧詐,詩刺不績其麻。
書き下し
夫れ貧は富に生じ、弱は強に生じ、乱は治に生じ、危は安に生ず。是の故に明王の民を養うや、之を憂い之を労い、之を教え之を誨え、微を慎み萌を防ぎ、以て其の邪を断つ。故に《易》は「節するに制度を以てし、財を傷らず、民を害せず」を美とす。《七月》の詩に「大小之を教え、終りて復た始む」と。此に由りて之を観れば、民は固より恣にすべからず。今民は衣服に奢り、飲食に侈り、口舌を事とし、而して調欺を習い、以て相い詐紿すること、比肩して是れなり。或いは奸を謀り任に合するを以て業と為し、或いは遊敖博弈を以て事と為し、或いは丁夫世々犁鋤を伝えず、丸を懐き弾を挟み、手を携えて遨遊す。或いは好土を取り、丸を作りて之を弾に売る、外は以て寇を禦ぐべからず、内は以て鼠を禁ずるに足らず。晋の霊之を好み、以て其の悪を増す、未だ嘗て志義の士の、操りて以て遊ぶを喜ぶ者を聞かず。唯だ無心の人、群豎小子のみ、接して之を持ち、妄りに烏雀を弾き、百発して一を得ず、而して反って面目に中つ、此れ最も無用にして害有るなり。或いは坐して竹簧を作り、其の頭を削鋭し、傷害の象有り、傅くるに蠟蜜を以てし、甘舌の類有り、皆吉祥善応に非ず。或いは泥車瓦狗、馬騎倡排、諸もろの戯弄小児の具を作りて以て巧詐し、詩は其の麻を績まざるを刺る。
現代語訳
そもそも貧は富から生まれ、弱は強から生まれ、乱は治から生まれ、危は安から生まれます。だから明君は民を養うにあたって、気にかけ、いたわり、教え、諭し、小さなうちに慎んで芽生えを防ぎ、邪な心を断ちました。それゆえ『易』は「制度によって節度を保ち、財を損なわず、民を害さない」ことをよしとし、『七月』の詩にも「大人も子どもも教え、終わればまた始める」とあります。こう見ると、民は勝手気ままにさせてはならないのです。ところが今の民は衣服に奢り、飲食に贅を尽くし、口先の技にふけって、人を欺くことを習い、互いにだまし合う者が肩を並べるほどいます。悪事を企んで取り入ることを生業とする者、遊び歩いたり博打や碁に打ち込む者、働き盛りの男が代々鋤や鍬を継がず、弾丸を懐に弓を脇に、連れ立って遊び回る者もいます。良い土を選んで弾丸を作り、弾き弓用に売る者もいますが、外では賊を防げず、家の中では鼠も止められません。晋の霊公がこれを好んで悪を増しましたが、志と義のある士が好んで手にして遊んだとは聞いたことがありません。ただ思慮のない子どもたちが手にして、むやみに鳥や雀を狙い、百発しても一羽も当たらず、かえって自分の顔に当てるのです。これは最も無用で害のあるものです。また、座って竹の簧を作り、先を鋭く削って傷つける形にし、蝋や蜜を塗って甘い舌のようにするものがあり、どれも吉祥や良い応報にはなりません。さらに泥の車や瓦の犬、馬に乗る人形、芸人の人形など、子どもの遊び道具を巧みに作って人を欺く者もいて、詩は麻を紡がないことを刺っています。
解説
この章句が説くこと
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『潜夫論』浮侈王者は四海を以て一家と為し、兆民を以て通計と為す。一夫耕さざれば、天下必ず其の饑を受くる者あり。一婦織らざれば、天下必ず其の寒を受くる者あり。今、世を挙げて農桑を舎てて商賈に趨り、牛馬車輿は道路に填塞し、遊手を功と為す者は都邑に充盈す。本を治むる者は少なく、浮食する者は衆し。商邑翼翼として、四方是れ極とす。今、洛陽を察するに、浮末の者は農夫に什し、虚偽遊手の者は浮末に什す。是れ則ち一夫耕せば、百人之を食い、一婦桑すれば、百人之を衣る。一を以て百に奉ず、孰か能く之を供せん。天下百郡千県、市邑万もて数うるも、類ね皆な此くの如し。本末何ぞ相供するに足らん。則ち民安んぞ饑寒せざるを得ん。饑寒並び至れば、則ち安んぞ非を為さざるを得ん。非を為せば則ち奸宄あり。奸宄繁多なれば、則ち吏安んぞ嚴酷なるなきを得ん。嚴酷数ば加われば、則ち下安んぞ愁怨なきを得ん。愁怨する者多ければ、則ち咎征並び臻り、下民聊らなく、則ち上天災いを降し、則ち国危うし。
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『潜夫論』浮侈此れ等の儔は、既に農工女を助長せず、世に益有ること無くして、坐して嘉穀を食らい、白日を消費し、成功を毀敗し、見るを以て破と為し、牢きを以て行くと為し、大なるを以て小と為し、易きを以て難と為す、皆な禁ずべき者なり。山林も野火に給する能わず、江海も漏卮に灌ぐ能わず。孝文皇帝は躬ら弋綈を衣、足は革寫を履み、韋を以て剣を帯び、上書の囊を集めて、以て殿の帷と為す。盛夏の苦暑にも、一台を起こさんと欲し、直を計るに百万、以て奢費と為して作らず。今京師の貴戚は、衣服飲食、車輿の文飾、廬舎、皆な王制に過ぎ、上を僭すること甚し。従奴仆妾も、皆な葛子升越、筒中の女布、細致の綺縠、水紈錦繡、犀象珠玉、琥珀玳瑁、石山隠飾、金銀錯鏤、獐麂の履寫、文組彩禖を服し、驕奢して主を僭し、転た相い誇詫す。箕子の晞う所、今は仆妾に在り。富貴の嫁娶には、車軿各々十、騎奴侍僮、轂を夾みて節引す。富める者は競いて相い過ぎんと欲し、貧しき者は及ばざるを恥ず。是の故に一饗の費やす所、終身の本業を破る。
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『潜夫論』浮侈女や婆娑たり、今多く中饋を修めず、其の蚕織を休め、而して起ちて巫祝を学び、鼓舞して神に事え、以て細民を欺誣し、百姓を熒惑す。婦女の羸弱、疾病の家は、憂いを懐きて憒憒たり、皆な恐懼し易く、奔走して時に便にし、正宅を去離し、路側に崎嶇として、上は漏れ下は湿り、風寒に傷られ、奸人の利する所、賊盗の中る所と為るに至らしむ。禍を益し崇を益し、以て重きを致す者、勝げて数うべからず。或いは医薬を棄て、更に往きて神に事え、故に死亡に至る。自ら巫の欺誤する所と為るを知らず、乃ち反って巫に事うるの晩きを恨む、此れ細民を熒惑するの甚だしき者なり。或いは好き繒を裁ち、疏頭を作為し、工をして采画せしめ、人を雇いて祝を書せしめ、虚飾の巧言もて、多福を邀えんと欲す。或いは繒彩を裂き拆き、裁ること広さ数分、長さ各々五寸、縫繪して之を佩ぶ。或いは彩糸を紡ぎて縻ぎ、断截して以て臂に繞らす、此れ長く吉凶に益無くして、空しく繒糸を残滅し、小民を縈悸し、綺縠を剋削し、寸ごとに八采を竊み、以て楡葉の窮まり無きを成す。水波の文、砕刺縫紩し、詐りて笥囊と為し、裙䙏衣被とし、繒百縑を費やし、功を用いること十倍す。
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『潜夫論』浮侈古は必ず命民有り、然る後に乃ち繒彩を衣て車馬に乗るを得たり。今は既に尽くは古に復する能わざるも、細民は誠に須いざるべし、乃ち古昔の孝子を逾ゆ。衣は必ず細致、履は必ず獐麂、組は必ず文采、襪を飾るに必ず鋋此、車馬を校飾し、奴婢を多く畜う。諸もろ此くの若くなる能う者は、既に穀を生ぜず、又た坐して蠧賊と為るなり。子曰く、「古の葬る者は、厚く之に衣するに薪を以てし、之を中野に葬り、封せず樹えず、喪期に時無し、後世の聖人之を易うるに棺槨を以てす」と。桐木もて棺と為し、葛采もて緘と為し、下は泉に及ばず、上は臭を泄らさず。後世は楸梓槐柏狖霡を以て、各々方土の出す所を取り、膠漆分かち致し、釘細く要は削り除き鏟り靡し、際会を見ず、其の堅きは恃むに足り、其の用は任ずるに足る、此くの如くにして可なり。其の後京師の貴戚は、必ず江南の檽梓豫章楩楠を欲し、辺遠の下土も、亦た競いて相い仿効す。
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『潜夫論』務本夫れ天の道を用い、地の利を分ち、六畜は時に生じ、百物は野に聚まる、此れ国を富ます本なり。遊業末事以て民利を収むるは、此れ邦を貧しくする原なり。忠信謹慎は、此れ徳義の基なり。虚無譎詭は、此れ乱道の根なり。故に力田は国を富ます所以なり。今民農桑を去り、遊業に赴き、披いて衆利を采り、之を一門に聚む、私家に於いて富む有りと雖も、然れども公計は愈いよ貧し。百工は、器を備えしむる所の者なり。器は事に便なるを以て善と為し、膠固なるを以て上と為す。今工は雕琢の器を造るを好み、巧偽もて之を飾り、以て民を欺き賄を取る。物は用に任ずるを以て要と為し、堅牢なるを以て資と為す。今商は競いて無用の貨を鬻ぎ、極侈の弊を淫にし、以て民を惑わし産を取る、淫商に於いて得有りと雖も、然れども国計は愈いよ失う。此の三者は、外は勤力して家を富ますの私名有りと雖も、内は民を損ない国を貧しくするの公実有り。故に政を為す者は明らかに工商を督し、淫偽せしむること勿れ。遊業を困辱し、利を擅にせしむること勿れ。本農を寛仮して学士を寵遂すれば、則ち民富みて国平らかなり。夫れ教訓は、道術を遂げて徳義を崇ぶ所以なり。
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