潜夫論 / 浮侈
王者以四海為一家,以兆民為通計。一夫不耕,天下必受其饑者;一婦不織,天下必受其寒者。今舉世舍農桑,趨商賈,牛馬車輿,填塞道路,遊手為功,充盈都邑。治本者少,浮食者眾,商邑翼翼,四方是極。今察洛陽,浮末者什於農夫,虛偽遊手者什於浮末。是則一夫耕,百人食之;一婦桑,百人衣之。以一奉百,孰能供之?天下百郡千縣,市邑萬數,類皆如此,本末何足相供?則民安得不饑寒?饑寒並至,則安能不為非?為非則奸宄,奸宄繁多,則吏安能無嚴酷?嚴酷數加,則下安能無愁怨?愁怨者多,則咎征並臻,下民無聊,則上天降災,則國危矣!
新字:王者以四海為一家,以兆民為通計。一夫不耕,天下必受其饑者;一婦不織,天下必受其寒者。今舉世舎農桑,趨商賈,牛馬車輿,填塞道路,遊手為功,充盈都邑。治本者少,浮食者衆,商邑翼翼,四方是極。今察洛陽,浮末者什於農夫,虚偽遊手者什於浮末。是則一夫耕,百人食之;一婦桑,百人衣之。以一奉百,孰能供之?天下百郡千県,市邑万数,類皆如此,本末何足相供?則民安得不饑寒?饑寒並至,則安能不為非?為非則奸宄,奸宄繁多,則吏安能無厳酷?厳酷数加,則下安能無愁怨?愁怨者多,則咎征並臻,下民無聊,則上天降災,則国危矣!
書き下し
王者は四海を以て一家と為し、兆民を以て通計と為す。一夫耕さざれば、天下必ず其の饑を受くる者あり。一婦織らざれば、天下必ず其の寒を受くる者あり。今、世を挙げて農桑を舎てて商賈に趨り、牛馬車輿は道路に填塞し、遊手を功と為す者は都邑に充盈す。本を治むる者は少なく、浮食する者は衆し。商邑翼翼として、四方是れ極とす。今、洛陽を察するに、浮末の者は農夫に什し、虚偽遊手の者は浮末に什す。是れ則ち一夫耕せば、百人之を食い、一婦桑すれば、百人之を衣る。一を以て百に奉ず、孰か能く之を供せん。天下百郡千県、市邑万もて数うるも、類ね皆な此くの如し。本末何ぞ相供するに足らん。則ち民安んぞ饑寒せざるを得ん。饑寒並び至れば、則ち安んぞ非を為さざるを得ん。非を為せば則ち奸宄あり。奸宄繁多なれば、則ち吏安んぞ嚴酷なるなきを得ん。嚴酷数ば加われば、則ち下安んぞ愁怨なきを得ん。愁怨する者多ければ、則ち咎征並び臻り、下民聊らなく、則ち上天災いを降し、則ち国危うし。
現代語訳
王者は四海を一つの家とし、万民をまとめて数えます。一人の男が耕さなければ、天下に必ず飢えを受ける者が出ます。一人の女が織らなければ、天下に必ず寒さを受ける者が出ます。ところが今、世を挙げて農桑を捨てて商売に走り、牛馬や車は道路を埋め、遊んでばかりで功を立てたという者が都や町に満ちています。本業を治める者は少なく、無駄に食う者が多いのです。商業の町は整い、四方の人々が目指す先になっています。いま洛陽を観察すると、末業に浮かれる者は農夫の十倍、虚偽を行い遊び歩く者は末業の者の十倍です。これでは一人の男が耕せば百人がこれを食べ、一人の女が桑を育てれば百人がこれを着ることになります。一人で百人を養うことが、誰にできましょうか。天下の百郡千県、市や町は万を数えますが、おおむねみなこのようです。本業と末業で、どうして互いに足りましょうか。それなら民はどうして飢え寒さに苦しまずにいられましょう。飢えと寒さが重なれば、どうして悪事をなさずにいられましょう。悪事をなせば奸宄が生じます。奸宄が増えれば、役人はどうして厳しく酷くならずにいられましょう。厳酷さがしばしば加われば、民はどうして愁い怨まずにいられましょう。愁い怨む者が多ければ、とがめの兆しがそろって訪れ、下の民が頼りとするものを失えば、天が災いを降し、国は危うくなるのです。
解説
この章句が説くこと
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『潜夫論』浮侈夫れ貧は富に生じ、弱は強に生じ、乱は治に生じ、危は安に生ず。是の故に明王の民を養うや、之を憂い之を労い、之を教え之を誨え、微を慎み萌を防ぎ、以て其の邪を断つ。故に《易》は「節するに制度を以てし、財を傷らず、民を害せず」を美とす。《七月》の詩に「大小之を教え、終りて復た始む」と。此に由りて之を観れば、民は固より恣にすべからず。今民は衣服に奢り、飲食に侈り、口舌を事とし、而して調欺を習い、以て相い詐紿すること、比肩して是れなり。或いは奸を謀り任に合するを以て業と為し、或いは遊敖博弈を以て事と為し、或いは丁夫世々犁鋤を伝えず、丸を懐き弾を挟み、手を携えて遨遊す。或いは好土を取り、丸を作りて之を弾に売る、外は以て寇を禦ぐべからず、内は以て鼠を禁ずるに足らず。晋の霊之を好み、以て其の悪を増す、未だ嘗て志義の士の、操りて以て遊ぶを喜ぶ者を聞かず。唯だ無心の人、群豎小子のみ、接して之を持ち、妄りに烏雀を弾き、百発して一を得ず、而して反って面目に中つ、此れ最も無用にして害有るなり。或いは坐して竹簧を作り、其の頭を削鋭し、傷害の象有り、傅くるに蠟蜜を以てし、甘舌の類有り、皆吉祥善応に非ず。或いは泥車瓦狗、馬騎倡排、諸もろの戯弄小児の具を作りて以て巧詐し、詩は其の麻を績まざるを刺る。
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『潜夫論』務本夫れ天の道を用い、地の利を分ち、六畜は時に生じ、百物は野に聚まる、此れ国を富ます本なり。遊業末事以て民利を収むるは、此れ邦を貧しくする原なり。忠信謹慎は、此れ徳義の基なり。虚無譎詭は、此れ乱道の根なり。故に力田は国を富ます所以なり。今民農桑を去り、遊業に赴き、披いて衆利を采り、之を一門に聚む、私家に於いて富む有りと雖も、然れども公計は愈いよ貧し。百工は、器を備えしむる所の者なり。器は事に便なるを以て善と為し、膠固なるを以て上と為す。今工は雕琢の器を造るを好み、巧偽もて之を飾り、以て民を欺き賄を取る。物は用に任ずるを以て要と為し、堅牢なるを以て資と為す。今商は競いて無用の貨を鬻ぎ、極侈の弊を淫にし、以て民を惑わし産を取る、淫商に於いて得有りと雖も、然れども国計は愈いよ失う。此の三者は、外は勤力して家を富ますの私名有りと雖も、内は民を損ない国を貧しくするの公実有り。故に政を為す者は明らかに工商を督し、淫偽せしむること勿れ。遊業を困辱し、利を擅にせしむること勿れ。本農を寛仮して学士を寵遂すれば、則ち民富みて国平らかなり。夫れ教訓は、道術を遂げて徳義を崇ぶ所以なり。
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『潜夫論』浮侈此れ等の儔は、既に農工女を助長せず、世に益有ること無くして、坐して嘉穀を食らい、白日を消費し、成功を毀敗し、見るを以て破と為し、牢きを以て行くと為し、大なるを以て小と為し、易きを以て難と為す、皆な禁ずべき者なり。山林も野火に給する能わず、江海も漏卮に灌ぐ能わず。孝文皇帝は躬ら弋綈を衣、足は革寫を履み、韋を以て剣を帯び、上書の囊を集めて、以て殿の帷と為す。盛夏の苦暑にも、一台を起こさんと欲し、直を計るに百万、以て奢費と為して作らず。今京師の貴戚は、衣服飲食、車輿の文飾、廬舎、皆な王制に過ぎ、上を僭すること甚し。従奴仆妾も、皆な葛子升越、筒中の女布、細致の綺縠、水紈錦繡、犀象珠玉、琥珀玳瑁、石山隠飾、金銀錯鏤、獐麂の履寫、文組彩禖を服し、驕奢して主を僭し、転た相い誇詫す。箕子の晞う所、今は仆妾に在り。富貴の嫁娶には、車軿各々十、騎奴侍僮、轂を夾みて節引す。富める者は競いて相い過ぎんと欲し、貧しき者は及ばざるを恥ず。是の故に一饗の費やす所、終身の本業を破る。
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『潜夫論』務本凡そ人の大体を為すは、末を抑えて本を務むるより善きは莫く、本を離れて末を飾るより不善なるは莫し。夫れ国を為むる者は民を富ますを以て本と為し、学を正すを以て基と為す。民富みて乃ち教うべく、学正しくして乃ち義を得。民貧しければ則ち善に背き、学淫なれば則ち詐偽す。学に入れば則ち乱れず、義を得れば則ち忠孝なり。故に明君の法は、此の二者を務めて、以て太平の基を成し、休征の祥を致す。夫れ民を富ます者は農桑を以て本と為し、遊業を以て末と為す。百工は用を致すを以て本と為し、巧飾を以て末と為す。商賈は貨を通ずるを以て本と為し、奇を鬻ぐを以て末と為す。三者は本を守り末を離るれば、則ち民富む。本を離れ末を守れば、則ち民貧し。貧しければ則ち阨しみて善を忌み、富めば則ち楽しみて教うべし。教訓する者は道義を以て本と為し、巧弁を以て末と為す。辞語は信順を以て本と為し、詭麗を以て末と為す。列士は孝悌を以て本と為し、交遊を以て末と為す。孝悌は致養を以て本と為し、華観を以て末と為す。人臣は忠正を以て本と為し、媚愛を以て末と為す。五者は本を守り末を離るれば、則ち仁義興る。本を離れ末を守れば、則ち道徳崩る。本を慎み末を略するは猶お可なり、本を舎てて末を務むれば則ち悪し。
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『潜夫論』浮侈女や婆娑たり、今多く中饋を修めず、其の蚕織を休め、而して起ちて巫祝を学び、鼓舞して神に事え、以て細民を欺誣し、百姓を熒惑す。婦女の羸弱、疾病の家は、憂いを懐きて憒憒たり、皆な恐懼し易く、奔走して時に便にし、正宅を去離し、路側に崎嶇として、上は漏れ下は湿り、風寒に傷られ、奸人の利する所、賊盗の中る所と為るに至らしむ。禍を益し崇を益し、以て重きを致す者、勝げて数うべからず。或いは医薬を棄て、更に往きて神に事え、故に死亡に至る。自ら巫の欺誤する所と為るを知らず、乃ち反って巫に事うるの晩きを恨む、此れ細民を熒惑するの甚だしき者なり。或いは好き繒を裁ち、疏頭を作為し、工をして采画せしめ、人を雇いて祝を書せしめ、虚飾の巧言もて、多福を邀えんと欲す。或いは繒彩を裂き拆き、裁ること広さ数分、長さ各々五寸、縫繪して之を佩ぶ。或いは彩糸を紡ぎて縻ぎ、断截して以て臂に繞らす、此れ長く吉凶に益無くして、空しく繒糸を残滅し、小民を縈悸し、綺縠を剋削し、寸ごとに八采を竊み、以て楡葉の窮まり無きを成す。水波の文、砕刺縫紩し、詐りて笥囊と為し、裙䙏衣被とし、繒百縑を費やし、功を用いること十倍す。
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『新論』國體下大廈崇甍、靡麗を窮極し、工商の徒、間民及び僧徒を仰ぎて以て自ら衣食する者も、亦尠からずと為す。乞丐の類、其の業を世々にし、以て子を抱き孫を長ずる者、天下其の幾何なるを知らず。博徒閭閻に横行するもの、又其の幾何なるを知らず。巫毉卜筮に仮りて、以て民を誑き財を要むる者、幾何なるを知らず。俳優雑劇、又幾何なるを知らず。其の冗も亦甚だし。而して天下の米穀を銷耗する所以の者、酒・餅餌・麺の類の若き、已に枚挙すべからず。米穀都会に雑遝し、四方より運輸して、火災の燬く所、波濤の没する所も、亦枚挙に勝へず。其の農功を妨ぐる所以の者、茶・蔫の若き、紅茜・蕉・梨の属の若きも、亦勝げて数ふべからず。夫れ浮食の民彼の如く其れ衆く、米穀を糜し農功を妨ぐること此の如く其れ夥しくして、年穀も亦甚だしくは豊穠ならず。然るに天下常に穀の多きに困しみ、粒米狼戻して、天下貧に困しむ者、亦異とすべきなり。
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